~絶頂の末~
鉄骨に寄り掛かって立った僕の膝が割られた。
僕は抵抗もせず言葉も発せず、ユノになされるがままだった。
僕の中に挿れて欲しくて仕方がなかった。
昨日味わった、ユノの2本の指が生んだ快感をもう一度味わいたい。
ユノの手首をつかんで、僕の尻に導く。
全身の血流が脈動する音が、うるさいほど感じられて、まるで全身が心臓になったかのようだ。
もつれる指でウエストを緩め、下着もデニムパンツもまとめて膝まで下ろした。
「挿れて...挿れてよ...!」
尻を突き出して懇願した。
「昨日の今日には無理だよ」
「いいから...!」
切羽詰まった僕の口調に、ユノは呆れたように言う。
「焦ってできるものじゃないんだ」
「あ...!」
ぴとり、と僕の敏感な箇所に、ユノの冷たい指先が押し当てられた。
「ふっ...ううぅ...」
自分でも初めて聞くような、低い唸り声が出た。
「...力を抜け」
「...ぅん...」
大きく息を吐くごとに、僕のあそこはユノの指を飲み込んでいく。
「いい子だ」
「...はぁ...あぁぁ...」
「昨夜...自分でいじった?」
「......」
その通りだ。
昨日、ユノの指は僕の肉体に潜んだ...ユノと出逢わなかったら決して暴かれることのなかった...スイッチを押した。
ユノの指を想って、あの時の記憶を手繰り寄せようと、自身の指をあそこに埋めてみた。
固く閉じた入口に、そうだよな、そう簡単には受け入れてくれないことくらい、経験のない僕だって知っている。
それなのに、ユノの侵入はあっさりと許して、ひと撫ぜだけで昇天しそうになった。
ユノに触れられると、僕の全身から力が抜け、彼の全てを受け入れてしまうのだ。
どうしても奥まで届かない。
僕のぎこちない指使いじゃ、ぞわりとした痺れを覚えただけで、全然足りなかった。
欲だけはふつふつと沸くばかりで、欲求不満ばかりたぎらせて、悶々とした夜を過ごしたんだった。
「...っぐっ...!」
ぐるりとかき回されて、おかしな呻きを漏らしてしまう。
「っぐ...ん...」
この苦しい感じは...2本どころじゃない。
「すごいね、チャンミン。
2日目でこんなに柔らかくなって。
普通じゃないよ。
...やらしいね」
辱める言葉に、僕の中はユノの指を締め付けるのだ。
「うねってる...。
チャンミンのここは、女のものみたいだ」
ひやりとしたユノの頬が重なり、囁かれる。
「4本目...は、苦しいかな?
もっと深くかがめよ」
ユノの命令に従い、一歩後ろに下がり頭を落として尻を突き出した。
僕の後ろがどうなっているのか...押し広げられた口にふぅっと息を吹きつけられて、背筋が震える。
前がどうなっているのか...確かめる余裕はない。
僕の中でユノの指は巧みにうごめく。
「...んあっ...あー!」
一か所、意識がとびそうになる箇所があって、僕の反応を愉しむかのように、不意打ちにそこを刺激する。
「あ、ああぁぁっ...あっ、ああぁぁ...!」
かと思えば、そこばかりをぐりぐりと刺激されて、場内に僕の叫び声が響き渡る。
「はあ...はぁ...もう、ダメ...やめて...ダメ...もう」
がくがくになった膝に、立っているのがやっとだった。
「突っ込んでやりたいところだけど...」
つかんでいた鉄骨を離してしまい、支えを失った僕はユノによって抱きとめられた。
「可哀想に...」
おどけているのか、憐れんでいるのか、ユノに頭を撫ぜられた。
ユノの胸に頭をもたせかけ、乱れた呼吸を整えた。
涙と鼻水を拭われて初めて、泣きじゃくっていた自分を知ったのだ。
快感が涙腺を緩ませたのだろう。
「指だけでこんなになっちゃって...可哀そうなチャンミン」
ユノに抱き上げられた僕は、あの場所...マットレスまで運ばれる。
「悪いけど、俺は残酷だから、こんな程度で解放してやるつもりはないんだ」
マットレスに下ろされ、膝まで落ちたボトムスを引き上げた。
「...あ」
ぺちゃりと腹を濡らすもの...Tシャツの裾に気付き、どうやら僕はいつの間にか達していたようだった。
前を刺激しないでイクことができるなんて...驚きだった。
「...これ、どうした?」
ユノの指が、僕の腕に巻かれた包帯に触れた。
「ああ、これは...」
昼間トタン板にひっかけて傷を負った件を話すと、ユノは
「包帯を外して見せて」
と、耳を疑うようなことを言った。
「チャンミンの怪我をしたところが見たい」
(やっぱりユノは頭がおかしい人なのかもしれない。
傷口が見たいだって?)
「見せて」
僕の隣に腰を下ろしたユノへ、怪我をした腕を差し出した。
そして、懐中電灯で自分の腕を照らしながら、包帯をゆっくりと解いていくユノの指の動きをくいいるように見た。
「眩しい!
照らすな!」
苛立ったユノの声に、僕は慌てて懐中電灯の向きを脇にずらした。
テープを剥がすため、皮膚に爪が立てられる感触に鳥肌がたった。
僕の傷に触れないように ひと巻きひと巻き包帯を解いていく行為を官能的だと思った。
ユノのまつ毛が震え、瞳がキラキラと光っていた。
ユノの温かい息が僕の腕にかかり、さらに鳥肌がたった。
傷を覆っていたガーゼが取り除かれた時、ユノの瞳の色が濃くなったような気がした。
あさってを向いた懐中電灯の乏しい灯りのもとだったから、なんとなくだけれど。
まだじくじくと血がにじむ傷口が、ユノの食い入るような視線にさらされて、僕は猛烈に興奮した。
ユノの白い喉が、ごくんと波打った。
ユノとぴたりと視線が交錯した。
吸い寄せられるように、ユノに顔を近づけたけれど、すんでのところで思いとどまった。
先刻、お尻を突き出し挿れてくれとねだったはしたない自分、下半身に支配された自分を恥じていたからだ。
キスなんてしたら、止められなくなる。
その代わりに、僕はユノに対して抱いている疑問をひとつひとつ、解消させることにした。
「ユノは...、ここに住むの?
電気も通っているみたいだし」
「そうだよ。
別荘代わりにするつもりだよ。
来週には工事が入る。
こんな状態じゃ...」
ユノはぐるりと見渡して、首をすくめた。
「あまりにも、酷すぎるだろう?
シャワー・ルームもトイレもない。
それじゃあ、チャンミンも困るだろうし。
汁をいろいろと...出しちゃうだろ?」
暗いから、カッと顔が熱くなった顔をユノに見られなくて助かった。
「ま、いざとなれば下で水浴びすればいいよね?」
ユノは裏手の方を立てた親指で指した。
「川。
子どもみたいに川遊びできるんだよ。
楽しそうだなあ?」
「う、うん。
ユノは...どこに住んでたの?」
「世界中、あちこち」
「結婚は?」
「独身」
「いくつ?」
「いくつに見える?」
「僕と同じくらい?」
「そう見えるだろうね」
「仕事は?」
僕とそんなに年齢が変わらなさそうなのに、高級車とこの建物を買ったか借りるかした資金力について気になっていた。
「投資」
「トーシ?」
「株とか、為替とかいろいろ。
あそこのスーツケースを持っておいで」
僕は立ち上がって、壁際に置かれた白いスーツケースを引きずってきた。
相当な重さで、傷を負った腕がひきつれるように痛んだ。
「開けてみて」
パチンパチンとロックを外して開けた中身を見て、絶句した。
「なんだよ、これ...」
隙間なく紙幣が詰められていた。
「当座の生活資金。
生きていくには、何かとお金がかかるだろう?」
「それにしたって...」
「欲しければ、いくらでも持っていっていいぞ」
「馬鹿にするな!」
そりゃあ、僕が呑気に学生をやっていられているのも、両親の事故によって支払われた賠償金のおかげだ。
でも、年をとっていくばあちゃんの面倒も、あちこちガタがきている家もいずれ何とかしなくちゃならないから、余裕はないのだ。
僕を弄ぶ代わりの代償か?
行きずりに出会った『セフレ』に?
僕らは、ただヤるだけの関係なんだろうか...。
...そうだろうな。
複雑にこんがらかった気持ちの処理に困って僕は、ユノの肩に腕をまわした。
僕の我慢も小一時間が限界だった。
(つづく)