キスをしたまま俺たちは、ベッドに横倒しになる。
「んっ...んっ...」
キスに慣れていないのか、絡める舌の動きがぎこちなかった。
俺は今、チャンミンとキスをしている。
ずっとチャンミンに触れたかった。
友人同士のからりとした接触じゃなく、恋情と性をもって愛撫したかった。
すんなりと長い首や、まっすぐな背筋に指を滑らせ、やわらかそうな耳朶を食み、一文字に引き結んだ唇をこじあけたくて仕方なかった。
固くてまっすぐな、男の身体であっても、チャンミンを恋しく想い続けた俺だから、大丈夫、必ず反応する。
溢れんばかりの想い...俺以外の誰かへの...に、身をくねらすチャンミンのとろけた表情を、側で見守り続けた俺だった。
俺に触れられて、甘い吐息と恍惚にゆるんだ表情、熱っぽい視線を浴びたかった、ずっと。
常に俺以外の誰かへ捧げていた一途な恋心を、どうか俺に注いでくれ。
恋愛に関して達観の姿勢を崩さずにいた俺は、どうしてもチャンミンに想いを伝えられず、じりじりと待っていた。
いつか俺の想いに気付いてくれと。
ところが突然、降って沸いたこの機会。
妙な展開になってしまったが、今はこうして堂々とチャンミンに触れることができている。
喜ぶべき時なんだろう。
チャンミンは、本人が言うように経験のない身体だ。
そんな身体に、快感を教えてやるのだ。
俺の手は、女の子を愛撫するやり方しか知らないけれど、誠心誠意をもって、これまでひた隠しにしていた想いをこめて、大切に扱おうと思った。
片手でチャンミンの顎を支え、もう片方で彼のシャツのボタンを外しかける。
と、チャンミンの手が伸びて制された。
「...や、やっぱり、
恥ずかしいから...脱ぎたくない...」
「恥ずかしいって...どうして?」
「僕...おっぱいないし...ユノ、萎えちゃう...っん」
唇を重ねたままの会話だから、鼻で呼吸するコツを知らないらしいチャンミンは苦し気だ。
唇の隙間から漏れる吐息が、熱い。
チャンミンが指摘したように、男の身体に興奮して果たして勃起するのか、はじめは不安だった。
「大丈夫」
制止していたチャンミンの手をとって、俺の股間に誘導する。
「分かった?」
「...嬉しい」
チャンミンは両腕で俺の首にしがみつき、そこに顔を埋めて囁いた。
熱い吐息が首筋を刺激し、ぞくりと肌が粟立った。
「ごめんね...ユノ。
僕が男でごめんね」
「ばーか。
謝るな」
シャツの下から手を忍ばせて、腹から鎖骨へと撫で上げた。
「っあ...」
肋骨とうっすらついた筋肉の凹凸を、指先でひとつひとつ確かめる。
怖がらせないように、ゆっくりと優しく。
チャンミンの胸がびくんと痙攣する。
手の平を小さく固い突起がくすぐった。
それを指の腹で円を描いたり、押したり、軽く摘まんだりした。
「あっ...あん...あっ...」
その度にチャンミンは短い喘ぎ声をあげて、俺を煽る。
感度のよさから、きっと自分でもいじっていたんだろう。
尻の方も、既に試しているのかもしれない。
大きななりをしたチャンミンが、心底可愛いかった。
「チャンミン、本当にいいのか?」
「っうん...いい...ユノに任せる」
胸先の快感のとりこになっていたチャンミンは、こくこくと頷いて自身のデニムパンツのボタンを外した。
焦りのあまり片手でもたつくチャンミンを手伝って、下着ごと膝まで引き下ろす。
チャンミンの下腹も腰骨も、尻も...それから、黒々とした陰毛。
その茂みの間から、斜めに勃ち上がったもの。
そうなんだよなぁ...チャンミンは...男なんだ。
女の子の裸は見慣れていたが、男の裸をまじまじと見る経験は初めてだ。
先日、偶然目にしたチャンミンのへそに、俺が強い欲情を覚えてしまったのには理由がある。
へそからシモへと繋がる毛筋の...あの時は、デニムパンツで隠されてしまっていたが...行き先を目にしたい欲望に襲われたからだ。
チャンミンの男である証拠を見たい、って...不思議なことに。
「横向きになってくれる?」
チャンミンを後ろ抱きにした。
俺の下着は、はち切れそうに勃起したペニスで押し上げられ、未だかつてないほど湿っている。
チャンミンにも、俺の興奮が伝わっているはずだ。
チャンミンの尻を左右に割って、その中心に中指を押し当てた。
「っんっ...!」
瞬時にチャンミンの尻が跳ねる。
アナルの経験があったから、いつチャンミンと『そういう関係』になっても大丈夫のはずだ。
大丈夫のはずだったが。
乾いた入り口の感触に、そうだった、チャンミンは男だったと、今さらながら思い出す。
女の子相手の時は必要ないが、チャンミン相手の場合はそういう訳にもいかないのだ。
チャンミンのペニスの先からたらたらと、滴る粘液を指にからめとり、彼の肛門を潤わせた。
中指と薬指の腹を使って緊張を解きほぐす。
「っああっ...あっ...んっ...」
苦痛なのか快感なのかはかりかねる声を漏らすチャンミン。
指が1本、次いで2本挿ったのを時間をかけて確かめた。
念入りに入り口をほぐす間、チャンミンは膝頭をこすり合わせては、高い声で喘いでいた。
その声に俺の下半身は煽られる。
「んんっ...んっ...あぁっ...」
チャンミンが入浴中、あらかじめバッグから取り出しておいたコンドームを、くわえて封を切り素早く装着した。
そそり立ったペニスに手を添えて、チャンミンの肛門にあてがう。
「きつっ...」
横抱きでは挿入しづらかったため、チャンミンの背を押してうつ伏せにさせる。
腰だけ突き出した姿勢にさせ、再度ペニスを押し当てて埋めていこうとした。
「?」
チャンミンの喘ぎがいつの間に止んでいた。
抵抗もせず、俺にされるがままのチャンミン。
「チャンミン?」
マットレスに片頬を付けたチャンミンの表情を窺う。
うっとりと半分閉じられた目は、うつろだった。
テーブルの下に空のボトルが転がっていた。
俺が入浴中、チャンミンも緊張を解きほぐそうと酒をあおっていたのか。
どうりで酒臭いはずだった。
「チャンミン、これ全部飲んだのか?」
コクリと頷くチャンミン。
いくら酒に強いチャンミンでも、この量は多すぎだ。
「チャンミン、やめようか?
酒の力を借りないとできないんだろ?」
そんなことを言いながらも、俺の高ぶりは引き返せないレベルに達していた。
男相手にここまで興奮できるのかと驚くくらい、熱く怒張していた。
「怖くないよ...」
チャンミンの答えを聞いた間もなく、俺はTシャツを脱いでベッドの向こうに投げ捨てた。
「挿れて...早く...」
チャンミンを仰向けの姿勢に戻す。
顔の向きを何度も変えながら、さっきより荒く口づけ、その唇を徐々に首筋から鎖骨へと滑らす。
首の付け根に強く吸い付いた。
チャンミンの反応はない。
チャンミンの口から、強いアルコールの香りが漂う。
横たわったチャンミンの上にまたがった俺。
枕元についた俺の両手の間の、チャンミンの寝顔を見下ろしていた。
はだけた胸からのぞく薄い胸と、鎖骨から繋がる白くて長い首。
俺が強く吸い付いてできた赤い痕から、目をそらす。
「......」
俺は、チャンミンの上からひきはがすように降りた。
このまま進めてしまってもよかった。
でも、酔いつぶれた子とヤる趣味は、俺にはない。
もしチャンミンが素面だったとしても、俺はできなかったと思う。
半勃ちまで鎮まってしまったチャンミンのペニスを下着におさめ、膝まで落ちたズボンを引き上げ、ファスナーを上げてやる。
エアコンの温度を上げ、眠るチャンミンを毛布でくるんでやった。
「はぁ」
深く息を吐いた。
チャンミンにお願いされたからヤるなんて、そんなの嫌だと思った。
俺はいいさ。
俺は好きなコとヤれるんだから。
チャンミンはどうなんだよ?
俺のことを信用できるからだって?
チャンミンの恋人は、俺じゃないだろう?
今みたいに簡単に、自分を差し出すなよ。
未経験なことでドン引きするSだったら、そんな奴やめてしまえ。
俺は毛布にくるまるチャンミンに沿うように、隣に寝そべった。
夢をみているのか、かすかに震えるチャンミンのまぶたに、俺は唇をそっと落とす。
チャンミンを守ってあげたかのような、妙な達成感に満たされていた。
何やってんだか、俺は...。
・
チャンミンを最後まで抱いてやればよかった。
チャンミンと相思相愛になってからなんて、軽い男がこの期に及んで、綺麗ごとをならべたてるなんて。
この夜の俺の理想と躊躇が、チャンミンをボロボロに傷つけてしまうなんて。
俺ならうんと、うんと優しくチャンミンを扱ったのに。
俺は、後悔している。
死ぬほど後悔している。
(つづく)
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