(23)添い寝屋

 

 

「...んっ...ん...う...ん」

 

ユノの両手が、僕の肩と腰の間を行ったり来たりしている。

ユノの親指は凝り固まった箇所を見つけては、的確にぐいっと押すので僕は呻き声をあげる。

 

「んっ...あ、ああん!」

 

案の定ユノの手は止まり、僕は「しまった!」と口を押えたけれど、もう遅い。

 

「マッサージで色っぽい声を出されるとさ、たまんないよ」

 

ユノに触れられたそこから、さざ波がたつのだ。

僕をリラックスさせようと、筋肉をほぐしてくれてるんだって分かってはいるんだけど、僕の身体は違う類のものに受け取ってしまうみたいだ。

そうなのだ。

初日から気付いていたこと...ユノと触れ合うと僕の身体は尋常なく反応してしまう。

単にユノの体温が高すぎて、冷え切った僕の肌がびっくりするものなんだろうと、分析していたんだけど...どうやらそれだけではなさそうだ。

ユノの方は何ともないのだろうか?

 

「俺の予想通り、チャンミンは感度がよさそうだ。

さぞかし...」

 

そう言って、僕のお尻の割れ目をつつっとくすぐるんだ、「はぁん!」と僕の背中は反り返る。

 

「えっちの時は、いい声で啼いてくれるだろうよ?」

 

「な、啼くって...!?

言い方がエロいよ!」

 

笑うユノのキュッと上がった目尻が、初日に思ったように北極キツネみたいだった。

今さらながら思い出した...僕はユノとこれから2日間の間に、ヤルことになってるんだった。

忘れていたけれど、僕はユノを雇ったんだった...それもオプションサービスをたっぷり付けたフルコース。

僕のあそこは役に立たない。

性欲もないから、僕のあそこがしょんぼりしていても、生活を送る上では何ら支障はない(女性客にムラっとくることがないから好都合なくらい)

恋人もいないし(冷めた気持ちじゃ恋愛感情の湧きようもない)、僕のあそこが活躍するシーンがそもそもない。

性欲もないし、このままはさすがにマズイと思うようになったんだ。

なぜかというと、虚しさが増すというフラストレーションを抱えているのに、それの発散方法がわからないからだ。

発散するとなると...アレしか思いつかないのは、僕自身の過去が影響している。

添い寝屋を雇った理由は、まず第一に添い寝してもらいたかった。

ここで白状してしまう。

オプションサービスの中身は、つまり...『本番有り』だ。

僕のあそこを目覚めさせてもらいたい。

そして、ドキドキ、ムラムラ、ゾクゾクしたい。

例え金銭のやりとりはあっても、温かい肉体を抱いて抱きしめられたかった。

ユノも僕という添い寝屋を雇った。

 

「熱い身体を鎮めて欲しい」「不眠を直して欲しい」というのが、ユノの依頼内容だ。

 

今日で4日目になるのに、僕らのオーダーはどれも完了していない。

ユノの体温がいくらか下がり、僕のあそこもちょっぴり反応したから、全く成果はないわけではないけれど。

でも、肝心なユノの不眠はそのままだから、僕がなんとかしてやらないと。

...と、ここで初めて気づいた。

 

あと2日!

 

ユノといられるのも、あと48時間を切っている。

添い寝屋と客の関係が終了したら、僕らは他人同士なんだ。

そんなの嫌だ、と思った。

だって、僕はユノに恋をしている。

なんだ、収穫はもうひとつあるじゃないか。

恋愛感情を抱けているじゃないか。

あまりにパーフェクト過ぎるユノのルックスに惹かれたのもあるけれど、それだけじゃない。

底無しの沼みたいに黒々とした渦と、たまにフレアを見せる炎を共存させた瞳。

 

1本筋が通ったように見えるユノの精神は、実は不安定なのではないか?と、その危うい感じからも目が離せない。

 

熾火のような肉体にくるまれたいし、ユノの過去も知りたい。

 

なあんだ...僕は相当、ユノのことが好きみたい。

でも、明後日の朝になれば、契約期間を終えた僕らは礼を言い合い、ユノはこの部屋を出ていってしまう。

そんなの嫌だった。

僕の中で、リストがひとつ加わった。

ユノに想いを告げること...それから、ユノの気持ちを確かめること。

3日間僕をいっぱい触ってきたんだ、なんとなくでもいい、僕のことを気に入ってくれたらいいなぁ、と思った。

 

 

 

「......」

 

背中のマッサージを終え、二の腕にまで移っているのに、熱い身体になってしまったきっかけの続きを話そうとしないユノ。

話しづらいのかな、と思った。

僕は腕を伸ばしてサイドテーブルに置いたリモコンを操作した。

電動音と共に、寝室のカーテンが閉じてゆく。

燦燦とふりそそぐ日光で、室内は真白で眩しくて健全的すぎるんだ。

僕らは夜の仕事をしているから、明るすぎるのは慣れていない。

きっと、ユノの話も夜に関することだろうなぁと予感した。

分厚い遮光カーテンのおかげで寝室は真っ暗になり、ドアを開けっ放しのリビングからの明かりでちょうどよい薄暗さになった。

 

「続きを話して」

 

僕はヘッドボードにもたれて座り、ユノの腕をひいた。

僕の指とマッサージオイルが付いたままのユノの指とを絡めて手を繋ぐ。

 

「...恋をしているのなら、そいつと寝る」

 

ユノは口を開いた。

 

「一般的に恋人同士となれば、そうなるだろうね。

中にはプラトニックな人たちもいるだろうけど...」

 

「チャンミンは彼女がいた時、どれくらいのペースでやってた?」

 

「!!」

 

ユノの方を横目で探ると、どうやらふざけている風ではない、ユノは真面目に尋ねているようだ。

どんなだったっけ、と思い出そうとしてみたけれど、例の狂気な時期を間に挟んでいるせいで、それ以前のことがぼやけてしまうのだ。

 

「うーんと...会った時は大抵、かな?

やらない時もあったし、会うのも月に3回くらいだった、かな。

これが平均より多いのか少ないのかは、分かんない」

 

「1回につき何回してた?」

 

細かいところまで追求するなぁ...でもここは誤魔化しても結局は暴露してしまうだろうな。

 

「学生の頃は、3回とか4回とか?

20代後半にもなれば、頑張って2回...。

ねぇユノ、なんでこんなこと知りたいのさ?」

 

「俺のが平均以上ってことを、分かってもらいたいから」

 

「...ってことは、もっと凄いんだ...」

 

ごくりと僕の喉が鳴る。

 

いろいろと想像してしまって...さぞかしユノは激しいんだろうなぁ、って。

情熱的なユノに抱かれる僕...の図まで想像してしまった。

どきどき。

繋いだ手に力がこもった。

 

「顔が赤いぞ。

また、いやらしいことを考えていただろう?」

 

「悪かったな!

どうせ僕は、欲求不満だよ」

 

僕は毛布をたぐり寄せ、両膝も立てて件の場所を隠した。

しょぼくれたものをさらしているのが恥ずかしくなったからだ。

 

「お!

欲求不満なことをやっとで認めたな」

 

「そうだよ、僕は欲求不満だ!」

 

ユノは僕をからかってばかりで、僕は反発してばかり。

この3日間、同じことの繰り返しだ。

昨夜はユノに抱きついて、僕の方からキスを仕掛けた。

いい雰囲気になったけれど、その流れにもちこむのをユノはさりげなくかわしたような、そんな気がした。

荒ぶる身体を持て余していて、やりたい盛りの人だと僕は勝手に判断していたから、あれ?と思ったんだ。

 

「素直でいるのはいいことだ」

 

今みたいに、ユノは笑って僕の頭を撫ぜたりしてるけどさ、何かを恐れている風なのはお互い様じゃないか。

 

「要するにユノは、平均以上にヤってきた人だってことを言いたいんでしょ?

それが、熱い身体になってしまったこととどう関係があるの?

勿体ぶっていないで、とっとと話しなさい!」

 

眉根を寄せてぎりっとユノを睨んでやったら、僕の態度に驚いたみたいで彼は目を丸くしていた。

睨みつけながら、ユノの眼って黒目が大きいな、なんて感心していたりして...。

 

「ごめん。

俺ももともとは、チャンミン並みだったよ。

やみくもに身体を求めるような男じゃなかった」

 

繋いだ手が離れたかと思ったら、その手は僕の肩に回された。

 

「例のカップルの仕事を終えてから、ひと肌寂しい、というか、人との繋がりが欲しくなった、と話したよね?」

 

「うん」

 

誰かを強く求めて、同時に求められる関係が羨ましいと言っていた。

実は僕もそうなんだ、とまでは言わなかったけど。

 

 

(つづく)

 

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