(ユノ...遅いなぁ)
チャンミンは落ち着かなくて横になったり、起き上がったり、時計を見たり。
(もう23:30じゃないか!
明日は早起きしなくちゃいけないのに!)
チャンミンはユノを待っていた。
(パジャマは着たままでいいよね。
靴下は脱いでおこう!
脇は臭くないよね...くんくん。
合格!)
チャンミンはパジャマのズボンをめくった中を確認した。
(いつものパンツに着替えたけど...いいよね。
あれはちょっと、気合が入り過ぎだった)
すすーっとふすまが開いた。
「ユノ!」
「チャンミン」
開いたふすまの隙間からユノが顔を出した。
「お待たせ」
素早く部屋に滑り込む。
ユノはTシャツとハーフパンツ姿だった。
「遅くなってごめん。
ソウタ君がなかなか寝てくれなくて...」
そう言うと、パジャマ姿のチャンミンから1m離れて、ベッドに腰かけた。
(この微妙な距離はなんだ!?)
(パジャマのチャンミンが、可愛いんですけど!)
「あの...」
隣のチャンミンを直視できないユノは、もじもじ動かす足の指を見ながら声をかける。
「眠い?」
「ううん、大丈夫」
「チャンミンは、疲れているんじゃないの?
準備で忙しかったし」
「ユ、ユノこそ、眠いんじゃないの?
ほら、今日はいろいろあったし」
「......」
(き、緊張する...!
チャンミンにえっちなことを言って、困らせていたのに、
今の俺には、その勢いと余裕が枯れている!)
(参ったな。
こんなシチュエーション、初めてじゃないくせに...。
ユノが恥ずかしがっているから、こちらまで緊張しちゃう)
「......」
「そうそう!」
チャンミンがパチンと手を叩いたので、ユノはビクッとする。
「そこ...大丈夫?」
「へ?」
「そこ」
「そこ?」
「そこだってば!」
チャンミンは、顎をしゃくってみせる。
「そこ?」
「だから、ユノの...」
「そのものズバリで言ってくれなきゃ、分かんないよ」
「......」
ユノのニヤニヤ顔に、チャンミンはユノがとぼけていることに気付く。
「ユノ!」
(チャンミンをからかうのは、楽しいなあ)
「くくく。
大丈夫だよ。
目ん玉ぶっ飛ぶかと思った。
チャンミンも分かるだろ?」
「うん」
ユノを睨んでいたチャンミンだったが、「目ん玉がぶっ飛ぶ」様をしてみせるユノに、笑ってしまった。
1mの隙間を埋めようと、ユノはチャンミンにぴったりつくように、座りなおした。
ぎしっと、チャンミンのシングルベッドがきしむ。
(お?)
ユノはベッドの上を何度もはずんで、ギシギシとたてる音を確認した。
「けっこう...音がする」
「古いからね。
中学生のときから使ってるんだ」
「困ったなぁ」
「音が気になるって言うんでしょ?」
(ユノが言いそうなことくらい、予想がつく)
「それも、そうだけど...。
うーん」
ユノはあごに手を当てて、何かを考えこんでいる。
「チャンミン...。
初めてのえっちは、このベッド?」
「......」
「このベッドで...したの?」
「馬鹿!
ユノの馬鹿!」
「どうなんだ?」
(この子ったら、何を言い出すんだ!)
「本気で俺は気になっているんだよ?」
(ずばり聞いちゃうわけ?)
「で、どうなの?」
ユノは、ずいっとチャンミンに顔を近づけた。
あまりにも真剣な表情なので、チャンミンの心にイタズラ心が湧いてきた。
(いつもユノにからかわれてばっかりだからね)
「...そうだよ」
「え...!」
ユノは固まる。
「嘘うそ!
冗談だってば!」
「チャンミ~ン、ひどいよ!」
「ごめんね、ごめんね」
チャンミンは、抱きついてきたユノの頭をよしよしと撫ぜる。
先ほどまでぎこちなかった2人の空気が、ほぐれてきた。
「...えっと」
(真夜中!
寝室!
恋人同士!
大人!
2人きり!
ベッド!
ベッド!
ベッド!)
チャンミンの胸に頭を押し付けていたユノは、顔を上げた。
「やっと...この時が来たね」
(チョンユンホ!
チャンス到来だ!)
ユノはチャンミンの肩を押して、ベッドに押し倒そうとするが。
「待って!
ユノ、ちょっと待って!」
チャンミンは力いっぱい手を突っ張って、ユノの顎を押しのける。
「いでっ!」
叫んだユノは、プロレス遊び中に転んで、打ち付けてしまった顎をさする。
「ごめん、そんなに痛かった?」
「俺は全身、ボロボロなんだよ...」
「ごめん...」
「そんなことよりも、何?
今さら、嫌?」
(俺は、なけなしの勇気を振り絞って、必死なんだよ!)
若干ふてくされたユノは、ため息をついて髪をかきあげた。
「そうじゃなくて、その前に...。
ユノに話しておきたいことがあるんだ」
「今じゃなくちゃ、駄目なの?」
「うん」
「聞くよ。
どうぞ、お話しください」
ユノは手のひらを向けて、チャンミンに早く話すよう促した。
「本当はずっと前にユノに話しておかなくちゃいけないことだったんだ。
あの...その...。
あのね...えっと...」
「言いにくかったら、今じゃなくてもいいんだよ」
ユノはチャンミンの手を取ると、指をからませた。
緊張の汗でべたついたチャンミンの手が、さらりと乾いたユノの手の平に包み込まれる。
「今じゃなくちゃ、いけないんだ。
でね...」
チャンミンを見つめるユノの目は、この上なく優しい。
チャンミンは、鼻からすっと息を吸った。
「僕...バツイチなんだ」
「ええええ!!!!!!」
ユノは繋いだ手を離すと、後ろにとびすさった。
目も口も大きく開いている。
あまりのユノの驚きように、チャンミンも固まる。
(ええっ!?
もしかして、知らなかったの?)
「もう知ってるかと思ってた」
「ううん!
初耳!」
「幻滅した?
嫌でしょ?
嫌だよね?」
チャンミンは泣き出しそうだった。
目も口を大きく開けていたユノは、ふっと肩の力を抜くと、
「全~然」
と言って、小首をかしげてニカっと笑った。
「ホントに?」
「ほんとほんと」
~チャンミン~
そっか...。
ユノの驚き方が、あまりに大げさで嘘っぽかった。
その後の、「バツイチくらい大したことないよ」の余裕ある態度もわざとらしかった。
知ってたくせに。
ホントは知ってたくせに、初めて聞いた風を装ってくれたんだね。
誰かから聞いたんじゃなくて、僕が打ち明けたことにしてくれたんだね。
「幻滅なんてするかよ...。
でも...正直に言っちゃうと、嫌だよ」
「だよね...」
チャンミンはがっくり肩を落としてしまい、そんな彼の頭をユノは撫ぜた。
「嫌だよね。
逆の立場だったら、すごく嫌だ...」
「チャンミンがどうこう、ってことじゃないんだ。
チャンミンが、俺じゃなくて他の誰かを好きだったことが嫌なんだ。
結婚したくなるくらい好きになったんだろ?
チャンミンの過去の男に、俺は嫉妬しているんだ」
「ユノ...」
「器が小さい男でごめん」
(この子ったら...)
「離婚してくれてありがとう、だよ。
じゃなきゃ、俺はチャンミンと付き合えなかったから」
「ユノー!」
チャンミンはユノの頭を胸に抱え込んだ。
そしてユノの頬を包み込み、唇を寄せようとした。
「ストップ!」
ユノに両肩を押されて、引きはがされてしまった。
「何で!?」
「よだれが出てるよ、チャンミン。
俺が美味しそうなのはわかるけどさ、ひとまず抑えて」
「何だって!?」
「しーっ!
チャンミン、うるさい。
みんなが起きちゃうよ!」
(今度は僕の方が『お預け』なの!?
やりたくて仕方がなかったのは、ユノの方じゃなかったわけ?)
「何だよ...」
「実は...。
俺の方も、チャンミンに打ち明けたいことがあるんだ」
急にあらたまった感じに、ユノは話し出した。
(つづく)
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