「まずはチャンミン、ここに座ってください」
「そこに?」
頷いてユノは、太ももをポンポンと叩いた。
チャンミンはユノの太ももにまたがると、彼の両肩に手をのせた。
(えっち過ぎて、照れる)
ユノに腰を支えられ、耳も首も真っ赤にさせたチャンミン。
「ずっとこうしたかった」
「ユノ...」
チャンミンはユノの後頭部の髪をすく。
(言動も見た目も幼くて。
礼儀正しくて、ちょっとえっちで。
大きな体をしてるのに、照れ屋で。
僕の可愛い可愛い彼氏)
チャンミンの胸はきゅっとして、とにかくユノのことが愛おしくてたまらなくなる。
「話って?」
「俺の話を聞いたら、チャンミン、幻滅しちゃうかも」
「幻滅?」
「うん。
引いちゃうかも」
「聞くのが、怖いんだけど」
(何だろう?
まさか、『俺もバツイチなんだ』とか、『結婚してるんだ』...とか?
『子供がいるんだ』とか...!?)
ユノの言葉を待つチャンミンの口の中が、からからになってくる。
「あのね...」
ユノは、こほんと咳ばらいをする。
「そんなに怖い顔をしないでよ」
「ねえ、ユノ?
今じゃなくちゃ駄目なの?」
「うん。
『今』じゃないと駄目なんだ。
えーっと、俺はね...俺は...」
「ユノが...どうしたの?」
「爆弾発言をするよ」
(バクダンハツゲン!?)
「......」
「俺は...」
ユノは、いったん言葉を切ると、うつむいていた顔を上げた。
「...『経験』がないんだ」
「経験?」
「うん」
「え...」
「俺は...ど...う...てい、なんだ...」
ユノの声は、消え入りそうだ。
「チェリーなんだ...。
言葉の使い方、合ってる?」
「......」
(どうしよう...!
チャンミンが考え込んでる)
「...という訳で、
チャンミンが、俺にとっての『初めて』の相手になるんだ」
「......」
黙ってしまったチャンミンを、ユノは泣き出しそうな顔で見つめている。
(いつも大胆なことばかり言うから、
てっきり『済』だと思ってたけど、
正真正銘の『新品』だったんだ...)
「幻滅...した?」
「......」
「かっこ悪いよね」
「......」
「気持ち悪いよね」
「......」
「チャンミン、何か言ってよ...」
「やだなぁ、ユノ!」
チャンミンはユノの胸をドンと突いた。
そのはずみで、ユノはベッドに仰向けで倒れてしまった。
「!」
(チャンミン...いきなり、押し倒すのか...!)
「可愛い!」
チャンミンは仰向けになったユノに飛びつくと、すりすりと頬ずりした。
「可愛いなあ!」
チャンミンのリアクションに驚いたユノは、チャンミンにされるがままだ。
「チャ、チャンミン!」
「言いたいことって、このこと?」
「うん。
一世一代のカミングアウトだったよ」
「ぎゅー」
「チャンミン...苦しい!
話はまだ途中だよ!」
ユノは、しがみつくチャンミンの肩を押して、彼を真っ直ぐ見上げた。
潤んだユノの眼がつやつやと光っていた。
「だから...。
ここからが本題だよ。
...うまく出来ないかもしれないってことなんだ」
「そんなこと...気にしなくていいのに...」
(ユノが涙ぐんでいる。
勇気がたくさん必要だったんだね。
僕が引いちゃうかもって、不安でたまらなかったんだね)
「気にするに決まってるだろ!
だから...そのぉ...。
チャンミンの経験で...リードして欲しいなぁ...って?」
「は?」
(困ったな。
僕だって、そんなに経験があるわけじゃないのに)
「このことを、最初に耳に入れておこうと思ったわけなんだ」
「うん、わかったよ」
チャンミンはユノに身を伏せようとすると、
「それから、あともうひとつ」
再び、ユノに引きはがされる。
「まだあるの?」
「うん、もうひとつあるんだ。
コトを成す上で、たいへん重要なことなんだ」
ユノは人差し指をピンと立てた。
「大げさだなぁ」
「実は...装着テストを未だしていないんだ」
「『装着テスト』?」
「うん」
ユノはポケットに入れていた箱を取り出して、チャンミンの前で振ってみせる。
「これ」
「!」
「うまくいかなかったら、そこはその...。
チャンミンの経験を活かして、手伝っていただきたくて...」
「......」
(なんなの、この子は!
そんなことまで、赤裸々に言っちゃうわけ!?
天然にもほどがあるんですけど!?)
固まってしまったチャンミンの表情を見て、ユノはしゅんとしてしまう。
「駄目...かな?」
チャンミンは満面の笑みで、首を振った。
(この子ったら。
なんて可愛くて、面白い子なんだろう)
ユノは、ホッと胸をなでおろしたのであった。
「......」
「え...っと」
仰向けになったユノの上に、馬乗りになったチャンミンだった。
互いの暴露タイムを経て、2人の間に妙な緊張感が漂っていた。
スタートを切るための小さな合図を待っていた。
(男になるぞ、チョンユンホ!)
よし、と小さく頷くとユノは身体を起こすと、着ていたTシャツを脱いだ。
チャンミンの目の前で露わになったユノの半裸姿に、チャンミンの心拍数が上がる。
(あらら)
ほっそりとしているが、適度な筋肉がついていて無駄がないユノの身体に、チャンミンは見惚れてしまう。
「ぼーっとしていないで。
チャンミンも、パジャマを脱いでよ」
「僕も脱ぐの!?」
「当たり前!」
チャンミンもあたふたと、パジャマのボタンを外し始める。
(ちょっと待ってよ!
いきなり服を脱いじゃうの!?
いいムードで、少しずつ脱がしていくものじゃないの!?
2人とも脱いじゃうの!?)
ユノに急かされるままチャンミンは、パジャマの上下を脱いだ。
「!!!」
下着姿になったチャンミンに、ユノはギョッとした後、顔をそむけてしまった。
(チャチャチャチャンミン!
眩しい、眩しすぎる!)
「電気を消そうか?」
(いつものユノだったら、
「明るい方が興奮する」って言いそうなのに。
いざその時になると照れ屋になってしまったユノが、可愛い!)
チャンミンの下着姿に動揺して顔をそむけていたユノだったが、そうっとチャンミンを見る。
「何だ、それは!?」
「え?」
指摘されて、チャンミンは自身の身体を見下ろす。
「変...だった?」
(痩せすぎだって!?
それとも...小さいってこと?)
「あのセクシーブリーフはどこいった?
どうして、あれじゃないんだ!?」
一度身につけたものの、照れくさかったのと、サイズに自信をなくしたチャンミンは、いつもの下着にチェンジしていたのだった。
「あれはちょっと...恥ずかしくて...」
「別にいいけど。
どうせ、すぐに脱がしちゃうから」
ふふんとユノは鼻だけで笑ったが、その実内心はピンクな嵐の中でもみくちゃにされていた。
(余裕ぶっちゃってるけど、めちゃくちゃ緊張してるんだ。
もし、あのセクシーブリーフだったら、俺はどうにかなってたよ。
チャンミンも照れていないで、俺をリードしてくれよ!)
(つづく)
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