(13)Hug

 

 

 

「まずはチャンミン、ここに座ってください」

 

「そこに?」

 

頷いてユノは、太ももをポンポンと叩いた。

 

チャンミンはユノの太ももにまたがると、彼の両肩に手をのせた。

 

(えっち過ぎて、照れる)

 

ユノに腰を支えられ、耳も首も真っ赤にさせたチャンミン。

 

「ずっとこうしたかった」

 

「ユノ...」

 

チャンミンはユノの後頭部の髪をすく。

 

(言動も見た目も幼くて。

礼儀正しくて、ちょっとえっちで。

大きな体をしてるのに、照れ屋で。

僕の可愛い可愛い彼氏)

 

チャンミンの胸はきゅっとして、とにかくユノのことが愛おしくてたまらなくなる。

 

「話って?」

 

「俺の話を聞いたら、チャンミン、幻滅しちゃうかも」

 

「幻滅?」

 

「うん。

引いちゃうかも」

 

「聞くのが、怖いんだけど」

 

(何だろう?

まさか、『俺もバツイチなんだ』とか、『結婚してるんだ』...とか?

『子供がいるんだ』とか...!?)

 

ユノの言葉を待つチャンミンの口の中が、からからになってくる。

 

「あのね...」

 

ユノは、こほんと咳ばらいをする。

 

「そんなに怖い顔をしないでよ」

 

「ねえ、ユノ?

今じゃなくちゃ駄目なの?」

 

「うん。

『今』じゃないと駄目なんだ。

えーっと、俺はね...俺は...」

 

「ユノが...どうしたの?」

 

「爆弾発言をするよ」

 

(バクダンハツゲン!?)

 

「......」

 

「俺は...」

 

ユノは、いったん言葉を切ると、うつむいていた顔を上げた。

 

「...『経験』がないんだ」

 

「経験?」

 

「うん」

 

「え...」

 

「俺は...ど...う...てい、なんだ...」

 

ユノの声は、消え入りそうだ。

 

「チェリーなんだ...。

言葉の使い方、合ってる?」

 

「......」

 

(どうしよう...!

チャンミンが考え込んでる)

 

「...という訳で、

チャンミンが、俺にとっての『初めて』の相手になるんだ」

 

「......」

 

黙ってしまったチャンミンを、ユノは泣き出しそうな顔で見つめている。

 

(いつも大胆なことばかり言うから、

てっきり『済』だと思ってたけど、

正真正銘の『新品』だったんだ...)

 

「幻滅...した?」

 

「......」

 

「かっこ悪いよね」

 

「......」

 

「気持ち悪いよね」

 

「......」

 

「チャンミン、何か言ってよ...」

 

「やだなぁ、ユノ!」

 

チャンミンはユノの胸をドンと突いた。

 

そのはずみで、ユノはベッドに仰向けで倒れてしまった。

 

「!」

 

(チャンミン...いきなり、押し倒すのか...!)

 

「可愛い!」

 

チャンミンは仰向けになったユノに飛びつくと、すりすりと頬ずりした。

 

「可愛いなあ!」

 

チャンミンのリアクションに驚いたユノは、チャンミンにされるがままだ。

 

「チャ、チャンミン!」

 

「言いたいことって、このこと?」

 

「うん。

一世一代のカミングアウトだったよ」

 

「ぎゅー」

 

「チャンミン...苦しい!

話はまだ途中だよ!」

 

ユノは、しがみつくチャンミンの肩を押して、彼を真っ直ぐ見上げた。

 

潤んだユノの眼がつやつやと光っていた。

 

「だから...。

ここからが本題だよ。

...うまく出来ないかもしれないってことなんだ」

 

「そんなこと...気にしなくていいのに...」

 

(ユノが涙ぐんでいる。

勇気がたくさん必要だったんだね。

僕が引いちゃうかもって、不安でたまらなかったんだね)

 

「気にするに決まってるだろ!

だから...そのぉ...。

チャンミンの経験で...リードして欲しいなぁ...って?」

 

「は?」

 

(困ったな。

僕だって、そんなに経験があるわけじゃないのに)

 

「このことを、最初に耳に入れておこうと思ったわけなんだ」

 

「うん、わかったよ」

 

チャンミンはユノに身を伏せようとすると、

 

「それから、あともうひとつ」

 

再び、ユノに引きはがされる。

 

「まだあるの?」

 

「うん、もうひとつあるんだ。

コトを成す上で、たいへん重要なことなんだ」

 

ユノは人差し指をピンと立てた。

 

「大げさだなぁ」

 

「実は...装着テストを未だしていないんだ」

 

「『装着テスト』?」

 

「うん」

 

ユノはポケットに入れていた箱を取り出して、チャンミンの前で振ってみせる。

 

「これ」

 

「!」

 

「うまくいかなかったら、そこはその...。

チャンミンの経験を活かして、手伝っていただきたくて...」

 

「......」

 

(なんなの、この子は!

そんなことまで、赤裸々に言っちゃうわけ!?

天然にもほどがあるんですけど!?)

 

固まってしまったチャンミンの表情を見て、ユノはしゅんとしてしまう。

 

「駄目...かな?」

 

チャンミンは満面の笑みで、首を振った。

 

(この子ったら。

なんて可愛くて、面白い子なんだろう)

 

ユノは、ホッと胸をなでおろしたのであった。

 

 


 

 

「......」

 

「え...っと」

 

仰向けになったユノの上に、馬乗りになったチャンミンだった。

 

互いの暴露タイムを経て、2人の間に妙な緊張感が漂っていた。

 

スタートを切るための小さな合図を待っていた。

 

(男になるぞ、チョンユンホ!)

 

よし、と小さく頷くとユノは身体を起こすと、着ていたTシャツを脱いだ。

 

チャンミンの目の前で露わになったユノの半裸姿に、チャンミンの心拍数が上がる。

 

(あらら)

 

ほっそりとしているが、適度な筋肉がついていて無駄がないユノの身体に、チャンミンは見惚れてしまう。

 

「ぼーっとしていないで。

チャンミンも、パジャマを脱いでよ」

 

「僕も脱ぐの!?」

 

「当たり前!」

 

チャンミンもあたふたと、パジャマのボタンを外し始める。

 

(ちょっと待ってよ!

いきなり服を脱いじゃうの!?

いいムードで、少しずつ脱がしていくものじゃないの!?

2人とも脱いじゃうの!?)

 

ユノに急かされるままチャンミンは、パジャマの上下を脱いだ。

 

「!!!」

 

下着姿になったチャンミンに、ユノはギョッとした後、顔をそむけてしまった。

 

(チャチャチャチャンミン!

眩しい、眩しすぎる!)

 

「電気を消そうか?」

 

(いつものユノだったら、

「明るい方が興奮する」って言いそうなのに。

いざその時になると照れ屋になってしまったユノが、可愛い!)

 

チャンミンの下着姿に動揺して顔をそむけていたユノだったが、そうっとチャンミンを見る。

 

「何だ、それは!?」

 

「え?」

 

指摘されて、チャンミンは自身の身体を見下ろす。

 

「変...だった?」

 

(痩せすぎだって!?

それとも...小さいってこと?)

 

「あのセクシーブリーフはどこいった?

どうして、あれじゃないんだ!?」

 

一度身につけたものの、照れくさかったのと、サイズに自信をなくしたチャンミンは、いつもの下着にチェンジしていたのだった。

 

「あれはちょっと...恥ずかしくて...」

 

「別にいいけど。

どうせ、すぐに脱がしちゃうから」

 

ふふんとユノは鼻だけで笑ったが、その実内心はピンクな嵐の中でもみくちゃにされていた。

 

(余裕ぶっちゃってるけど、めちゃくちゃ緊張してるんだ。

もし、あのセクシーブリーフだったら、俺はどうにかなってたよ。

チャンミンも照れていないで、俺をリードしてくれよ!)

 

 

(つづく)

 

 

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