(18)Hug

 

 

(2回戦、出来なかった。

 

ペース配分がうまく出来なかった。

 

イクのが早過ぎた...と思う。

 

チャンミンをイカせられなかった。

 

俺ばっかりイッてしまった。

 

チャンミンを、気持ちよくさせたい。

 

もっと研究しないと!

 

(注:ユノのメイクラブ参考書は、AVが全てである)

 

ふふふ。

 

チャンミンの裸。

 

ふふふふ。

 

暗くてよく見えなかったから、次は明るいところでヤろうっと。

 

はぁ...それにしても、気持ちよかったなぁ...。

 

自分でやるのとは、次元の違う気持ちよさだったなぁ...。

 

ヤバイねぇ、アレは。

 

大好きな人とヤるのって、最高だ。

 

愛する人と一体になるって、幸せだ。

 

チャンミン...好きですー)

 

「ふふふ」

 

胸に抱きしめた掛布団に顔を埋めて、ニヤニヤ笑いを押し殺す。

 

(おっと!

俺のユノユノが、また元気になってきた。

ポジションをこう...直して...と、よし!)

 

ユノは階段辺りが無人であることを確認した後、きしむ階段にヒヤヒヤしながら階下へ降りて行った。

 

階段口で誰かと出くわすわけにはいかない。

 

無事に一階に下りると、近づく人の気配を察して慌てて手近な広間に隠れた。

 

(危なかった...)

 

広間を抜けて縁側の窓から外へ出ると、玄関に回る。

 

そして、さも外から帰ってきた風を装って、カラカラと玄関の引き戸を開けた。

 

「おじちゃん、いたー!」

 

「!」

 

まさに出かけようとしていたケンタたちと鉢合わせになった。

 

「チャンミン兄ちゃ~ん、おじちゃんいたよー」

 

「ユノったら!

どこに行ってたの?」

 

ケンタたちに呼ばれて、チャンミンは困りきった表情を作った。

 

「お散歩に行ってたんだ」

 

「散歩!?」

 

(もっと上手な登場の仕方をしてくれよ!)

 

ラップをかけた大皿を持ったヒトミもやってきた。

 

「公民館にこれを持っていくからね。

山菜の天ぷら。

ユノ君行くわよ、車に乗って」

 

「はい!」

 

「おじちゃん、裸足だよ」

 

「!」

 

「お兄さんはね、足の裏を鍛えているんだってさ。

だから裸足なんだ」

 

チャンミンは、苦し紛れにフォローする。

 

「時間がないから...車に乗った乗った!」

 

「うん」

 

時間がないためユノは、Tシャツとハーフパンツという寝間着姿のままで出かけることとなった。

 

はねた後ろ髪や、ハーフパンツから突き出した細い脚といった、大きく育ち過ぎた子供感いっぱいのユノからは、先ほどまでの艶っぽい雰囲気は一切感じられない。

 

(あんな彼と、僕は裸で抱き合ってたのか)

 

両手で口を覆って、心の中で「ひゃー」っと叫び声をあげる。

 

(そうだ!

僕たちったら、とうとう『いたしちゃった』んだ!

こんなに緊張したエッチはなかったかも。

ユノったら、必死で可愛いんだもの。

でもなぁ...あそこまで『獣』になるとは...ちょっと怖かったな)

 

などなど思いながら、ユノの後ろ姿を追っていると...。

 

(ユノったら、Tシャツが前後ろ反対...)

 

あちゃーと額に手を当て、深いため息をついたのだった。

 

 

 


 

 

 

外は夜明け前で暗く、公民館から煌々と窓から灯りがこぼれていた。

 

ユノたちが到着した時には、ほぼ全員の着替えは終了し、長い一日に備えて皆早い朝食をとっていた。

 

神官装束、龍と鳳凰を染めぬいた着物の闘鶏楽(円盤状の鐘を叩く)、警護の裃姿。

 

ひょっとこ役はあぐらをかき、鬼役からコップ酒を飲まされている。

(ひょっとこ役は、泥酔した状態で御旅行列するため、出発前に飲酒をする習わしなのです)

 

巫女装束の女の子たちは、赤い口紅が落ちないよう、お菓子を小さな口でかじっている。

 

「おせぇぞ!」

 

深緑の股引きと藍色腹掛けに着替えた獅子役のテツは、ぬっと現れたユノたちを怒鳴りつける。

 

「とっとと着がえろ!」

 

「すみません!」

 

「乳繰り合ってたんじゃねんだろうな?」

 

「はあ、そんなところです...」

 

「ユノ!?」

 

しれっと認めるユノにチャンミンは当然、焦る。

 

「馬鹿たれ!」

 

頭をかきかき照れるユノの頭を、テツははたく。

 

「正直に認める奴があるかってんだ!

祭り前日に何やってんだ、全く」

 

(ユノの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!)

 

ユノたちを待ち構えていた4人の女性たちの助けを借りて、2人の衣装替えが始まった。

 

「お兄さん、背が高いね。

チャンミン君と同じくらい?」

 

「はい、そうなんです」

 

「何センチあるの?

この肌襦袢を着てね」

 

「はい。

えーっと、183か4あります」

 

「へぇぇ。

うちの息子に分けてやりたいねぇ」

 

ユノは着ていたTシャツを脱いだ。

 

次いで隣のチャンミンも、トレーナーを脱ぐ。

 

「バレー選手か何かなの?」

 

「いえ、違います」とユノは答えた。

 

小袖を羽織らせようとした女性の視線が、チャンミンの腹から胸へと移動したのち固定した。

 

「?」

 

「!!」

 

(チャンミン!?)

 

「ん?」

 

チャンミンはフリーズしている5人に気付き、彼らの視線が自分に向けられていることに、首を傾げたのだった。

 

(え!?

僕?

僕がどうした?)

 

自身の胸を見下ろしてぎょっとする。

 

 

「!!!!!!」

 

 

(ユノーーー!

いつの間に!)

 

 

チャンミンの胸には、赤い花びらがいくつも散っていたのだ。

 

焦ったチャンミンは、両腕をまわして隠そうとしたが、背後にいた女性に腕をぴしゃりと叩かれた。

 

「手が邪魔だよ。

細い腰だねぇ。

このタオルを押さえてて」

 

「は、はい...」

 

着付けの女性が、何でもなかったかのように話を続けるから、余計に恥ずかしい。

 

(最近の子ったら、スゴイのね。

うちの旦那も若いうちは、激しかったわ。※おばさまの心の声)

 

(ユノの馬鹿!)

 

チャンミンの顔も首も耳も真っ赤だ。

 

隣のユノも、さすがに恥ずかしくて俯いてしまう。

 

(俺たちが何をしていたかバレバレだ。

恥ずかしー!)

 

 

(ユノの馬鹿馬鹿馬鹿!

 

こんなに大量のキスマーク!

 

全然気づかなかったよ!

 

愛の証を刻みたいのは分かるけど、

 

僕のことが大好きだってことは分かるけど、

 

僕があまりに美味しそうだったのは分かるけど、

 

どうりで、あちこち吸われてるなぁ、って思ったよ)

 

 

(キスマークって...えっちだなぁ。

 

チャンミンも悪いんだぞ。

 

可愛い声を出すんだから。

 

止められなくても仕方がない。

 

だから、俺は悪くないのだ!)

 

 

チャンミンの腰回りはバスタオルをあてがわれ、さらしで固定された。

 

「差袴を履いて」

 

「はい」

 

ピンクな妄想で頭がいっぱいのユノをよそに、女性たちの熟練の腕により着々と仕上がっていく。

 

 

(今夜はもっときわどいところに付けてあげようっと。

 

やっぱり...あの辺りだよなぁ。

 

付け根のとこ...えっち。

 

おっとっと、気を付けないと!

 

また俺のユノユノが目覚めてしまう...)

 

「はい、出来たよ」

 

最後に狩衣の上下を袴に差し込んで、ユノの浄衣姿が完成した。

 

槍持ちのチャンミンは、裃姿だった。

 

(うっ...チャンミン、カッコいい)

 

「雪駄で鼻緒ずれするから、あっちで絆創膏を貼っておいで」

 

「ほぉぉ」と息をのむ声が聞こえ周囲を見渡すと、部屋のあちこちの者たちがユノとチャンミンに注目している。

 

(どこか...変?)

 

チャンミンが連れてきたよそ者ということで、ひそかに町民たちの注目を浴びていたユノだった。

 

ユノは細身の高身長、加えて端正な顔立ちをしている。

 

チャンミンも同様だ。

 

古典絵巻から抜け出たような美青年に仕上がって、遠巻きに観察していた面々は驚いたのも無理はなかった。

 

(そんなに変?)

 

居心地の悪くなったユノは、折り畳みテーブルの上に並んだ稲荷寿司を紙皿に5個ばかり載せて、テツの横に座った。

 

チャンミンは居たたまれなくなって、真っ赤な顔をして部屋を飛び出していってしまった。

 

 

 

(つづく)

 

 

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