(20)Hug

 

 

 

汗をかいたから気持ち悪い、絶対にお風呂に入ると言い張るユノだった。

 

四つん這いで風呂場に向かうユノの後を追いかけながら、チャンミンはため息をついた。

 

(今夜もチャンミンを抱くんだから!

汗臭いから、きれいにさっぱりしないといけないんだ。

何が何でも絶対に!)

 

(この子は、いったん決めたら絶対に譲らないからな)

 

脱衣所の床に座って、ユノが入浴を終えるのを待っていた。

 

「湯船には入っちゃ駄目だからね。

腰を痛めてるんだから、身体を温めない方がいいんだからね」

 

「そんなに俺のことが心配なら、チャンミンも一緒に入ろうよ。

チャンミンせんせー!

俺の身体を洗ってください。

腰が痛くて、頭が洗えません」

 

「嘘つかないの!」

 

「......」

 

風呂場から聞こえていた水音がぱたりと消えて、チャンミンは慌てた。

 

「ユノ!

大丈夫?」

 

風呂場に飛び込むと頭をシャンプーの泡一杯にさせたユノが、わざとらしく驚いた顔をした。

 

「今夜はチャンミンが『覗き見』?

そんなに俺の裸が見たかったんだ?」

 

目を半月型にさせて、ニヤニヤ笑っている。

 

「馬鹿!

ユノの馬鹿!」

 

風呂場から出ようとするチャンミンの足首に、ユノの手がにゅっと伸びた。

 

「危ない!

転ぶだろ!」

 

「頭を洗ってくださーい」

 

「仕方ないなぁ」

 

チャンミンはデニムパンツの裾とシャツの袖をまくると、ユノの泡いっぱいの髪に両手を滑らせた。

 

(きれいな頭の形をしているなぁ。

小さな頭だ)

 

マッサージするように丁寧に、適度な力で指の腹を使って、ユノの髪を洗う。

 

「気持ちいい」

 

がっちりとした肩と広い背中、チャンミンはユノの裸にどぎまぎしていた。

 

「かゆいところはないですかぁ?」

 

美容師の真似をして、チャンミンはふざけて言う。

 

「そうだねぇ、耳の後ろが少し」

 

「かしこまりました。

他にございませんかぁ?」

 

「そうですねぇ...ここが少し」

 

「?」

 

「ここが痒い」

 

「......」

 

「馬鹿馬鹿馬鹿!」

 

チャンミンは洗面器いっぱいお湯を汲むと、高い位置からユノに浴びせかけた。

 

「ひゃあっ!」

 

ごしごしと顔をこすってから、そのまま髪をかき上げたせいで、オールバックになったユノ。

 

(...、カッコいいんですけど!)

 

「チャンミン...どうした?」

 

ユノは絶句しているチャンミンに声をかけた。

 

「チャンミーン!!」

 

「!!!」

 

(母さん!)

 

「チャンミーン!

パイナップル切ったから、おいでー!

ユノ君も呼んでおいでー!」

 

(どうしよう、どうしよう!

ユノと一緒にお風呂に入っているなんて、バレるわけにはいかない!)

 

目を白黒させているチャンミンの姿に、ユノはくすりと笑うと、

 

「チャンミンはおトイレでーす!

後で、俺から伝えておきまーす」

 

廊下に向かって大声でセイコに伝えた。

 

「ふう」

 

(焦った)

 

ユノとチャンミンは顔を見合わせて、苦笑したのであった。

 

「のぼせる前に、お風呂を出ようか?

昨日みたいになりたくないだろう?」

 

怒って、焦って、安堵して、それから舌をちょっと出して笑って。

 

百面相のチャンミンがあまりにも可愛くて、

 

「好き」

 

そう言ってユノは、チャンミンのうなじを引き寄せてキスをした。

 

 

 


 

 

「ひゃぁっ!

冷たい!」

 

「もう1枚、貼ろうか?」

 

「そうだねぇ、お尻の上あたりに2枚貼って」

 

「おっけー」

 

うつ伏せになったユノは、チャンミンに湿布を貼ってもらっていた。

 

下げたパンツから、お尻が少しだけ見えている。

 

(小さなお尻...可愛い)

 

と、いたずら心が湧いてきたチャンミンは、ユノのお尻の割れ目を指でくすぐる。

 

「ひゃあっ!

くすぐったい!」

 

(いつも、僕の方がからかわれているばっかりだから、たまにはね)

 

くすくす笑いながら、ユノのパンツを引き上げた。

 

「はい。

これくらいでいいでしょう」

 

「はぁ...。

薬効成分が染みわたるのが、よくわかる」

 

「仰向けで寝られる?

座布団をあてがってあげようか?」

 

「うん、お願い。

それにしても、幸せだなぁ。

3日目にして、やっとでチャンミンの隣で寝られる」

 

四つん這いでしか移動できないユノは、今夜は広間で就寝することになってしまった。

 

ユノを案じたチャンミンは、自室から運んできた布団をユノの隣に敷いた。

 

「疲れたでしょ?

お疲れ様」

 

チャンミンはユノの頭を撫ぜると、常夜灯を残して照明を消した。

 

明日片付ければよいとのことで、広間のテーブルにはラップをかけられた大皿料理が並んだままだ。

 

「何か欲しいものがあったら、遠慮なく言うんだよ?

『チャンミンが欲しい』とかの冗談は、駄目だからね」

 

「分かってるよ」

 

ユノは布団から手を出して、チャンミンの手を握る。

 

「チャンミン、ごめん」

 

「何が?」

 

ユノの謝罪の言葉は、「迷惑をかけてごめん」という意味だととらえたチャンミン。

 

「謝らなくていいよ。

重労働をお願いした僕こそ、ごめん」

 

と、あやすように繋いだ手を揺すった。

 

「違う。

俺が『ごめん』と言ったのは、今夜はチャンミンを抱けないことなんだ。

腰を動かせないんだ。

上下運動が無理なんだ。

あれ、前後運動かな?」

 

「はぁ?」

 

「今夜もチャンミンを抱くんだ」と息巻いていたユノだったが、腰に走る激痛にさすがに無理だと諦めた。

 

(残念無念。

泣きそう...)

 

「無理に決まってるじゃないか!」

 

「チャンミンは、我慢できるの?」

 

「出来るよ」

 

「どうして?

俺はめちゃくちゃ我慢してるんだ。

苦しいくらい。

30代って、ムラムラしないの?」

 

チャンミンはため息をついた。

 

(そうだよね、この子は若いから)

 

チャンミンはユノの方へ、寝返りをうった。

 

ユノはチャンミンの方をじっと見つめていた。

 

眉根を寄せて切なそうなユノの表情に、チャンミンはドキッとする。

 

「30代だってもちろん、ムラムラするよ。

男だからね。

でも、若い頃みたいに四六時中、そういうことばかり考えてるわけじゃないし、ムラムラの度合いも薄くなったかなぁ。

これは、僕の場合だし、他の30代がどれくらいムラムラしているかは分からないけどね」

 

「そういうものなんだ、ふうん...」

 

ユノはしばらく、天井でぽつんと光る黄色い常夜灯を見上げていたが、口を開いた。

 

「チャンミン...。

何か、お話しようか。

ゆっくり話もできなかったし」

 

「そうだね。

何を話そっか?」

 

「チャンミンの子供の頃の夢ってなんだった?」

 

「なんだろなぁ。

いろんなものになりたかったなぁ。

卒業文集を開くとね、毎年なりたいものが違ってて可笑しいんだ。

ユノは?」

 

「内緒。

秘密を抱えた男って、ミステリアスだろ?」

 

「ケチ」

 

ユノは、ふふふと笑う。

 

「チャンミンは、どれくらいの期間結婚してた?

あ!

言いたくなかったら、いいぞ?」

 

「うーん...」

 

(そうだよなぁ。

ユノは僕の彼氏だもの。

隠し事はよくないよなぁ)

 

「3年...くらいかな」

 

「...長いね」

 

(俺とチャンミンは、たったの7か月と12日。

3年だなんて...全然、負けてる...)

 

「ユノは前の彼女と...どれくらいだった?」

 

「えー、そこを聞く!?

うーんと...2年ちょっとかな。

チャンミンを好きになった時に、別れたよ」

 

「そっか...」

 

チャンミンの胸がチクりとした。

 

(そうだよね、こんなにカッコいい男の子がフリーでいるわけないよなぁ。

若くて(当然だけど)、可愛い子だったんだろうなぁ。

やだな、ちょっと悲しくなってきた)

 

 

(つづく)

 

 

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