(21)Hug

 

 

 

さすがに今夜は、ユノがチャンミンの布団にもぐりこんでくることはなかった。

 

(この3日間で、これまでお互いに触れていなかった事を、打ち明け合って距離が縮まった気がする。

ユノの爆弾発言も、内容はともかく、恥ずかしそうに打ち明けた姿が可愛かったな。

きちんとしてて、ぽわぽわしてる子が、あそこまで獣になっちゃうとこも意外だったな)

 

「ねぇ、チャンミン。

怒らないで」

 

「聞くのが怖いんですけど?」

 

「あのね。

俺のが、元気になってきた。

ちょっとおさまりがつかないんで...えっと。

俺の上にまたがってくれないかな?」

 

「!!!!」

 

「オレの上に乗ってチャンミンが動いてくれれば、出来るよ。

俺の腰は使いものにならないけど、あそこは元気だから。

ほら、よくあるだろ?

足を骨折して入院中の男の人に、セクシーな看護師さんが上に乗って...あっ!」

 

繋いでいた手が、勢いよく振り払われた。

 

「ねぇ?

ユノは『そんなこと』しか考えてないの!?

僕とエッチすることしか、頭にないんだろ!?」

 

「......」

 

チャンミンの押し殺すような低い声に、ユノは言葉を失う。

 

チャンミンの目から涙がぽろぽろとこぼれ出てきた。

 

(口を開けば、下ネタばっかり。

この子ったら、僕と『ヤること』しか考えていないわけ?)

 

「なんだか...悲しいよ」

 

チャンミンの目に涙が光っていることに気付いて、ユノはひやりとした。

 

「チャンミン...」

 

チャンミンの近くへ寄ろうとしたが、腰に激痛が走る。

 

「ごめん。

チャンミン、ごめん。

泣かないで」

 

ところがチャンミンはくるりと、ユノに背を向けてしまった。

 

 

「誤解しないで。

 

『そのこと』ばっかり考えているわけじゃないんだ。

 

俺の中に、ジェラシーがあるんだろうね。

 

俺はチャンミンのことが大好きだけど、言葉や態度だけじゃあ伝えきれない想いがあふれているんだ。

 

やっぱり身体でもひとつになりたい、って思うようになってきて。

 

そう願って、当然だよね?

 

だって俺たちは大人の男と男なんだから。

 

チャンミンの過去に比べたら、俺なんて...って自信がないんだ。

 

言葉や態度で、いっぱい伝える自信はある。

 

でも、それだけじゃ不安なんだ。

 

昔の男との記憶を塗り替えるには、やっぱり身体を繋げるしかないな、って思ってて。

 

あ、もちろん!

 

俺は若くて健康な男だから、スケベなこともいっぱい考えてるよ。

 

チャンミンを思い浮かべて、ひとりエッチしたこともあるくらいだ」

 

 

ユノはチャンミンの背中に向かって必死になって言葉を継ぐ。

 

 

「えーっと、つまり...。

 

何が言いたいかというと、

 

チャンミンとえっちなことをしたい欲求は、やりたい盛りばかりじゃない、ってことを分かってもらえたらなぁ、って。

 

俺の言いたいこと、ちゃんと伝わった?」

 

ゆっくりとチャンミンは、ユノの方へ向きを変えた。

 

(よかった、もう怖い顔はしていない)

 

「ホントに?」

 

「ほんとほんと」

 

チャンミンは手を伸ばして、ユノの手を握った。

 

「僕のことを考えて、ひとりエッチしたって言ってたよね?

どんな破廉恥なことを、想像の中でさせてたわけ?」

 

「うふふふ。

内緒」

 

「怖いなぁ」

 

「チャンミンの裸...綺麗だった。

中も気持ちよかった」

 

「ホントに?」

 

「ほんとほんと。

俺の想像通りだった」

 

「若い身体じゃなくて、ゴメン」

 

「チャンミン!

そういうことを言うな!」

 

ユノの鋭い声に、チャンミンはビクリとした。

 

 

「ねえ、ユノ。

 

僕の方だって不安なんだよ。

 

年甲斐もなく、ユノみたいな若い子に夢中になって。

 

ユノはカッコいいから、いっぱいモテるんだろうなって。

 

ユノと同じくらいの年の可愛い子の方が、ユノには似合うんだろうなって。

 

ユノは若い。

 

ユノはいい男だ。

 

これから沢山の人と出逢うだろう。

 

沢山の人がユノを好きになると思う」

 

 

「...チャンミン」

 

 

「年の差が僕を苦しめているのは、そういうことなんだ。

 

ユノには沢山の未来が待っているんだよ。

 

『これから』の人なんだ。

 

僕はバツイチだ。

 

このことを隠した状態でユノと付き合ってきた。

 

ユノはどう思った?」

 

 

「ムカついたよ」

 

ユノは渋々認めた。

 

 

「でしょう?

 

ユノには分からないだろうなぁ。

 

僕はもともと女の人とは恋愛が出来ない。

 

でも、ユノは違うだろ?

 

男と恋愛するのも、僕が初めてだろう?

 

ユノには普通の恋愛を選ぶ自由があるんだよ。

 

僕みたいな過去ありのおじさんなんかじゃなく」

 

 

「だからさ!

 

そういうこと口にするのは止めろ!

 

第一、チャンミンはまだまだ若いじゃん。

 

30代で年寄りのつもりでいたらさ、ゲンタさんなんて仙人になってるぞ?」

 

 

ユノは顔をしかめながら、じりっとチャンミンの方へにじり寄ってきた。

 

 

「俺はまだまだだね。

 

チャンミンが、どうしてこうまで年の差にこだわるのか、正直、今の俺には理解できない。

 

チャンミンの今の話を聞いても、俺には全然分かんないんだ。

 

俺は、『今の』チャンミンが好きなのに。

 

俺と同い年のチャンミンなんて、全然魅力的じゃないな。

 

あ!

 

そんなことないか。

 

同い年のチャンミンは、それはそれで素敵だろうね...いてて」

 

 

ユノはもっとチャンミンの側へにじりよってきた。

 

チャンミンも布団から出て、ユノの枕元に座った。

 

「チャンミン。

...今も前の旦那さんのこと...思い出すこと...ある?」

 

布団からすっかり這い出たユノは、チャンミンの太ももにしがみついた。

 

「全然。

思い出さないよ」

 

「別れた時、苦しかった?

悲しかった?」

 

「辛かったよ」

 

「駆け落ちするくらい、好きだったんだよね?」

 

 

「...うん。

 

あれ?

 

やっぱり、全部知ってるんだろ!?」

 

 

「ふふん。

 

チャンミンのことは全部、俺は知りたいんだ。

 

でも、ざっとしたことしか知らないよ。

 

俺の存在を知らなかった頃のチャンミンを知りたい。

 

チャンミンとの歳の差を埋めたいんだ。

 

駆け落ちした時...チャンミンは俺より若かったんだろ?

 

で、旦那さんの方は、今のチャンミンと同じくらいの歳?」

 

 

中途半端に隠さず、ユノには全てを話そうとチャンミンは決心した。

 

 

「...うん。

 

猪突猛進。

 

若かったからね。

 

うんと年上だった彼が、僕の全てだった」

 

 

(く、苦しい!

 

チャンミンの過去を知るのは辛い!

 

でも!

 

知らないままだと、勝手な想像で苦しみそうだ。

 

俺は全部、教えてもらうからな!)

 

 

「あの頃の家族は、男の人が好きな僕のことを受け入れてはいたけれど、複雑な心境だったと思うんだ。

 

この町に赴任してきた人でね...奥さんがいた人なんだ」

 

 

「うわぁ...トラブルの匂いがする」

 

 

「その通り。

 

家族が大反対しても当たり前なんだ。

 

離婚した彼の新しい赴任先について行ったから...駆け落ちみたいな形になったんだ。

 

3年ももたなくて...結局は捨てられた格好になってしまったけれど」

 

 

「...それは、キツイね」

 

 

(若かった僕。

 

恋に全力投入できた時代。

 

だから、分かるんだ。

 

僕に向けるユノの心が、どれだけ真っ直ぐで強いものかを)

 

 

「...彼は、いい男だった?

俺よりも?」

 

 

「...比べられないよ。

 

あの時の僕は、彼が一番だと思っていた。

 

それが事実だよ」

 

 

「...そっか」

 

(胸はズキズキするけど、はっきりと認めるチャンミンが、俺は好きだ)

 

ユノの形のよい後頭部を、チャンミンは何度も何度も撫ぜた。

 

ありったけの愛情を込めて。

 

(当時の逆バージョンを再現しようとしている風に見えて、家族が心配しても仕方がない)

 

 

「あの時はあの時。

 

過去は過去だ。

 

もう過ぎてしまったことだ。

 

彼は彼。

 

ユノはユノだよ。

 

彼は過去の人。

 

ユノはね...」

 

 

太ももが熱く濡れていることにチャンミンは気づいていた。

 

(ユノの涙...)

 

 

「今の僕にとって、ユノが全てだよ。

 

今だけじゃなく...これからも。

 

これからずーっと先も、僕の全てがユノだからね」

 

 

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(つづく)