(22)Hug

 

 

 

「チャンミンは情熱的なんだね。

ふふ...意外だ」

 

「ミステリアスな年上の男だからね」

 

「ま、俺の方が情熱的だ」

 

「わかってる」

 

「でもさ、俺は駆け落ちなんてしないからな。

反対されても許してもらうまで、チャンミンの家族を説得するよ」

 

「反対も何も、家族はみんな、ユノのことを認めているよ」

 

「ホントに!?」

 

「父さんも母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんもみーんな、ユノをひと目見て気に入ったと思うよ」

 

「そう?」

 

「うん」

 

(母さんがあらたまった感じで僕に忠告したのも、僕らの本気を感じとったからだと思う。

僕の過去が早々と、ユノの耳に届いてしまったことも、その証拠だ。

ところで、誰がユノにバラしたんだろう。

ユノと接点があった人と言えば...テツさんかな。

ボロボロになって戻ってきた僕に、優しくしてくれた唯一のご近所さんだったから)

 

「俺もチャンミンの家族が好きだよ」

 

「ありがとう」

 

ずずっと鼻をすする音。

 

チャンミンは身を屈め、ユノの後頭部にキスをした。

 

「さあ、もう寝よう?

明日は帰る日だからね」

 

「もうちょっと、こうしていたい...」

 

「ユノに膝枕してあげたら、僕が寝れないよ」

 

「えー。

じゃあ、俺の布団で寝てよ」

 

「駄目。

腰が痛いんでしょ。

窮屈な状態で寝たら、よくないよ」

 

「嫌だ」

 

ユノはチャンミンの太ももに、ぎゅうっとしがみついた。

 

「仕方がないなぁ」

 

チャンミンは苦笑しながらユノの隣に横になると、彼の胸に頭を預けた。

 

「俺が腕枕してあげるね。

夢だったんだ」

 

ユノは片腕でチャンミンの頭を包み込むと、ふふふと満足そうに笑ったのだった。

 

 

 


 

 

 

「あうっ!」

 

ユノはたった今、顔面を打ち下ろしたチャンミンの腕をよける。

 

(チャンミンが、こんなに寝相が悪い人だったとは...。

 

情事(今夜はナシだけど)の余韻に浸りながら、腕枕をして眠りにつく...のハズが!)

 

余程疲れていたのだろう、15分もたたずに寝入ってしまったチャンミンの寝顔に、見惚れていられたのはつかの間のこと。

 

寝返りの打ち方が派手で、ユノの身体を邪魔そうに腕で、脚で押しのける。

 

(チャンミンとひとつベッドで一緒に寝るには、キングサイズのベッドが必要かもしれない)

 

布団からはみ出して、大の字になって眠るチャンミンに布団をかけ直してやる。

 

(チャンミン...ごめん。

俺はチャンミンの隣では眠れない)

 

「いててて」

 

痛む腰をかばいながら四つん這いになると、気持ちよさそうに眠るチャンミンをまたいで、隣に敷いた布団に移動することにした。

 

「あうっ!」

 

チャンミンの真上をまたいだ瞬間、彼の両腕がユノの身体をしっかととらえた。

「うーん...いかんといて...」

(チャンミン!)

いつものユノだったら、震えるほど嬉しいシチュエーションだったが、この時のユノはそんな余裕がない。

 

下からぶら下がるチャンミンの重みが、みしっと腰に響く。

 

(ごめん。

俺のことが大好きなことは知ってるけど、今夜の俺は応えてあげることができない)

 

腰にまきついたチャンミンの手をほどいて、隣の布団にたどり着いた。

 

「ユノ~...むにゃむにゃ」

 

(うっ...可愛い...)

 

まぶたの下の眼球が動いているから、夢をみているのだろう。

 

(俺の夢を見ているんだ)

 

チャンミンの頭の下に枕をあてがってやり、再び蹴り飛ばされた布団をかけ直してやった。

 

「いててて」

 

2つの布団の間で、駆けっこのポーズで眠るチャンミンの方を向いて横たわると、ユノはチャンミンの手を握った。

 

(チャンミン...俺は明日、果たして家に帰れるんだろうか?

明後日から仕事があるから、ちゃんと仕事に行けるんだろうか?

とにかく、睡眠をしっかりとることにするよ。

チャンミン...おやすみなさい)

 

 

 

 

翌朝。

 

チャンミンは目覚めた。

 

(あれ?

いつの間に、自分の布団で寝てる)

 

隣の布団を見ると、無人だ。

 

(ユノは、いずこに?)

 

反対側に目をやると、畳の上で丸まって眠るユノが。

 

(やだ...。

どうしてそんなところで寝ているんだ、この子は!?)

 

頭まで布団にくるまっていて、その端からユノの髪がくしゃくしゃと見える。

 

(ふふふ、可愛い)

 

 

 


 

 

「また、来いよ!」

 

「はい!」

 

「花火大会もあるし、

秋には稲刈りがあるからな!」

 

「...はい」

 

(絶対に、たっぷりとこき使われるに違いない)

 

アルバイト代を支払おうとするのを、丁重にお断りした。

 

「お世話になりました」

 

見送りに出たチャンミン一族に、ユノは頭を下げた。

 

ゲンタは玄関口から、頭を出している。

 

「おじちゃん、また遊んでね」

 

ケンタとソウタは泣き出しそうだった。

 

「『お兄さん』と呼んだらな!」

 

「ヤダー」

「ヤダー」

 

(くー!

このがきんちょ共ときたら、最後まで小憎たらしいんだから!)

 

リョウタから借りた松葉づえをついたユノと2人分の荷物を抱えたチャンミンは、駅まで送るセイコの車に乗り込んだ。

 

セイコはカーウィンドウを開けると、駅前で下ろした2人を手招きした。

 

「2人とも、仲良くね」

 

「はい!」

 

元気よく、ニコニコ顔でユノは答える。

 

(母さん...)

 

感激したチャンミンはセイコに向かって頷くと、走り去るセイコの車が見えなくなるまで手を振った。

 

 

 

 

「ああ!」

 

チャンミンの大声に、隣のユノはとび上がる。

 

「びっくりするじゃないか!

お茶がこぼれたよ!」

 

濡れたひざをお手拭きで拭いていると、

 

「どうしよう...」

 

困りきった表情のチャンミンが、ユノの腕をゆすった。

 

「忘れ物?

チャンミンは荷物が多いからだよ。

セイコさんに、後で宅配便で送ってもらえばいいじゃん」

 

チャンミンは両手で顔を覆う。

 

「そういうわけにいかないんだ」

 

「そんなに大切なものなら、取りに帰ろうか?

セイコさんに連絡して、戻ってきてもらおう。

バスを降ようか?」

 

「いてて」と腰をかばいながら席を立とうとするユノの腕を、チャンミンは引き戻す。

 

「今から戻っても遅いんだ」

 

「遅いって...何を忘れたの?」

 

ユノの顔をしばし見つめていた後、チャンミンは小声で言った。

 

「...捨てるのを忘れた」

 

「捨てる?」

 

「ゴミ箱の中身...」

 

「実家なんだから、それくらいいいじゃん。

セイコさんが片付けてくれるって」

 

「だから、よくないんだってば!」

 

チャンミンはブンブンと首を振った。

 

「お母さんだろ?

甘えなよ」

 

「...普通のゴミじゃないんだ」

 

やっとでユノは、チャンミンの言いたいことを理解した。

 

「なあんだ、そんなことか」

 

ふふんと鼻で笑った。

 

「そんなことで済まないってば!」

 

「装着ミスのが3個だろ。

お父さんのおならという邪魔が入った本番前の1個だろ。

本番で1個だろ。

時間切れでできなかった2回戦の1個だろ。

全部で6個は使ったからなぁ、ははは」

 

「ユノ!

6個分の袋と中身がゴミ箱に入ってるんだよ!

サイアク、サイアク!!

恥ずかしい...!」

 

「いいじゃないか。

誤解された方が、嬉しいじゃん。

6回もヤッたのね、お盛んねって思われて」

 

「ユノ!」

 

チャンミンの顔がみるみる怒りの形相に変わってきた。

 

「想像してみて。

自分の親に、ひとりエッチのティッシュを片付けてもらったら、嫌だろ?

恥ずかしくない?」

 

「うーん...。

確かに、恥ずかしいかも...」

 

ユノはその状況を想像して顔を一瞬ゆがめたが、チャンミンの方を見てにっこりと笑った。

 

「いいじゃないか。

いかに俺たちが仲良しだってことを、分かってもらえて。

ふふふ」

 

「よくないよ。

次に帰省した時が怖い。

恥ずかし過ぎる!」

 

「ねえ、チャンミン」

 

ユノは顔を覆ってしまったチャンミンの腕を、つんつんと突いた。

 

「見て欲しいものがあるんだ。

今朝、ネットで注文したものなんだけど...?」

 

「へぇ、何を買ったの?」

 

「これ」

 

ユノがスマホを操作して見せてくれたものとは...。

 

「ばっかじゃないの!?」

 

「馬鹿とはひどいなぁ!」

 

「信じられない!

ユノって、『そのこと』しか考えてないわけ?」

 

「言い方が気に入らないな。

チャンミンとの愛を深めるのに、必要なものだろ?

いろんな種類を試してみたいじゃん。

いちご味だって...ふふふ」

 

「......」

 

にやつくユノを無視して、車窓の景色を眺めることにした。

 

「まあまあ。

お弁当を食べようか。

セイコさんが詰めてくれたお弁当だよ。

昨日の御馳走もいっぱい入ってるよ。

美味しそうだよ。

チャンミンせんせー、機嫌を直して」

 

 

 

 

交際8か月目。

 

お泊りデートは今回で2回目。

 

なかなか休日が合わない2人だった。

 

チャンミンは未だユノの部屋を訪れたことがなかった。

 

くわえてユノは、チャンミンの部屋を訪れたことはあっても、泊まっていったことがない。

 

真剣になるのを恐れていたチャンミンだった。

 

けれども、今回の旅行(?)でその気持ちは変わった。

 

(次の休みは、ユノの部屋にお泊りしよう。

そう提案したらユノのことだ、飛び上がるほど喜ぶに違いない)

 

顔のパーツ全部を使って喜ぶユノを思い浮かべると、顔が緩んだ。

 

チャンミンは美味しそうに弁当を頬張るユノを、ちらと見た。

 

(あなたは、

僕の可愛い可愛い年下の彼氏。

ユノ、大好きだよ)

 

 

 

 

チャンミンと1歩も2歩も、近づけた。

 

チャンミンの家族も、テツさんもいい人たちだった。

 

それに!

 

俺はチェリー学園を卒業したし...ふふふ。

 

でも、まだまだチャンミンのことを全部知ったわけじゃない。

 

俺のことも、もっと知ってもらいたい。

 

チャンミンの過去の男に嫉妬しないくらいの、大人の男になりたい。

 

次のお休みの時は、俺んちに泊まるんだぞ。

 

寝かせないからな。

 

わかった、チャンミン?

 

 

 

(おしまい)

 

 

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