(3)Hug

 

 

 

「頭をぶつけるなよ!」

 

ユノは素っ裸のまま、チャンミンの父ショウタ、母セイコ、祖父ゲンタ、兄嫁ヒトミに抱えられていた。

 

長風呂でのぼせて、ぶっ倒れてしまったからだ。

 

おろおろしたチャンミンは、彼らの後をついていく。

 

「えらく大きい奴やな」

 

ユノの両脇を抱えた父ショウタは苦しげだ。

 

「丸太を運んでるみたいやぜ」

 

「チャンミン並みにでかい奴やな」

 

と、ユノの両足首をもった祖父ゲンタ。

 

「今どきの子は、大きいんやって」

 

ユノの生尻を下から抱え込んだセイコが答える。

 

「ピーポーピーポー!」

 

「救急車!」

 

甥っ子ケンタ、ソウタは、大人たちの周囲を面白がって駆けまわっていた。

 

2人の兄カンタは、金打ちの練習で留守にしている。

 

「あんたたちがずっと遊んでいるから、お兄さんはのぼせちゃったのよ!」

 

兄嫁ヒトミは、子供2人を叱りつけた。

 

チャンミンは股間に載せただけのタオルが、落ちやしまいかと冷や冷やしていた。

 

(まさかこんな形で、ユノの裸を見ることになるなんて!)

 

初対面のチャンミンの家族に、醜態をさらしてしまったユノを気の毒に思う。

 

「お、おっ!滑る!」

 

「お父さん!」

 

「あともうちょっと!」

 

「む、無理だ!」

 

ユノの脇が汗でぬるついているせいで、ショウタの指が脇から滑ってしまった。

 

「きゃぁぁっ!」

 

どたーんと音をたてて、ユノを頭から落としてしまった。

 

「わぁ!ユノ!」

 

「す、すまん!」

 

「頭を打ったか!?」

 

「お父さんったら、もう!」

 

憤慨したチャンミンは、ユノの頭を膝に乗せた。

 

「大丈夫?」

 

「ううぅぅ...」

 

うめき声をあげて、ユノが目を開ける。

 

「星が...星が飛んでる...」

 

(よかった)

 

「ここは...天国?」

 

「!!!!」

 

わずかに隠していたタオルが落ちたはずみでずり落ちて、総勢7人の面々にさらされていることにチャンミンは気づく。

 

(大変!)

 

母セイコが素早くタオルで隠す。

 

「おじちゃん、毛がぼーぼー」

 

大喜びのケンタとソウタ。

 

チャンミンは額に手を当て、大きくため息をついた。

 

(ユノったら、可哀そうに)

 

 


 

 

その夜。

 

チャンミンは忍び足で廊下を歩いていた。

 

築50年を超す田舎家だったから、足を踏み出す度きしむ音にヒヤリとし、周囲に耳をそばだてた。

 

(僕が夜這いをかけてどうするんだ!)

 

ユノは仏間に寝かされている。

 

(一番の難所は、おじいちゃんたちの部屋)

 

祖父母の枕元を通らないと、仏間へは行けない。

 

すーっと障子を開ける。

 

チャンミンは息を止めて、抜き足差し足で彼らの布団の脇を通り過ぎる。

 

途中、寝返りを打った祖父にビクリとしたが、熟睡しているようでチャンミンは胸をなでおろした。

 

建付けの悪いふすまを小刻みに開けると、常夜灯だけの薄暗い部屋で、仏壇の前に延べた布団が真正面に見えた。

 

「ふうっ」

 

息を止めていたチャンミンは、ここでようやく息をつくことが出来た。

 

(あれ?

ユノが寝ているはずの掛け布団が、平らなような気が...?)

 

「ユノ?」

 

そろそろと、布団に近づき、掛け布団をめくろうとしたら...。

 

「ひゃっ!」

 

突然、チャンミンの肩にポンっと手が乗った。

 

「くくくく...」

 

ふりむくと、ユノが口を押えて笑いをこらえている。

 

「ちょっと!」

 

チャンミンは、きっとユノを睨みつけた。

 

(心臓が止まるかと思ったじゃないか!)

 

どうやらユノは、チャンミンを驚かそうと、ふすまの陰に隠れていたらしい。

 

(やることなすこと、子供みたいなんだから!)

 

隣室で、「なんだ、今の悲鳴は?」という声とともに、ごそごそと祖父母が起き出す物音がする。

 

「!!!!」

「!!!!」

 

「お父さん、もしかして...?」

 

「泥棒か?」

 

がたがたっとふすまが開いて、祖父ゲンタが部屋に飛び込んできた。

 

「こんばんは...です」

 

ゲンタの目前には、正座をしたユノが。

 

「俺です。

おじいさん、そんな物騒なものは下げて下さいな」

 

「なんだ、ユノ君か...」

 

ゲンタは振り上げた竹刀を下すと、仏間を見回す。

 

ゲンタの背後から、祖母カツが首をのぞかせている。

 

「さっきの声はなんだ?」

 

「すみません。

祭りの掛け声の練習をしていました」

 

「練習?」

 

「はい。

俺の役目は重要なので」

 

「熱心なのは感心するが、真夜中だぞ。

明日一日あるんだ、昼間にやりなさい!」

 

ゲンタは吐き捨てると、竹刀を引きずりながら仏間を出て行った。

 

ユノの布団にもぐり込んだチャンミンは、ユノとゲンタのやりとりをびくびくしながら聞いていた。

 

ゲンタたちが寝入るまでたっぷりと待ってから、ユノは布団をめくる。

 

「チャンミン、大丈夫だよ」

 

できるだけ平らになるよう、チャンミンはうつぶせで大の字になっていた。

 

「危なかったねー」

 

すると、ユノが布団の中に滑り込んできた。

 

「ユノ!」

 

「チャンミ~ン」

 

ユノの腕が伸びて、チャンミンの腰に巻きついた。

 

「ずっとこうしたかった...」

 

チャンミンは、自分の胸に頬をこすりつけるユノの頭をなでる。

 

「...チャンミン」

 

「なあに?」

 

「我慢できなかったんだね?

だから、夜這いに来ちゃったんだね?」

 

「違うよ!

ユノが心配だったから、様子を見に来ただけ。

ほら、頭を2回も打ったでしょ?」

 

「嘘だね」

 

「嘘じゃないよ!」

 

「チャンミンの胸...ドキドキしてる」

 

「!」

 

(だって、だって。

ユノの脚が僕の脚にからまっているんだもの。

こんなに密着するのは初めてだし...)

 

チャンミンの身体はぐんぐん火照ってくる。

 

「興奮してるんだ?」

 

「ユノの馬鹿!」

 

チャンミンはユノの脚を蹴飛ばした。

「痛いなぁ!」

 

「この脚をどかせ!」

 

「嫌だ。

ぎゅー!」

 

ユノは、チャンミンの背中にまわした腕に力を込めた。

 

「痛い痛い!」

 

(チャンミン...辛い...)

 

チャンミンの固く逞しい身体を抱いているうちに湧いた、抜き差しならぬ欲求とユノは闘っていたのであった。

 

 

 

 

ヤバい!

 

チャンミン、ヤバい!

 

俺のが暴発しそうだ!

 

止められないよ!

 

でも、止めなくては!

 

せっかくのチャンスなのに!

 

ここが仏壇のある部屋じゃなければ、とっくにチャンミンを襲っているのに!

 

場所が悪すぎる!

 

 

 

(つづく)

 

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