(8)恋人たちのゆーふぉりあ

 

 

~ユノ~

 

「例のモノが届いたぞ」のお知らせから15分後、チャイムが鳴った。

 

ドアを開けると、はあはあ呼吸荒々しいチャンミンが立っていた。

 

自宅から走ってきたのだろう、額を汗で光らせ、頬は真っ赤に上気している。

 

俺の住むアパートと祖父母と3人暮らしのチャンミン宅は、間に大学の広大な敷地を挟んでいる。

 

大学構内を突っ切るのが最も近道だが、それでも片道2キロはある。

 

ワクワクを隠し切れない風に、瞳を輝かせているチャンミンに、「知らせてやるんじゃなかった」と後悔していた。

 

興味を持ったものにはどん欲そうなチャンミン、取り寄せたこれらを「今すぐ試してみよう」なんて言い出しそうだったからだ。

 

「見せてよ」

 

「あれ」

 

俺はベッドの上のモノを、顎で指す。

 

俺がぶっちっぎった段ボール箱の残骸に、チャンミンは「ユノったら...待ちきれなかったんだね」と笑っている。

 

「どれどれ...」

 

チャンミンはベッドに腰掛け、ひとつめの箱を開封し始めた。

 

「酒飲む?

発泡酒しかないけど?」

 

「いらない。

ありがと。

へえぇ...想像してたよりも小さいね」

 

何とコメントをしたらいいか困惑中の俺は、台所に引っ込んだ。

 

冷蔵庫からウーロン茶とスナック菓子をとって引き返した時には、チャンミンは件のグッズを布団の上に陳列していた。

 

「カラフルだね。

いかがわしいものには全然見えない」

 

「エロさを軽減するためじゃねぇの?」

 

俺はチャンミンの足元に胡坐をかいた。

 

「まずはこれで『拡張』するんだよね」

 

ワインオープナーのような蛍光色のそれを、チャンミンはワインのコルクを抜くような手つきで持っている。

 

「...使ってみる?」

 

「俺が!?」

 

目を白黒させた俺を、チャンミンは舌をちろっと見せて「冗談」と笑った。

 

「びっくりさせるなよ~」

 

「ははは!」

 

外国製らしいそれの説明書きが中途半端な翻訳文だったせいで、怪しい空気の濃度を高めていた。

 

チャンミンは、1本の紐に大小さまざまな玉がくっ付いているものをぶら下げてみせた。

(それは半透明の飴玉みたいで、用途を知らされていなければ、見た目は綺麗だ)

 

「これってホントに必要なのか?」

 

「若葉マークの僕らには早いね。

おいおい使うでしょう」

 

ケチャップみたいなチューブに入ったもの、軟膏みたいなチューブに入ったもの、ドレッシングみたいなボトルに入ったもの...。

 

「いっぱいあるね。

試してみて、気に入ったやつを見つけようよ」

 

「こんなものに頼らないといけないなんて、不便だなぁ」

 

俺は先日、指先に触れたチャンミンのそこを...乾いたままのそこを思い出して言った。

 

「『滑りと潤いを足します』...だって。

うふふ」

 

くらり、と眩暈がした。

 

俺たちは何かが間違っている。

 

ベクトルがズレている。

 

流れに任せて状況に応じて...ではなく、小道具をまず揃えようとしている点。

 

本格的な珈琲の淹れ方をマスターしたいと思った男がいる。

 

足りないものを必要に応じて揃えていくのではなく、最初に必要な道具を全部揃えてしまった。

 

ドリップコーヒーを淹れたこともなく、インスタントコーヒーの味しか知らないくせに、珈琲専門店で買った豆を、自身の手で挽こうとしている。

 

(ここで言うインスタントコーヒーとは、ひとりエッチだったり、ブツのしごき合いっこをいう)

 

なんと、その男は一度も究極な珈琲を味わったことがないのだ。

 

(ここで言う究極の珈琲とは、究極のエッチで得られる快感と幸福感をいう)

 

ゴールを知らないくせに、その過程を重視してしまった男...つまり、俺たちのコト。

 

「なぁ。

俺は...お前とえっちがしたくて付き合ってるんじゃないんだぞ?」

 

この手の話となると食い気味になるチャンミンに、引っかかっていたんだ。

 

「ユノ...」

 

「俺は...チャンミンとヤリたいよ。

でもさ...道具が使いたいわけじゃないんだ」

 

「ユノ...?」

 

チャンミンは俺の肩を抱き、項垂れた俺を覗き込んだ。

 

「そればっかりじゃないよ。

えっちがしたいからユノと付き合っているわけじゃないよ」

 

拗ねた俺をなだめるように、チャンミンは俺の背中をポンポン叩いた。

 

「どうしてもヤりたいわけじゃないから。

しごき合いっこでも十分。

ユノを誤解させてごめんね」

 

「...うん」

 

すん、と鼻をすすった。

 

「でも...やっぱり...」

 

俺は腰を上げ、

 

「ヤりたい!」

 

力任せにチャンミンをベッドに押し倒した。

 

「ひゃああ!」

 

チャンミンははしゃいだ悲鳴をあげ、俺の両腕の間で三日月型の眼で見上げている。

 

「でしょう?」

 

「うん。

したい」

 

額をくっ付け、くすくす笑いをこぼし合った。

 

「玩具で遊ぶみたいに、ヤろうよ。

実験みたいにさ」

 

「そうそう」

 

「課題みたいに?」

 

「そうそう。

研究みたいに?」

 

「研究ってエロ過ぎないか?

何を研究するんだよ?」

 

「あははは」

 

俺たちの手はそろそろと、互いのそこに落とされる。

 

かたどるように衣服の上から撫でさする。

 

上では濃厚なキス、反面下ではソフトタッチで焦らし合う。

 

先端を引っかいたり、さおをガシガシしたり。

 

たまらくなって、互いのブツを引っ張り出すしかなくなるのは、いつもの流れだ。

 

タマの熱気と手の平の汗、漏れ出るエロい汁。

 

後半ではキスどころじゃなくなり、互いの頭を抱え込み、互いの肩に荒々しい息を吹きかけ合う。

 

2本まとめてフィニッシュ。

 

「はあはあはあはあ...」

 

しごき合いはいい...確かにいい。

 

...でもね、足らない。

 

 

お取り寄せしたモノのメインディッシュは、俺たちでもそれが何たるか承知している。

(実際に使ったことはない。すべてはエロ動画から仕入れた知識だ)

 

ジェルとセットになったミニマシン。

 

「『塗布された箇所の感度をあげます』...だって」

 

と、チャンミンは付属のチューブを箱から出した。

 

「これを注入してから...マシンを突っ込んで...そして、スイッチを入れる...ん?

不親切だね。

電池が付いてないや。

買っておかないと...」

 

「そんなはずはない。

充電タイプがいい、って言ってたのはチャンミンだろ?

見せてみろ。

ほら」

 

コントローラー下のUSB端子を指さしてやった。

 

「便利だね」

 

説明書きを読んでいたチャンミンは、箱を表にひっくり返した。

 

「『恋人たちのEuphoria』」

 

「えふふぉ...ゆーふぉりあ...?」

 

「検索してみて」

 

「えっと...陶酔、幸福感」

 

「へえぇ...。

気の利いた商品名だね」

 

「陶酔か...。

ヤッてヤッてやりまくって、飽きてきた時に使おうか?」

 

「ヒヨコな僕たちには、大人過ぎる道具だもんね」

 

 

(つづく)

 

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