(中編)お前に伝えたいことがある

 

 

同じような考えの者たちでホテルは混雑しており、最後の1部屋を滑り込みでゲットした。

 

内装も備え付けの家具も古びており、エアコンは風量調整が出来ずに暖房がききすぎていた。

 

シーツはパリッとしていたのが救いだった。

 

濡れた洋服はハンガーにかけて、エアコンの下に吊るした。

 

明日の朝までに乾きそうだ。

 

濡れたスリムパンツが脱げずに、両脚をバタバタさせているチャンミンを手伝った。

 

俺は裾を掴んで引っ張って、脱げた勢いで後ろにひっくり返ったチャンミンに大笑いだ。

 

「お前、パンツも濡れてるじゃないか。

脱げよ」

 

「脱いだらどうすんの?

替えがないんだよ?」

 

「ノーパンでいいじゃん?」

 

「やだよ」

 

「俺...パンツ穿いていないお前が好きなんだよなぁ。

可愛いチャンミンを見せて欲しいなぁ」

 

「ユノこそ、見せろ!」

 

「おお、いいぞいいぞ。

脱いだる」

 

足止めされ帰宅できなかった不運はすっかり忘れ、俺たちはふざけ合う。

 

すべての衣服を脱ぎ捨てて、俺たちは抱きあったままベッドに倒れ込み、唇を重ねた。

 

本日初めてのキスだ。

 

行為の流れも中身もいつも同じで、マンネリだったりする。

 

それでも、チャンミンの中は温かく気持ちがよくて、慣れ親しんだ安心感に包まれるのだ。

 

帰宅を諦めた時点で俺のプランは延期決定となり、ホッとしたのに肩すかしをくらったような、複雑な心境だった。

 

「場所が変わると...盛り上がるね」

 

「うん」

 

「こういうのも新鮮でいいものだね」

 

のべ何千人分の客たちの眠りと性行為を受け止めてきたベッドに、俺たちは横たわっている。

 

故障したエアコンのせいで、室温は表示されている25℃以上あるはずだ。

 

チャンミンのあそこの毛が乾いて、ふさふさしているところが可愛らしかった。

 

「暑い」

 

「窓開けようか?」

 

チャンミンは四つん這いになって、カーテンを開けた。

 

両脚の間にぶらさがるものも愛しい。

 

「好き」の気持ちだけで、交際期間を延ばし続けることはできるのだろうか。

 

俺はそうは思わない。

 

 

 

「腹が減ったな」

 

ルームサービスは当然なく、自販機のカップ麺もナッツ菓子も売り切れていた。

 

湯を沸かしてティーバッグの緑茶とともに、自分たち用に土産で買ったバウムクーヘンを食べた。

 

「甘いものばかりも辛いね」

 

「しょっぱくて熱いものが食いたい。

インスタントでもいいから」

 

「うん。

コンビニに行こう。

部屋でダラダラしたい。

服も濡れてるし」

 

「コンビニに行こう!」

 

外はあいかわらず大雨が降り続いていた。

 

俺たちはホテルで傘を借り、コンビニエンスの照明を目指した。

 

ホテルの立地は駅前で、居酒屋やカフェなど飲食には困らないが、足止めを食らった客たちの避難場所として、どの店も混雑している。

 

代替バスも運行を開始したようで、バス停には行列が出来ていた。

 

人々の吐く息が白かった。

 

ホテルに逃げ込んで正解だった。

 

 

売り切れのせいでガラガラの商品棚からめぼしいものを購入し、ホテルへと戻る途中だった。

 

「...あっ!」

 

突然、チャンミンは足を止めた。

 

「忘れてた!」

 

頭の上にでっかいビックリマークが立つほどの、重大なことのようだった。

 

チャンミンは俺に背を向け、スマホを操作し出した。

 

俺はチャンミンの電話が済むのを待った。

 

傘からはみ出した肩が、乾きかけた服を再び濡らしていく。

 

「はい...キャンセルで。

すみません、連絡が遅くなってしまって」

 

チャンミンはそこにいない誰かに、ペコペコと頭を下げていた。

 

「料金は...もちろん。

はい...電車が止まってしまって。

...はい、そうです...○○線です。

キャンセル料は払いますので...」

 

慌てるあまり、チャンミンの声は大きくなっていて、そのつもりがなくても会話が耳に入ってきた。

 

「えっ!?」

 

その声の素っ頓狂なことといったら。

 

背後に俺がいることを忘れているようだ。

 

「よろしいんですか?

...そんな、申し訳ないです。

はい...。

来週は?

助かります。

ありがとうございます!」

 

(なるほどね...)

 

チャンミンもサプライズを用意していたようだ。

 

チャンミンの電話が終わる前に、ホテルへと小走りした。

 

「ユノ!

お待たせ」

 

チャンミンも小走りして、俺に追いついた。

 

「電話は何だったの?」

 

「んーとね...仕事。

休みの日なのに、困っちゃうね」

 

チャンミンは嘘が下手だ。

 

ぎこちない言い方に、隠し事はバレバレなのだ。

 

俺は気づかないフリをして、「そりゃ大変だな」と言った。

 

 

 

手の込んだサプライズは、チャンミンと交際を始めて初めてのことだった。

 

予定通りなら、俺たちは今この時、ロマンティックな部屋で気取った材料と味付けで作られた料理を食べていた。

 

リアルのメニューは、コンビニエンスストアのいなり寿司と生ハム、インスタントのコーンスープだった。

 

シャンパンを入れた湯船に浸かり、柔軟剤をきかせたシーツの上で愛液まみれていたはずだった。

 

リアルの俺たちは、小狭いユニットバスで重なりあっていた。

 

肘や膝を何度も打ちつけ、歯磨きコップとアメニティが床に払い落とされた。

 

後ろから抱きしめて、深く鋭く貫いた。

 

喘ぎ声が響かないようにと、チャンミンはシャワーカーテンを噛んでいた。

 

 

 

(つづく)

 

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