(12)恋人たちのゆーふぉりあ

 

 

~チャンミン~

 

 

ユノはベッドに腰掛けると、僕の手をとり指と指とを絡めてきた。

 

「まあ...俺たちは、世間一般的にみれば少数派だ。

そういう人間の存在は知っていても、身近にいれば物珍しげに遠巻きに見てしまっても仕方ない。

ところが俺たちは、もとはノーマルだ。

これまでの俺たちを知っている者から見れば、

『こいつ、どうしちゃったんだ!』

『これまで隠してきたのか!』

と、驚きと拒絶感が前面に出てきても仕方ない」

 

「...それくらい、分かってるよ」

 

頭では一昨日みたいなことが起こるだろうと、身構えていたけれど、実際に冷ややかな目でみられたら、ショックを受ける。

 

それも、親しくしていた友人に。

 

「噂は...Dかな?」

 

「DちゃんやAが直接言いふらさなくても、2人から話を聞いた友だちが広めた可能性も高い」

 

じっと考えたのち、ユノはため息をついた。

 

「俺たちは彼女たちに恨まれて当然だ。

いつかはこうなるだろうなぁって、予想はしていたから...予想よりは遅かったね」

 

「遅かったからマシとでも言いたいの?

ユノは実際に嫌われていないから、余裕なことが言えるんだよ!」

 

ユノに突っかかり、一昨日に湧いてきた怒りを彼にぶつけてしまった。

 

ユノが悪いわけじゃないのに...。

 

「チャンミンの気が楽になることを教えてやるよ」

 

ユノは座り直して、僕の方に向き直った。

 

「俺もね...一人になっちまった」

 

「え...?」

 

「一人、ってのは大げさかな。

10人いる友だちのうち、7人は失ったかなぁ。

残ったうち1人は女子だ。

面白がったり、恋愛相談をしょっちゅう持ち掛けるようになった。

映画やドラマであるだろ、女子の相談役になってるゲイが?

女子の気持ちを理解してるからって。

俺たちは違うのに...。

...誤解しまくりなんだよなぁ」

 

「あとの2人は?」

 

「同じ高校だったんだ。

俺のことをよく分かってくれてる奴らだよ」

 

「...そうなんだ」

 

ユノも似たような経験を既にしていたのに、僕には一切漏らさなかった。

 

「チャンミン」

 

この後のユノの台詞に、僕は苦しくなった。

 

「俺が男で...ごめんな」

 

「ユノっ...!

男でごめん、なんて言わないで」

 

繋いだ手を離し、ユノの肩を揺すった。

 

ユノはぐらぐらと、僕に揺すられるがままでいた。

 

「僕の方こそ、男でごめんね?

お尻なんて嫌でしょ?」

 

「チャンミ~ン。

俺たちは今、恋愛について話してんの!

話題はケツじゃない!」

 

「分かってるってば!

僕はユノが好きだから、ユノと付き合ってんの!

後悔はしていない。

ただね、哀しくなってしまっただけなんだ。

う~んと...さっきはごめん。

ユノに話して楽になったよ」

 

「ケツの話は?」

 

「この前、出来なかったでしょ?」

 

「あ~、確かに」

 

「お尻にショックを受けたんだろうなぁって。

構造が違うでしょ?」

 

「穴であることには変わりないじゃん。

え!?

チャンミンは女の子のアソコがどうなってるのか、知ってるんだ?」

 

「...僕だって...知ってるよ。

童貞だからって馬鹿にするな!

ふぅ...。

あそこは排出するところだし、簡単には入らないみたいだし、乾いてるし。

つまりね!

女の子のアソコと違うってこと!

引いてしまったんでしょ?

だからだよ...男でごめんね、って言ったのは!」

 

怒った風の僕の言い方は、「ごめん」と謝ってはいても、開き直りの精神でいたのだ。

 

「うまいこと出来なくて、ごめんな」

 

「いいって。

僕も怖かったし...」

 

僕らはもう一度手を繋ぎ、ぱたんと二人同時に後ろに倒れた。

 

「はあ...なんと世知辛い世の中」

 

「障害があるほど燃えるぜ精神でいこうか?」

 

「うん」

 

繋いだ手に力を込めた。

 

僕らはしばし、黙ったままでいた。

 

「いいこと思いついたぞ」

 

突如、ユノは跳ね起きたので、僕もそれに倣った。

 

「いいか。

俺たちの周りには...」

 

僕の身体のラインを、人型に両手でかたどった。

 

「空気の層がある」

 

「空気の層?」

 

次にユノはもっと大きく、僕のラインをかたどった。

 

「この空気の層は、とても強力なバリアなんだ」

 

ファンタジックな例えに、僕は吹き出してしまう。

 

「笑うところじゃない。

俺は真面目に話しているんだ。

最後まで聞くんだ」

 

「わかったよ」

 

「ごちゃごちゃ言う奴のことは無視しろ。

このバリアのおかげで、俺たちのことを気味悪がる悪口は、俺たちの心には突き刺さらない。

俺がそばにいなくても、チャンミンのことをちゃ~んと想ってるから。

どんと構えていろ」

 

僕は自身の不快感と不安感ばかりに気をとられていて、ユノのことまで考えが及んでいなかった。

 

「友達が減ってしまっても、俺がいるんだ。

メソメソするな」

 

「うん...」

 

「俺はいわゆる...チャンミンの彼氏だけど、俺たちの事情を知らん奴からしたら、友人同士にしか見えない。

ここが男同士のいいところだ」

 

「...でもさ、いつかは噂が広まるんじゃないの?」

 

「チャンミ~ン。

うちの大学に何人学生がいると思ってるんだよ?

俺たちはミスター何じゃらじゃないんだ。

誰も注目する奴はいないって」

 

「でも、分かんないよ?

僕らの名前を知らなくてもさ、『あの子たちよ』って指さされるかもよ?」

 

「でもでもばっかり言うなよ~」

 

「でもっ!」と次いで出てしまった口を慌てて押さえた。

 

「コソコソ言われるのが嫌なら、俺と別れるか?」

 

ユノの台詞に、背筋が凍った。

 

「やだ!」

 

「だろ?

自信を持て。

俺はチャンミンと付き合えて、ほんっとーに嬉しいんだ。

雑魚どもの噂なんて気にするな...なんて、無理だよなぁ」

 

「...うん」

 

しょんぼりした僕の肩を、ユノはバシバシ叩いた。

 

「よし!

俺にいい考えがある!」

 

「?」

 

「決行は明日だ。

午後から会えるよな?」

 

「う、うん」

 

「チャンミンは堂々としていろ」

 

ユノの計画が何なのか、全く予想がつかなかったけど、自信満々の様子に僕は頷いた。

 

 

(つづく)

 

 

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