(14)恋人たちのゆーふぉりあ

 

 

~チャンミン~

 

 

ユノは僕を驚かせる。

 

僕のお尻に怯んでいたユノが、大胆なことをやってのけた。

 

今でもあの瞬間...周囲のざわめきが消えて無音になり、思考も真っ白になったあの瞬間が、夢に出てくる。

 

驚きの次に沸いてくるはずの怒りも忘れた。

 

なぜなら、そのキスがとても素敵なものだったから。

 

今はキスに集中しろ、といった風に、うなじをつかんだユノの手は力強かった。

 

ユノの心の声に、僕は心の中で頷いて、重ね合わせた唇の湿り気と、中で暴れまわる舌同士の感触に集中した。

 

ユノは「目を閉じていろ」と囁いたけど、僕は薄目を開けていた。

 

僕らに注目しているはずの面々を確認するためじゃない。

 

柔らかい唇の感触、密着した頬の熱さと汗の香り、美容院にいきたてのもみあげの髪。

 

全部を確かめたかった。

 

ユノの尖った耳の先や、やわらかさそうな耳たぶの映像が、色濃く記憶に残っている。

 

唇を重ねなおすごとに、僕はどうでもよくなってきた。

 

よそ見している間が勿体ない。

 

僕が注目し、味わい尽くしたいのは目の前の男なのだ。

 

拒絶反応を示したのは現在のところ、AちゃんとD、それからE君やF君と言った、狭い交友関係に限られていた。

 

過敏になり過ぎるあまり、全学生から指さされ心ない噂をたてられていると、妄想を逞しくさせてしまっていたようだ。

 

母数を広げてみれば、キモイと拒否感を示す者はごく一部で、面白がる者もいるけど、大半は無関心だと思う。

 

彼らは忙しい。

 

僕らも含めて若い彼らは、面白いこと珍しいものを常に探している。

 

教授の毛髪事情や、大学生協でコンドームが販売開始になったことだけで爆笑し、それらを飲み会のネタに大いに盛り上がれる人種だ。

 

そして、飽きっぽい。

 

僕のイメージはこうだ...城のバルコニーに立つ王と妃に、広場を埋め尽くした何万人もの民衆が卵をぶつけている。

 

このイメージも大げさだったみたい。

 

並木道を手を繋いで歩く姿も、カフェテリアで食べさせ合いっこしている姿も、駐輪所でこっそりキスを交わしている姿も、そのうち当然の光景になってくれるだろう。

 

僕らを放っておいてくれるだろう。

 

ユノの作戦ったらもう...凄いんだから。

 

 

 


 

 

~ユノ~

 

その日、一旦解散した俺たちは、夜になって俺の部屋に集合した。

 

チャンミンは昼間の一件に触れなかった。

 

「何てことしてくれたんだ」と怒るどころか、それに言及することもなかったため、俺は拍子抜けした。

 

俺も含めてチャンミンも、目下の問題が解消したからなんだろうな。

 

俺の意図をチャンミンがどう解釈したかは分からない。

 

敢えて語り合わなくても、今はいい。

 

すっきりと、リラックスした表情で俺の隣にいてくれるだけで、俺は十分なのだ。

 

いつか、笑い話のネタとして話題に出てくるだろう。

 

計画は成功だった。

 

 

 

 

「ユノ」

 

「うん?」

 

テーブルに広げたコンビニ弁当を食べていると、チャンミンがあらたまった風に俺を呼んだ。

 

「僕んとこ、見てみる?」

 

「?」

 

チャンミンは立ち上がると、ズボンを脱いだのだ。

 

「!」

 

その潔すぎる行動に、俺はあっけにとられてチャンミンを見上げるばかりだった。

 

パンツも脱いでしまうと、くるりと俺に背を向けた。

 

「!!!」

 

チャンミンの中心線のお終いに、蛍光色のワインオープナーが刺さっている。

 

俺の胸はきゅん、としなった。

 

スイッチが入った。

 

飯の最中だったのが、カチッとエロのスイッチに切りかわった。

 

チャンミンの覚悟に応えないと!

 

いつまでも悶々と悩んでいる自分が馬鹿らしい、俺より負担が大きいのはチャンミンなのだ。

 

俺も服を全部脱ぎ、チャンミンの首にタックルして、二人もろともベッドに横倒しになった。

 

「刺したまま来たんだ?」

 

「ここまで走ってきたんだけど、奥に響いて仕方がなかったよ。

女の子みたいに内股になっちゃってさ、変な走り方になっちゃった」

 

どうりで、さっきからもぞもぞしていたはずだ。

 

「どんな感じ?」

 

「うーん...悪くないよ。

これって初心者向けのやつだから、想像よりは難しくなかった」

 

階下にじーさんとばーさんがいる部屋で、ドアをカラーボックスで塞いだうえで、チャンミンはこれを仕込む練習をしていたのか...。

 

その姿に興奮できるほど開発されていない俺は、「すげぇな」とチャンミンを褒めるしかない。

 

唇を重ね、熱い吐息まじりにチャンミンは「抜いて?」と。

 

俺は頷いて、横たわったチャンミンの脇に座り直した。

 

オープナーの輪っかに指を引っかけた。

 

深呼吸を繰り返すチャンミンの下腹は、大きく波打っている。

 

ほんの5ミリほど引っ張った瞬間、チャンミンの腰がびくんっと跳ね上がった。

 

「怖いのか?

止めようか?」

 

「いや...平気...。

びっくりしただけ。

一気にいっちゃってよ」

 

ワインオープナーを...20年寝かしたワインのコルクを、慎重にひねり抜く。

 

「どう?」

 

「平気っ。

ゆっくりやられると怖いから、一気にお願い」

 

「ああ」

 

俺はゆっくりゆっくり、オープナーに吸い付く入り口から目を離さず、コルクを抜いていく。

 

「ふっ...」

 

「あと少しだ」

 

俺の全身から汗が吹き出し、胸の谷間をつたう感覚も分かるくらいだった。

 

自分で出し入れするのと他人に任せるのとでは、ドキドキ度が違うのだろう。

 

強がっているのは、シーツを握りしめた手が震えていることから伝わってきた。

 

抜けた...!

 

チャンミンから解放されたそれは、想像より細く短く、納得の初心者用だった。

 

直後は小指ほど開いていたそこも、目を離しているうちにぴたり、と閉じてしまった。

 

 

(つづく)

 

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