~チャンミン~
「咥えろよ」
命じられた屈辱さえ、快感の火種だったのに。
今日の火種はくすぶるばかりで、ちっとも炎を見せてくれない。
僕は喉奥まで食らえ込んで、えづくのを堪えながら必死でしゃぶる。
ユノはベッドに腰掛け、僕は床に足を折って座り、ユノの股間に顔面を埋めていた。
僕の後頭部を、ユノの大きな手がぐいぐいと押さえこんでくる。
「今頃になって、どうして連絡してきた?」
「...それはっ...」
頬張ったものから口を離して、ユノを見上げる。
逆光のせいで、ユノの表情は分からない。
「言えないのか?」
「...ユノの...声が聞きたくて...」
「それだけか?」
激しく首を横に振る。
「結婚するって...聞いて...んんっ...」
再び頭を押しつけられて、話の続きをしゃべらせてくれない。
「俺が結婚することが、どうして電話かけてくる理由になるんだ?」
「ユノがっ...」
「俺が...なんだって?」
「ユノが...誰かのものになるって...嫌だったからっ...」
ユノを早くイカせてやりたくて、僕は指も舌も喉も内頬も、全部使う。
「あ...」
僕の額にユノの手がかかって、顔を仰向けさせられた。
僕を見下ろすユノの眼が、逆光なのにギラリと光っていた。
ユノは、怒っている。
「そういうお前こそ、誰かのものになったじゃないか?」
「そうだけどっ...」
核心を突かれて、僕はとっさに目を反らし、それを許さないユノにあごをつかまれた。
「遅いかもしれないけど...遅すぎるけど...誰かのものになったけど」
「けど?」
ユノはベッドから腰を上げ、僕の両脇に腕を通し、僕を引っ張り上げた。
「チャンミン...お前が萎えたままだと、いつまでたってもイケないよ」
「...ごめん」
ユノはふっと小さな笑みを口元に浮かべ、両手をクロスさせてニットを脱いだ。
ユノの半身が綺麗で、逞しくて、僕は、ほぅっと感嘆の吐息を漏らしてしまった。
僕はこんなにも綺麗な人を、捨ててしまったんだ。
下の物もすっかり脱いでしまうと、ユノは横たわったマットレスをぽんぽんと叩いた。
「来いよ」
僕は喜び勇んでユノの隣に転がり込む。
ユノの腋に鼻先をこすりつけた。
懐かしい匂い、ユノの香り。
「愉しもうか?
最後だと思って、愉しもう」
「最後なんてっ...」
「嫌だ」と口にしかけたけど、斜めに顔を傾けたユノに唇を塞がれた。
強めにしごかれているうちに、僕の口はだらしなく開きっぱなしになって、発する言葉も意味をなさないものとなっていった。
~ユノ~
犬がそうするみたいに、チャンミンは俺の腋に鼻を埋めている。
チャンミンは、俺の手の中であっという間に果ててしまった。
遮二無二にしがみつく甘ったれた行為に俺が弱いことを知っている、計算づくの行動に俺は苛立つ。
5年前の俺はそうだったが、今の俺はそうじゃない。
チャンミンに捨てられて負った傷が癒えるのに、5年かかった。
それほどまでにその傷は深く、それほどまでにチャンミンにのめり込んでいた。
ようやく傷がふさがり、かさぶたになったのを剥がされた。
この男に。
「俺の人生をぶち壊しに来たのか?」
「...違っ」
チャンミンの尻に手を伸ばし、チャンミンの中心線に沿って指を滑らした。
指先の感触で探り、目当ての箇所に突き立てた。
「ひっ」
ひねりながら慎重に沈めていくのだが...。
「キツイな」
「使ってなかったから...」
「そうなのか?」
「...っうん...」
何の準備もせずに俺と会うなんて、そのつもりでいたにしては、固く閉じた入り口。
丸めたチャンミンの背が震えている。
視線を落とすと、ぎゅっとつむった目と食いしばった歯。
「痛いか?」
「っん...!
平気っ...」
チャンミンを裸に剥く直前、「その気だったんだろ?」とすごんだ時、チャンミンは「違う」と答えた。
もしかして、その言葉は本当だったのか?
一瞬、罪悪感が胸をかすめた。
チャンミンは俺に対して、罪の意識を持っている。
悪いのは全てチャンミンで、俺が許すまで謝罪の言葉を吐き続けなけらばならないのはチャンミンなのだ。
この場での力関係は、俺の方が上だ。
・
「ユノっ...平気だからっ...挿れてっ」
チャンミンは胎児のように身体を丸めると、自身の尻に腕をしまわして、必死な形相で指をうごめかしている。
俺のモノを受け入れるために、入り口をほぐしているのだ。
最後に抱いた日の...チャンミンの結婚前夜...記憶にあるものより、痩せたようだ。
それもかなり。
これ以上削りようのない、薄くて細い身体だった。
「いいのか?」
うんうん、と縦に首を振る。
チャンミンの腰をつかんで引き起こすと、うつ伏せの姿勢にさせる。
そして、固さを取り戻したものに手を添えて、じっくりと時間をかけて埋めていく。
チャンミンの背中がびくりと跳ねて、苦し気なうめき声をあげた。
・
・
・
・
仰向けのチャンミンの腕を引っ張り、あぐらをかいた膝の上に向かい合わせにまたがらせた。
その身体はくたりと力が抜け、まぶたも口も半開きだ。
足腰に力が入らないようだ。
チャンミンは俺の首にしがみついた。
そして、泣き出したのだ。
~チャンミン~
僕はユノの膝に、向かい合わせにまたがっていた。
さっきまで繋がっていた箇所が、焼け付くように痛い。
必死にこらえているのを悟られないように、声を上げて痛みを逃した。
ユノは、5年前のようにむさぼるようなものじゃなく、いたわりの気持ちをこめて、僕を愛してくれた。
僕は余程、切羽詰まった顔をしていたのだろう。
今日は何がなんでも繋がらないといけないと必死な僕に、ユノは応えてくれたんだ。
ユノの首筋に頬を埋めて泣き出した僕に、とまどっていた風だった。
そりゃそうだ。
僕がユノの前で涙を流したのは、ユノに別れを告げられたあの日だけだったから。
目的を果たした僕らは、この後、別々の道へ歩き去るのだろうから。
そんなの嫌だった。
僕は、ユノの小さな頭を両腕でくるむ。
ユノの濡れた髪、汗の香り、胸が苦しい。
この男を手放したくない、と心の底から思った。
(つづく)
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