(擦過傷2) あなたのものになりたい

 

 

~チャンミン~

 

僕はお兄さんの前でひざまずき、ゆっくり、ゆっくりと彼のハーフパンツを下ろした。

 

お兄さんのおちんちんは既に大きくなっていて、ウエストのゴムがひっかかっている。

 

黒い下着の生地の1点が、より黒色に染まっていた。

 

人差し指でそこを押すとお兄さんの腰が震え、タップし続けると生地と僕の指の腹に糸がひく。

 

それから僕は下着からお兄さんのおちんちんを取り出して、ぱくりと咥えるのだ。

 

目線でベッドの上のモノを指す。

 

お兄さんは股間に僕の顔を押しつけると、腕を伸ばしてそれをたぐりよせた。

 

しゃぶり続ける僕の首にチョーカーが回され、バックルが締められる。

 

その手つきは風化して今にも千切れそうなぼろ紐を扱うようで、とても優しい。

 

お兄さんの爪先が首筋に触れた時、鳥肌がたった。

 

出会いの夜、GPS付きの首輪に触れたお兄さんの指を思い出した。

 

大量の涎で滑りがよくなった上に、破裂音を立てながらきつめに吸い上げた。

 

うんとうんといやらしく、お兄さんのものが甘くてクリーミーでフルーティな大きなキャンディのつもりで味わった。

 

僕がリードしているように見えるでしょう?

 

違うんだ。

 

ひざまずく僕を見下ろして、無言の命令を僕に下しているのだ。

 

「早く俺をイカせろ」と。

 

「...あっ」

 

僕の口からお兄さんのおちんちんが消えた。

 

「下手くそ過ぎてイケやしない」

 

お兄さんは太ももまで落ちた下着とハーフパンツを穿き、僕に背を向けた。

 

「やっ...や...いかないで」

 

ひざまずいたままだった僕は、とっさにお兄さんの足首を掴んだ。

 

「いかないで」

 

僕の目前には、お兄さんの大きな裸足、まっすぐな脛がある。

 

大丈夫、お兄さんは僕を蹴り飛ばしたり、僕の頭を踏みつけるなんて絶対にしない。

 

お兄さんのSはそういうんじゃないんだ。

 

「...っぐ」

 

僕の身体が真上にくいっと引き上げられた。

 

お兄さんがチョーカーに繋がった鎖を引っ張ったんだ。

 

ベッドまで引っ張られた僕は仰向けに転がされ、すかさずお兄さんに組み敷かれた。

 

お兄さんの顔を引き寄せ、僕の方からキスを仕掛けた。

 

「...っふ...んっ...」

 

キスを交わしながら、お兄さんは穿いたばかりのハーフパンツと下着を脱いだ。

 

僕の両足もそれをアシストした。

 

お兄さんのおちんちんを握り、既に柔らかくほぐれているソコへと誘導した。

 

「んっ...あれっ...入らない!」

 

「待て...焦るな」と、お兄さんは早急にねじ込もうとする僕の手を除けた。

 

いっとき僕から身を離したお兄さんは、僕ら愛用のクリームのチューブを手に戻ってきた。

 

道具のことで頭がいっぱいで、肝心なものを忘れてた。

 

チューブの中身を直に注入したのち、親指を何度も回転させ入り口をほぐしてくれた。

 

僕はその隙に、手枷の片方を手首に巻き付けた。

 

「これ...付けて?」

 

「...チャンミン」

 

「お願い」

 

僕らはしばし見つめ合い、目を反らす気のない僕にお兄さんは苦笑した。

 

「手を貸して」

 

お兄さんに両手を捧げ、手枷のバックルを留める彼の指の動きを見守った。

 

「もっときつく」

 

指1本分の余裕をもたせた締め付けに、僕はクレームをつけた。

 

両手枷の間は十数センチの鎖で繋がれ、さらにその中央からチョーカーへと鎖が繋がっている。

 

ある程度の自由は許されているから、それほどハードじゃない。

 

いよいよ用意ができた僕の身体は、お兄さんのおちんちんを迎え入れた。

 

「...ん...ふっ...んんっ」

 

一番太いところが通過する時が最も窮屈で、毎回息を止めてしまうのだ。

 

僕の腸壁がお兄さんのものでみっちり埋められている...この想像だけで僕は泣きそうになる。

 

お兄さんの腰が突如止まった。

 

僕から顔を反らし、その目は固く閉じられていた。

 

「...え?」

 

お兄さんはチョーカーを外してしまい、僕の首の締め付けがなくなった。

 

「首輪は止めよう」

 

眉をひそめたお兄さんは、指の背で僕の首を撫ぜた。

 

「チョーカーだよ?」

 

「いや...これは『首輪』そのままじゃないか」

 

お兄さんの言う通り、黒のエナメル製で金属の鋲が打たれており、いかにもな見た目だけじゃなく、『上級者向け』のものなのだそうだ。

 

次いで手枷も外そうとするから、その手を払いのけた。

 

「これは外しちゃだめ...このまま!」

 

「...チャンミン」

 

これまでは手の動きを封じられることはあっても、ぎりぎりのところで手加減されるのが物足りなかった。

 

だから今夜は、徹底的に両手の自由を奪って欲しかった。

 

「縛って。

縛ったまま...お願い」

 

この時の僕の言葉はもちろん身体のことを指していたけど、それ以上に、僕の心も縛ってとお願いしていた。

 

「...分かったよ」

 

困った表情をしていても、お兄さんの眼にともる欲の炎は、より勢いを増していた。

 

お尻の奥の奥が切ない。

 

お兄さんは決して暴力的じゃない。

 

その手つきの優しさに、僕のまぶたの裏が熱くなる。

 

僕らは体位を変えては繋がり直し、ついにはベッドを下りていた。

 

胸の前で組んだ両手が邪魔だからと、それは頭の上へと持ち上げられていた。

 

さらには、鎖の先はドアの持ち手に括りつけられていた。

 

僕はその取っ手をつかんで、お兄さんの動きに合わせて揺れる身体を支えていた。

 

腕に力をこめるだけで、両手首にちりちりとした痛みが走る。

 

嫌ならば、今僕の手の下の鎖をほどけばいいのだ。

 

でも、ほどかない。

 

「ああぁ...ん!」

 

ひねりを加えた突きを不意に受け、驚いた僕は大き過ぎる喘ぎを発してしまった。

 

お兄さんの耳は誤魔化せない。

 

長年しみついてしまったオーバーな喘ぎ声に、演技の気配をいち早く聞き取るのだ。

 

瞬間、僕のお尻に平手が打ち下ろされる。

 

「フリは大嫌いだ。

いつになったら覚えるんだ?」

 

1コンマ遅れで焼け付く痛みがぱっと広がり、僕は悲鳴を上げる。

 

不思議なことに僕の入り口がぎゅっと縮まるのだ。

 

「...ふっ」

 

そしてお兄さんは呻き声をあげる。

 

「食いちぎる気か?」

 

「...だって...だって、お兄さんが...」

 

ひとしきり腰に叩きつけると、お兄さんは1歩後退する。

 

そして、ひとしきり腰を振ったのち、1歩後退する。

 

僕の手首は固定されていて、もうこれ以上は無理。

 

構わずお兄さんは僕の腰を後ろへと引き、腰を激しく打ちつけるのだ。

 

手枷が僕の手首にじわりじわりと食い込んでいく。

 

肩の関節がぎしぎしと軋み、手首の痛みと、お尻の奥の強烈な快感。

 

肌同士が打ち合う破裂音が、ガツガツと骨同士がぶつかる音へと変化していた。

 

「壊れるっ...やっ...壊れっ...」

 

滴り落ちるよだれがベージュ色のカーペットにシミを付けている。

 

「いっ...いいっ...いい」

 

ああ、痛くて気持ちよい。

 

指の感覚はなくなってきた。

 

ドアノブから手枷へと、鎖はぴんと張っている。

 

僕の腰を支えているのはお兄さんの腕だけで、彼の手が離れた途端、僕は顔面から床へと倒れ込んでしまうだろう。

 

踏ん張っていた僕の足先はとうとう限界を越え、床から離れた時、お兄さんに身をすくわれた。

 

僕を胸深く抱きしめて、お兄さんは僕の耳たぶを舐めながら囁いた。

 

「愛してる」

 

直後、僕の股間の圧が高まった。

 

「...イキそ...イク...早く...無理」

 

ドアノブに引っかけられていた鎖が外された。

 

両膝の裏を押され、僕は四つ這いになり、恐らくぽっかりと開いた穴はお兄さんのおちんちんを再び飲み込んだ。

 

僕の背にお兄さんの熱い身体が覆いかぶさった。

 

肘をついて身体を支え、お祈りするみたいに組んだ手がお兄さんの手で包み込まれた。

 

転ぶまいと背中を反らし続けたせいで、腰が痛かった。

 

膝がガクガクと震えていた。

 

お兄さんは僕のウエストに腕をまきつけて、崩れ落ちないよう支えてくれている。

 

目尻に1滴膨らんだ涙は、お兄さんの唇に吸い取られる。

 

僕の呼吸に合わせてお兄さんのお腹も上下している。

 

お兄さんは根元まで埋めた状態で、僕のお尻にずんずんと振動だけを与える。

 

これはお兄さんの気遣いだ。

 

いつになく激しく出入りされた僕の入り口は、焼け付きそうにじんじんしていたから。

 

お兄さんの太いところが、最も過敏な1点ばかりを刺激する。

 

快感のさざなみが、大荒れの波となって僕を襲う。

 

僕の身体は崖から突き落とされたようにふわりと浮いて、途端に強烈な心細さに襲われた。

 

駄目だ...もうすぐ僕は意識を失う。

 

手枷の革に噛みついた。

 

僕の背中でお兄さんの下腹がぶるっと痙攣した。

 

同時に、僕もイったと思う...ううん、既に何度もイってたのかもしれない。

 

汗ばんで蒸れた手首に、ひんやりした空気が触れた。

 

手枷が外されたのだ。

 

皮膚が破れて血が滲んでいた。

 

もう一度、猛烈な不安感に襲われた。

 

僕はくるりと仰向けになり、お兄さんの首にしがみついた。

 

「お兄さんっ...僕を、僕を縛っていて」

 

お兄さんは僕の言葉の意味が理解できなかったようだ。

 

外した手枷と僕とを交互に見つめた。

 

「僕を縛っていて」

 

お兄さんの首筋に鼻をこすりつけた。

 

後ろ髪から滴る水滴は、シャンプーとお兄さんの汗が交じり合った味がした。

 

「ずっと、ずっと」

 

「縛る必要はないさ。

俺の方がチャンミンを離さないから」

 

そう言ってお兄さんは、僕の手首にそっと口づけた。

 

 

 

 

リビングは静寂過ぎて、エアコンの作動音が聞こえるくらいだ。

 

お兄さんはあの女と書斎に引っ込んだままだった。

 

僕は手首の傷をうっとりと眺めたあと、深いため息をついて気持ちを切り替えた。

 

鉛筆をとって参考書のページをめくった。

 

(つづく)

 

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