あなたのものになりたい(21)

 

 

~ユノ~

 

何千回と抱かれてきて、商売道具であるあそこがだらしなく緩んでもおかしくはない。

 

ところがチャンミンのそこは緩みなどなく、絶妙な締め付けと柔軟さを保ったままだ。

 

素人風の肉体に玄人らしい腰の動きとは、なんと最高の組み合わせか。

 

夢中になってしまっても仕方がない。

 

埋めた奥はふっくらと柔らかい極上の空間で、そこは女のものとは違い男ならではの感触だ。

 

俺の根元に食い込む入口は、やみくもに締め付けるだけの経験の浅い者のとは違う。

 

これほどの肉体を手に入れたのに、チャンミンの先代の所有者はなぜ彼を返品したのだろうか?

 

店一番人気のプライドが生んだ、従順ではない態度が度を超したのだろうか。

 

互いの過去には一切触れずに、これからの未来だけを作ってゆくつもりでいたのが気が変わった。

 

チャンミンの生い立ちを知りたくなった。

 

意図して深みにはまっていくのだ、俺は。

 

 

書斎のドアを開けた時、廊下にいるだろうと予想に反してチャンミンの姿はなかった。

 

急な打ち合わせが入ってしまい、チャンミンを放ったらかしにしていた。

 

拗ねて俺たちに見せつけるように、裸のまま日光浴でもしているかと思った。

 

彼女にチャンミンの出自を簡単に説明したところ、なるほどと納得した様子だった。

 

『犬』出身のひと言で、非常識な振る舞いがすべて片付けられることに切なさを覚える。

 

チャンミンを見守り慈しむ間、俺自身も『犬』出身であることをしばしば忘れてしまっている。

 

チャンミンと比較すると、俺はまだ恵まれていた方だったと思うのだ。

 

こんな言い方だと、まるでチャンミンの過去が不幸と決めつけているようだ。

 

チャンミンの過去がどうであれ、人としての価値は彼の方がずっと輝いている。

 

自由を許されない管理下で長年生きてきたわりには、チャンミンは粗削りさ...ベタな言い方で表現すると、磨かれていない原石であった。

 

俺の心はパサパサに乾ききってしまったのに、感受性の豊かさを残している点が奇跡だ。

 

子供っぽいと言い換えることができるだろう。

 

嫉妬心をむき出しにしたチャンミン。

 

子供っぽいと責めたらいけない。

 

チャンミンには俺しかいないのだ。

 

客の手前、きつい言い方をしてしまったこと深く反省していた。

 

「何かあったら連絡します」

 

俺がどんな人間なのか知っている彼女は、珈琲一杯勧めない俺を意に留めない。

 

用件を終えると、彼女は帰っていった。

 

彼女が俺に対して特別な感情を抱いていることを、俺は気付いている。

 

そして、俺が気付いていることに彼女は気づいている。

 

チャンミンの存在がなければ、虚しさを抱えた砂の生活を送っていた頃だったら、彼女とそういう関係に陥っていたかもしれない。

 

今の俺は彼女には指一本触れることは決してない。

 

俺が男女問わず抱くことができるのは、それが仕事であるからで、本来はストレートに近い。

 

同性を抱くことができるテクと、同性を前にしても勃つことができたのも、生きていくために必要だったからだ。

 

犬を卒業した俺には、手を十数センチ伸ばせば触れそうな距離に、彼女の胸や太ももがあっても、欲情の欠片も湧いてこない。

 

この点からも、俺がいかにチャンミンに参っているかの証明になるだろう?

 

 

一生かかっても使いきれないほどの金。

 

俺の所有者から贈られた金。

 

本来、彼の親族たちが相続するはずの全財産を、身分の卑しい俺がかっさらった。

 

良心が咎めて相続を放棄したくとも、譲り先が不在だった。

 

慈善団体に寄付するつもりはなかった。

 

どう使うかは自由だが、使い方を誤れば...いや、どんな使い方をしたとしても『偽善』と『金の亡者』に見られてしまう。

 

金に執着がないくせに、ずいぶんと矛盾した行いだ。

 

正しい使い方をするつもりもない。

 

出来るだけ悪いことに、自己中なことに全財産を使い切ってしまうつもりだった。

 

俺だってこの金を譲るべき存在がいない。

 

今現在の俺は...。

 

チャンミンのために使おう。

 

彼と出逢い、俺は初めて金に不自由しない立場を幸運だと思った。

 

 

ダイニングテーブルに頭を伏せ眠るチャンミンがいた。

 

問題集とノート、筆記用具に電卓。

 

近頃は語学のほかに、計算問題に挑戦している。

 

伸ばした腕に片頬を乗せ、軽く口を開けていた。

 

長いまつ毛が頬に繊細な影を落とした、幼い寝顔だった。

 

うなじに手を置くと、日焼け後の肌が火照って熱かった。

 

ぐっすり眠り込んでいるチャンミンは、指の背で頬を撫ぜた程度では目を覚まさない。

 

隠しているつもりはないけれど、互いの正体を何も知らず探らずの同居生活も、そろそろ限界かなと思うようになった。

 

探ろうにも過去が全くなかったのならば、罪がない。

 

俺の場合は敢えて説明しなかっただけで、チャンミンの方も適当に話を反らしていた。

 

愛する相手を知りたくなることは、束縛への第一歩だ。

 

激しく交わり合うだけでは満たされない。

 

軽いフラストレーションを抱えている。

 

俺もようやく人間らしくなったようだ。

 

 

深夜2時のプール。

 

仕込まれたライトに映し出された水面が、天井に青く揺らめいていた。

 

都会のど真ん中の地下深く、限られた者だけ入室を許された幻想的な空間だ。

 

専用コードでロックを外し、背後でカチリと錠がかかる音を確認するや否や、ここまで大人しかったチャンミンのスイッチが入る。

 

はしゃいで逃げるチャンミンをプールサイドまで追いかける。

 

キスを交わすごとに1枚ずつ衣服を脱がせ合い、一糸まとわぬ姿になった俺たちは揃ってプールに足から飛び込む。

 

青く霞む水中で微笑み合う。

 

チャンミンは手首の擦り傷がしみるのか、顔をしかめていた。

 

俺の心配そうな表情に、チャンミンは「平気です」の意をこめて親指を立てる。

 

貸し切りとなったここで、イルカの交尾みたいにヤリたいと言うチャンミンの願いを叶えてやりたかった。

 

実際のところ、理想通りにはいかなかった。

 

互いの身体が浮力で浮いてしまい、腰を振ることができない以前の問題だった。

 

体位は限られていて、2つしかない。

 

チャンミンは俺の首と腰に両手両足でしがみつき、俺は彼の尻を抱える。

 

もしくは、チャンミンの背に覆いかぶさる。

 

「や...動かして」

 

静止したままの俺に焦れて、腰を揺するチャンミンの尻をなだめた。

 

そして俺は、チャンミンを恥ずかしめ煽るのを開始する。

 

 

(つづく)

 

BL小説TOP「僕らのHeaven's Day」