あなたのものになりたい(20)

 

~チャンミン~

 

 

僕がすねているわけは、お兄さんに怒られたからだ。

 

リビングのソファの上に寝っ転がって、背中を丸めていた。

 

「パンツなんて穿いてやるもんか!」

 

お兄さんたちを困らせてやりたくて、裸ん坊のままでいた。

 

洋服なんて邪魔なだけだ、肌ん坊の方が慣れている。

 

僕は頭だけを起こし、リビング繋がる廊下の方を窺った。

 

また「あの女」が我が家にやってきた。

 

「今日は休日だ」ってお兄さんはお酒を飲んでいたくらいだ、約束無しで訪れるとは、常識知らずな女だ。

 

「犬」時代の僕は、女の人を目にする機会はほぼ、ないと言って等しい。

 

稀に客が女の人を同伴してくる時があった。

 

客の男と連れの女の人、そして犬の3人でしたいから、と。

 

「当店はお客様は男性に限っております。お客様と犬と1対1のプレイをお楽しみいただく場所であります」

 

たまにはクソ店長もいいこと言うなぁと、見直しかけていたら、「ただし、お買い取りいただけましたら、どうぞお好きになさってください」と抜かすんだ。

 

僕はこれまで2回、お買取りされた。

 

2回目はお兄さんに、お買取りされた。

 

お兄さんも、1度は誰かにお買取りされた。

 

お兄さんにお買取りされた僕は、お兄さんだけのもののはず。

 

あの女の登場で、僕の立場が危ぶまれてきた感が濃くなってきた。

 

お兄さんの愛情を、僕はあの女と分け合わないといけないなんて!

 

「あの女とは仕事関係に過ぎず、えっちしたことはない」と、お兄さんは僕を安心させようと、まっすぐに僕と目を合わせて断言していた。

 

...でも、不安になってきたんだ。

 

僕は女の人には叶わない。

 

あの女は身体の曲線を強調する服を着ていた。

 

太ももまで切り込みのあるスカートと、タンクトップみたいなシャツを着ていた。

 

髪の毛も長くて、花の匂い...花の種類は分からない...をさせていた。

 

一体、お兄さんの部屋で何をするんだろう。

 

お兄さんを誘惑しに来たのかな。

 

居ても立っても居られなくて、お兄さんの書斎まで走り、ドアに耳をくっつけた。

 

「もう一度行ってみないと...」「危険...」とか漏れ聞いた。

 

なんのことかさっぱり分からない。

 

その後は聞き取れなくて、諦めた僕はリビングに戻った。

 

バルコニーへ戻り、脱ぎ散らかしたままだったパンツとTシャツ、ショートパンツを身に着けた。

 

裸ん坊でいる自分が恥ずかしくなったんだ。

 

まるで犬みたいじゃないか。

 

お兄さんと「あの女」は難しいことを話し合っているんだ。

 

僕にはとても理解できない単語も使っているんだ。

 

文字も満足に読めない自分が情けなかった。

 

じわっと涙が浮かんできたのを、仰向いてこぼれないようにした。

 

...でも、お兄さんは僕のことを好き、って言ってくれた。

 

えっちの時は沢山、「好き」をくれる。

 

えっちの時の僕だけが好きなのかな。

 

えっち以外の僕は行儀が悪くて無知で、仕事をしていなくて、お兄さんに追いつけない。

 

お兄さんの隣に立つ資格なんてないんだ。

 

ぼんやりしていられないぞ。

 

教科書とノートをテーブルに広げた。

 

靴箱から筆記用具と電卓を取り出した。

 

最近の僕は、算数の勉強も始めたのだ。

 

ふと思うところがあって、電卓を叩いてある数字を打ってみた。

 

そして、僕が壊してしまった電子レンジの値段で割り算してみた。

 

「20...」

 

あの電子レンジが最上位モデルだってのは知ってるけど...それにしたって...。

 

僕の価値は電子レンジ20台分に過ぎないんだ。

 

犬時代は店一番高額な自分に、僕は鼻高々だった。

 

小さな世界で...しかも、場末のいかがわしい店...一番だったとしても、電子レンジ20台と交換できてしまうのだ。

 

僕自身の価値を高めないといけない、と途端に焦り出した。

 

お兄さんに捨てられないように、「あの女」より知識を蓄えないと!

 

 

 

 

とても集中していたみたい、時計を見ると1時間以上経過していた。

 

鉛筆があたって痛む中指を擦る時、手首の包帯に目が留まった。

 

包帯を解き、絆創膏と湿布を剥がした。

 

赤黒い痣が手首を一周、擦り傷も出来ている。

 

昨夜の激しいえっちで付いた傷だ。

 

お兄さんが僕に怪我をさせたんじゃなくて、僕がお兄さんに頼んだんだ。

 

「そういう」えっちをする時用の道具があるんだ。

 

お兄さんに黙って、インターネットで注文したんだ。

 

それを見た時、お兄さんはびっくりしてたなぁ。

 

「チャンミン...お前...」って。

 

戸惑うフリはしなくていいよ、僕は知っているんだから。

 

お兄さんの眼の中で、めらめらと炎が揺れていたことを。

 

お兄さんも好きだよね?

 

この傷はお兄さんに愛された徴。

 

それにしても、痛いことが好きなんて、僕は変態だね。

 

腰の奥がウズウズした。

 

 

(つづく)

 

 

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