(10)NO?-第2章-

 

 

『...映画は?』

 

「え~。

あたりきしゃかりきなチョイスですね...」

 

『...言葉の使い方、間違ってないかな?』

 

「そうかもしれません。

『性癖』のこと、根に持ってるんですか?」

 

『はあぁぁ』

 

「せっかく提案していただきましたけど...映画ですか...」

 

『イヤ?』

 

「イヤじゃないですよ。

でもね、チャンミンさんはえっちなものを観たいでしょ?

私には刺激が強すぎます。

チャンミンさんの暴れん坊は見たくありません。

...一度、見せていただいたので、十分です」

 

『民ちゃん!』

 

「あははは!

チャンミンさんをからかってみました。

...で、どこに行きましょうか?」

 

『買い物は?

そうだ!

財布を買ってあげるよ。

ほら、盗まれたままでしょう?』

 

「う~ん...。

誕生日でもクリスマスでもないのに...なんだか落ち着きません」

 

『僕はね、イベントじゃなくてもプレゼントしたい人間なんだ』

 

「......」

 

『民ちゃん?』

 

「...リアさんにも?」

 

『うっ...』

 

「ふうぅん...そうですか...そうなんですね」

 

『彼女にはイベントの時にしかあげたことないよ。

イベントじゃなくてもプレゼントしたくなったのは、民ちゃんだからだよ」

 

「......」

 

『民ちゃん?』

 

「......」

 

『僕らは今、僕らのことを話しているんだ。

僕の前カノの話は禁句』

 

「それはできません!」

 

『え?』

 

「気になって仕方がないんです。

私は我慢しません。

これからもいっぱいいっぱい質問すると思います。

しつこいですし、微に入り細を穿つ質問をいっぱいしますよ~。

...ヤキモチ妬きの女は嫌ですか?

重いですか?」

 

『...いや、そんなことないよ。

民ちゃんがヤキモチ妬きだったなんて、知らなかったから...』

 

「ふふっ、そうなんですよ~。

どんな私なのか、チャンミンさんは知らないことばかりですからねぇ。

私もチャンミンさんのことをよく知りません」

 

『そうだね。

これから少しずつ、知り合えばいいんじゃないかな?

まだまだ始まったばかりでしょ?』

 

「照れますね。

ふふっ」

 

『時間は大丈夫?

そろそろ休憩時間終わる頃じゃ?』

 

「あと20分あります。

チャンミンさんの方は?」

 

『同じくらいかな』

 

「私の紐パンツ姿、想像しました?」

 

『はあ?』

 

「昨夜、想像したでしょう?」

 

『...ああ』

 

「チャンミンさん!

正直に答えてどうするんですか!

からかっただけです!

もお~。

私の方が恥ずかしくなっちゃうじゃないですか!」

 

『あのね。

民ちゃんの話は、真面目なのと冗談なのとがミックスしてるから分かりにくいんだって』

 

「...ごめんなさい」

 

「謝らないで。

民ちゃんのそういうとこが好きなんだ」

 

「...チャンミンさんって、言葉の端々にちょいちょい愛の言葉を織り交ぜてきますね。

さすがですね。

さすが恋愛の達人です」

 

『はあぁ...恋愛の達人って、何だよそれ?』

 

「私基準です。

...で、想像してみて...どうでした?」

 

『内緒』

 

「ケチんぼ。

...で、何色がいいですか?」

 

『う~ん...ピンク?』

 

「......」

 

『...民ちゃん?』

 

「第二候補は?」

 

『...白?』

 

「チャンミンさんの性癖に合わせるつもりはないですからね!」

 

『セーヘキって!?

その言葉は使わないでよ...。

待って!

周りに誰もいないよね?』

 

「はい。

ここは駐車場ですから。

ユンさんはいま...誰もいませんよ」

 

『ユンさんに変なことされていないよね?』

 

「...はい。

そうそう!

例のお話、今週末はどうか?って」

 

『今週末か...いいよ、それで。

はあぁ...』

 

「ため息つくと3歳老けるんですって。

私といるとチャンミンさん、一週間でおじいちゃんになってしまいますよ」

 

『そうだね。

今の電話で10歳は年食ったかもね』

 

「...チャンミンさん。

デートの計画してたのに、話がズレまくってませんか?」

 

『ホントだね。

お!

戻らなくていいの?

13時になるよ?』

 

「あぁーーーーっ!」

 

『民ちゃん、声がデカいよ』

 

「ごめんなさい!」

『じゃあ、続きは今夜打ち合わせしよっか?』

 

「...電話で?」

 

『うん?』

 

「電話で?

おうちが近いのに...電話で?」

 

『昨日と同じ場所で待ち合わせようか?』

 

「...ごめんなさい。

うっとおしい女になってました。

チャンミンさんにはチャンミンさんのご予定がありますよね。

『俺のカノジョってさ、毎日会いたがるんだ。ウザいよなぁ』

...そんな風に思われたくありません」

 

『思わないよ。

〔あたしの彼氏って、毎日会いたがるの。ウザいよね〕

...って思ってた?』

 

「全~然」

 

『でしょ?

時間は18時半でいい?』

 

「はい!」

 

『じゃあね。

午後も仕事、頑張って』

 

「はい!

...ユンさん!

すみません、お昼終わってました?

......。

すぐ戻ります...」

 

『民ちゃん?』

 

「もう切らないと!

あとで会いましょうね」

 

プッ。

 

 

排気ガスの匂いが立ち込めた、地下駐車場奥。

 

民を探していたユンは、車止めに座って電話中の彼女を見つけた。

 

会話に夢中の民は、近づくユンに一向に気付かなかった。

 

ユンは愛車の陰へと数歩下がった。

 

「...チャンミンさん。

デートの計画してたのに、話がズレまくってませんか?」

 

ユンの頬がぴくりと引きつった。

 

「はい!」

 

くしゃくしゃに緩んだ顔でこくこくと頷く民に、ユンは近づいた。

 

民は気配にハッとして見上げた先に、ユンの姿を認めると、目を見開いた。

 

「...ユンさん!

すみません、お昼終わってました?」

 

ユンは首を振り、通話を続けるよう手を振った。

 

「もう切らないと!」

 

慌てて会話を打ち切り、民は立ち上がった。

 

「切らなくてもいいのに」

 

ユンは呆れた風に言って、「休憩時間は残っていたんだよ?」と腕時計を見た。

 

「そういうわけには...」

 

ユンはエレベータへと民の背を押した。

 

「付き合ってる人?」

 

添えたユンの手の下で、民の背筋が一瞬、強張った。

 

「そんなところです」

 

正直に答える民に、ユンの口元に笑みが浮かんだ。

 

 

(つづく)

 

彼女とのHeaven's Day