(15)NO?-第2章-

 

~チャンミン~

 

僕の質問に答えない民ちゃんにキスをした。

 

下腹の底がぐぐっと痺れた。

 

重ねるだけのキスもいいけれど...1ステップ進んでみたいなぁ。

 

民ちゃん相手じゃ早いかなぁ...。

 

僕は男...エロい気持ちは抑えられない。

 

「入れてもいい?」

 

半分冗談、半分本気で尋ねてみた。

 

「!」

 

民ちゃんは僕の腕を振りほどき、ババっと飛び退いた。

 

「そ、そーゆーことっ!

いちいち聞かないでくださいよ!」

 

「駄目?」

 

顔をぐんぐん真っ赤にさせて焦る民ちゃんの反応が面白すぎた。

 

「駄目です!」

 

ぷいっと顔を背けてしまった民ちゃんを僕は許さない。

 

逃げる民ちゃんの二の腕を捕らえると、一度目の時より身体同士を密着させた。

 

「......」

 

上目遣いの民ちゃんと、5㎝の距離で目を合わせた。

 

「僕に言いたいことって、何?」

 

「う...」

 

「言わないと、もう一回するよ?」と言った途端、

 

「やめて!!」

 

どん、と民ちゃんに胸を押された。

 

その馬鹿力に僕は床に転がってしまい、慌てた民ちゃんに引っ張り起こされた。

 

「そ、そういう軟派なことはチャンミンさんらしくありません!」

 

「僕らしくないって言う前に、僕の質問に答えて」

 

「うっ...」

 

途端にだまりこくってしまう民ちゃんを、睨みつけた。

 

僕の睨みに負けた民ちゃんは、「ふう...」とため息をついてこう言った。

 

「分かりました。

言いにくかったのは、チャンミンさんを怒らせてしまうからです」

 

「僕を?」

 

悩み事だとか仕事上(ユン)で叱責を食らったとかの類じゃないことは、今夜の民ちゃんの様子でなんとなく読めていた。

 

僕に関することかなぁ、って。

 

そのままにしておけなくて、民ちゃんにしつこく迫っていたのだ。

 

「そうです。

言いにくくて...黙っていようとずっと思っていましたけど、チャンミンさんに隠し事はいけないですね」

 

「え~、怖いなぁ。

僕を怒らせてしまうこと?」

 

「はい」

 

おどけた風に腕をさすってみせたのは、モヤモヤとした不快感に襲われてきたのを隠すため。

 

真顔の民ちゃんは、脚を伸ばして座った姿勢から正座になった。

 

「チャンミンさんが私のことを嫌いになっちゃうかもしれません」

 

「嫌いに?」

 

付き合い始めて1週間足らずの間で、民ちゃんに嫌な思いをさせるようなことを、気付かないうちにしでかしてしまったのではと、ヒヤヒヤしていたから、彼女の言葉は意外だった。

 

ますます見当がつかなくなった。

 

「チャンミンさんがどうこうじゃなくて、私が悪いことなんです。

ですので、ジャッジするのはチャンミンさんです」

 

「ジャッジって...。

僕が民ちゃんのことを嫌いになるわけないじゃないか」

 

「...でも、分かんないじゃないですか」

 

「前置きはいいからさ、早く話して?

怒ったりしないから」

 

「分かりました」

 

僕ももたれていた壁から半身を起こし、民ちゃんの正面に胡坐をかいて座り直した。

 

「チャンミンさんのおうちで暮らしていた時です。

その時の私は好きな人がいるって、言ってましたよね?」

 

「ああ」

 

民ちゃんは彼を追って田舎を出てきたのだ。

 

彼のことを想う時、民ちゃんの顔はとろとろになっていた。

 

彼への想いがいつ消えて、僕へと移ったのか気になった僕は昨日、問いただしたのだ。

 

民ちゃんの答えは、『今はもう好きじゃない』だった。

 

「チャンミンさんにはお伝えしていませんでした。

なぜって、その人はチャンミンさんの嫌いな人だからです」

 

「僕が...嫌い」

 

民ちゃんの『その人』は、僕も知っている人...。

 

もしや...。

 

「私が好きだった人は...ユンさんだったんです」

 

「!!!!!!」

 

絶句した僕は今、どんな顔をしているのやら。

 

口をあんぐりとさせていた。

 

「ユン...」

 

「はい。

私が好きだった人はユンさんです」

 

「ユン...?」

 

「はい、ユンさんです。

『今も好きなのか?』とチャンミンさん質問しましたよね?」

 

『もう好きじゃない』と答えました」

 

「ユン!?」

 

「チャンミンさんに質問された時から、黙っているのはよくないと思うようになったんです」

 

「ユンが...好きな人?」

 

僕の声はかすれていた。

 

「好き『だった』人です!」

 

以前、民ちゃんが片想いの彼のことをこう称していた...暮らしのステージが上の人、成功している人...なるほど、ユンにそのままあてはまる。

 

能力を買って都会へ出るよう勧めてくれた恩人、とまで話していた。

 

ギリギリと胃のあたりが痛んだ。

 

身体は熱いのに、冷や汗をかいていた。

 

「どうして黙っているのはよくない、と思ったのかな?

わざわざ僕に知らせる必要はないんじゃないかな?」

 

知りたくもないことを、僕が彼氏だからと馬鹿正直に報告する民ちゃんに苛ついた。

 

「そうですね。

ずーっと黙っていればいいことでしたね」

 

「知ってしまった僕は、ユンを見る目が変わってくるんだよ?

僕は今、ユンと仕事をしている。

今後、仕事がやりづらくなるって考えなかったのかな?」

 

この時初めて、民ちゃんの生真面目なところに腹を立てた。

 

「まるで私がユンさんと付き合ってたみたいな言い方ですね?」

 

「付き合っていたのなら話は別だ。

片想いだったんだろ?

だからこそ、僕に報告する必要は余計にないんだ」

 

「やっぱり...怒りましたね?」

 

「怒るに決まってるよ。

ねぇ、民ちゃん?

確かに彼氏と彼女だったら隠し事はよくない。

でもね、なんでもかんでも教える必要はない」

 

「......」

 

民ちゃんの口はへの字にゆがみ、両眉も下がっている...もうすぐ、泣きだすだろう。

 

「全部知ってもらおうとか、知って欲しいとか...。

束縛って言うんだよ?」

 

いつしか僕は、理想の恋愛観を民ちゃんに語っていた。

 

民ちゃんにショックを与えるために、思ってもいない『束縛』だなんて強い言葉を使っていた。

 

「束縛とか...そうじゃないんです。

知ってもらいたいばかりじゃないんです。

そうじゃなくって」

 

「その通りだろう?」

 

民ちゃんのことをもっと知りたいと望んだそばから、自分にとって都合の悪いことは知りたくなくて彼女を責めた。

 

自分がここまで怒りっぽいなんて知らなかった。

 

 

(つづく)

 

彼女とのHeaven's Day