(19)NO?-第2章-

 

~民~

「嘘でしょ...?」

同棲していた彼女...リアさんがユンさんの家に居るなんて!

二人のやりとりから、単なる友人同士には見えなかった。

どこか色っぽい空気をはらんでいた。

リアさんはユンさんが好きなんだ。

リアさんの浮気相手とは、ユンさんなのかもしれない。

チャンミンさんには絶対に、言えない!

チャンミンさんはユンさんのアトリエを訪れる機会が多い。

どこかで鉢合わせしてしまう可能性もある!

それとなく耳に入れておいたほうがいいのかな。

...駄目だ、私は部外者だ。

チャンミンさんとリアさんのことも、リアさんとユンさんのことも。

今夜もチャンミンさんと会う約束になっている。

「え~っと」

頭の中を整理した。

1.チャンミンさんに打ち明けること...ユンさんに片想いしていたこと。

2.チャンミンさんに相談すること...ユンさんに片想いしていたことをユンさんは知っていて、今の私には『彼氏』がいるのに、ユンさんは意に介しておらず、そのことに困っていること。

3.1と2を話したうえで、チャンミンさんに『お願い』があること。

4.チャンミンさんに内緒にしておくこと「その1」...ユンさんとキスをしたこと。

5.チャンミンさんに内緒にしておくこと「その2」...リアさんがユンさんと付き合っていること。

(そっか!)

ユンさんの首筋のキスマークも、リアさんが付けたものだ!

ふらふらと駅までの道を歩いていた。

待ち合わせの時間には未だ早い。

ふと前方のお店が目にとまった。

ふらふらっと店内に吸い込まれた。

ショックのあまり、普段とらないような行動をとってしまった。

と、昼間のことを思い出し、次にもうひとつの懸案事項に移ることにした。

こぼれた涙が耳の中につたってしまうので、仰向けから横向きに寝返りをうった。

「はあ...。

...うっ...うっ...」

チャンミンさんのことを想い始めたら、ひきかけた涙がこみあげてきた。

人生初の彼氏ができたことで、ユンさんからの接触にどう対応したらいいのか分からず困惑していた。

よりによって、ユンさんと彼氏...チャンミンさんは仕事上で繋がりがあった。

加えてチャンミンさんは、ユンさんのことをよく思っていない。

さらに、ユンさんは私とチャンミンさんをモデルに作品を作りたいという。

その作品の出来は、チャンミンさんの仕事に影響することで...。

ユンさんは私とチャンミンさんが付き合っていることを知らないから、いつもみたいに私に触れてくるだろう。

チャンミンさんは意外とヤキモチ妬きみたいだから、彼とユンさんの関係がこじれてしまったらどうしよう!

だから、チャンミンさんに相談したかったのに...ユンさんの名前が出た途端、あんなに怒るなんて...。

「相談したかったのに...っく...」

布団から抜け出た私は、部屋の照明をつけた。

ビニール袋に氷を詰めたもので、腫れかけたまぶたを冷やした。

「はあ...」

チャンミンさんは私の無神経さに腹を立てた。

恋愛ごとに慣れていない私に呆れたんだ。

「これだからお子様は...やれやれ」ってな風に。

チャンミンさんの立場をわざわざ自分に置き換えてみなくても、彼を怒らせても当然のことを打ち明けてしまった。

ユンさんに片想いをしていたことは事実だ。

だからといって、チャンミンさんにわざわざ教えてあげる必要はなかったのだろう。

でも、片想いをしていたことを告白しないと、話の本題に入れなかったのだ。

(話はまだ途中だったのに...)

チャンミンさんのあの様子じゃ、もうこの話題はふることはできない。

そして、私は嫌われたままなんだ!

常夜灯だけを残して照明を消し、布団にもぐりこんだ。

真っ暗闇で寝るのは苦手な私は、常夜灯をつけたままで眠る。

(...ん?)

ローテーブルの下でチカチカと光るライトがある。

(このライトの色は...!)

腕いっぱい伸ばして携帯電話を取り、発信者を確認するとやっぱり!

敢えて電話に出ないことで「私はとても悲しかったんだよ!」をアピールすることもできた。

でも私はそんな駆け引きみたいなことは出来ない。

「チャンミンさん...?」

鼻をグズグズさせた自分の声が、男の人みたいだった。

「ここに!?」

チャンミンさんの言葉に、私ははじかれたように立ち上がり、カーテン代わりの布をめくって窓を開けた。

「あ...!」

アパート玄関の外灯が、こちらに手を振るチャンミンさんを照らしていた。

スウェットの上下にかちっとしたコートを合わせていて、ちぐはぐだった。

外灯の灯りがチャンミンさんの顔を黄色く浮かび上がらせ、はっきりとは判別できないけれど、多分、困り顔の笑顔をしている。

思い立って慌ててここに駆けつけた証拠を見つけて、胸がじんとした。

よかった...嫌われていなかった。

こみ上げる嬉しさと安堵感に、もっと涙が溢れてきて手を振り返せずにいた。

『そっちに行ってもいい?』

チャンミンさんは自身を指さし、次に私がいる2階を指さした。

私はこくこく何度も頷いた。

電話が繋がっているんだから、「どうぞ」って言えばよかったのにね。

アパート内へとチャンミンさんの姿が消えたのを見届けた私は、乱れた布団を2つ折りにし、髪を撫でつけた。

ドキドキした。

 

(つづく)