~僕の胸、君の胸~
~チャンミン~
「民ちゃん...?」
僕は今、民ちゃんに後ろから抱きつかれている。
民ちゃんの意図が分からない。
でも、ドキドキする。
30代のいい年した大人なのに、ドキドキした。
嬉しさが込みあげてくる。
民ちゃんの両手が、僕の両胸にぴたっと押し当てられている。
僕のドキドキがばれるんじゃないかな。
「...チャンミンさん」
民ちゃんが僕の耳元に唇を寄せて、ささやいた。
民ちゃんの吐息が耳にかかって、ゾクッとした。
僕と民ちゃんは身長がほぼ同じだから、彼女の顎が僕の肩にかかっている。
近い近い!
「何?」
「触らせてください」
「触る!?」
民ちゃんの手が、さわさわと僕の胸を撫でまわし始めた。
「民ちゃん!」
「辛抱してくださいよ」
「くすぐったいから!」
民ちゃんの手首をつかんだら、「放してください!」と怒られた。
仕方なくされるがままになっていた。
胸の筋肉に沿って指を滑らせたり、弾力を確かめるように揉んでみたりするから、くすぐったいったら。
民ちゃんに胸を触られているうちに...。
なんだか気持ちよくなってきた...かも、しれない...。
変な気持ちになってきた...かも、しれない...。
まずい...。
「はぅん!」
(※チャンミン)
民ちゃんの指先が乳首をかすった時、そんなつもりはなくても変な声が出てしまった。
ぴたっと民ちゃんの手が止まった。
「チャンミンさん、乳首が立ってますよ」
(ミミミミミミミンちゃん!
そういうことは口にしたらダメだって!)
「ひゃぅん!」
(※チャンミン2回目)
僕の2つのボタンをポチっと押した民ちゃんの指を、手ごと押さえつけた。
(ミミミミミミミンちゃん!
変な声が出ちゃったじゃないか!)
「チャンミンさん...」
民ちゃんがぼそっと言った。
「私より胸が大きいって、どういうことですか!?」
「へ?」
振り向いたら、民ちゃんが眉間にしわを寄せて、ぷぅっと頬を膨らませていた。
「ずるいです!」
「ずるいって?」
民ちゃんは両手で顔を覆ってしまった。
「ずるいです...うっうっ...」
「民ちゃん、泣かないで」
僕の胸の方が大きいと言って、怒って泣く理由が全然分からない。
「民ちゃん、どうしたの?」
僕は民ちゃんの頭を撫ぜてやるしかできない。
「チャンミンさんの会社はサプリを作っているんですよね」
「そうだよ。
気になるものがあるんだったら、社販してくるよ」
「あのですね、絶対に笑わないでくださいね」
民ちゃんのことだ、とんでもないものを欲しがるのでは...と愉快な気持ちで民ちゃんの言葉を待っていると。
「...が欲しいです」
「声が小さくて聞こえないよ」
「おっぱいです」
「へ?」
「チャンミンさんも知ってるでしょ?
私のおっぱいが小さいってこと」
「うーん............そんなこと...ないよ」
「目が嘘ついてます」
(ぎく)
「おっぱいが大きくなるサプリが欲しいです」
「おっぱい...?」
「そうです」
「民ちゃん、急にどうしたの?」
「どうもしません」
「サプリだけでそうそう簡単に、胸は大きくならないんだよ。
そのままでいいじゃないか?」
「よくないです!」
民ちゃんの胸のあたりについつい目をやってしまって、それに気づいた民ちゃんは隠すように腕を組んだ。
「チャンミンさんにひとつお尋ねしますよ」
「うん、どうぞ」
「もしも、ですよ。
もしも、チャンミンさんの彼女さんが...あっ!
リアさんのことは、脇に置いといてくださいね。
もしも、その人の胸が小さかったらどうします?」
そんなシチュエーションを想像してみてみる。
「どうもしないよ」
「ホントにホントですか?」
僕にずいっと顔を近づけて、民ちゃんは念をおす。
「ホントだって。
胸のサイズが、彼女選びの条件に入っていないもの」
「ホントですか?」
「うん。
付き合う子の胸が、たまたま大きければ、ラッキーって思うけれど...(しまった!)」
「ふ~ん...」
民ちゃんは疑わしそうに、細目で僕を見る。
先日、ちょっとしたハプニングで民ちゃんのお胸を、ちらっと、いや、ばっちりと拝見したことがあって、その映像をプレイバックしてみる。
民ちゃんのお胸は、『ほぼ、ない』に等しい(民ちゃん、ゴメン)。
民ちゃんがノーブラでいたのも納得の、『ぺたんこ』お胸だった。
中性的な身体付きで、それはそれで魅力的だと僕は思う。
現にそんなお胸であっても、僕は民ちゃんから色気を感じたんだけれど。
っていうことを、民ちゃんに説明しても、民ちゃんは納得しないだろうな。
「やだな、民ちゃん。
急にどうしたのさ、胸がどうのこうのって。
民ちゃんのすらっとしたスタイルを、羨ましがる女子も多いんじゃないかな?」
「女の子に羨ましがられても、全然嬉しくありません!」
まずい。
民ちゃんの表情が曇ってきた。
「パッドを入れるとかさ、補正下着ってあるじゃないか?
うちの通販でも取り扱っているよ...(しまった!)」
「下着で解決できれば、話は早いですよ」
ノーブラ民ちゃんが突然、胸のサイズを気にし出すなんて、何か大きな理由があるに違いない。
まさかだとは思うけど、鎌をかけてみることにした。
「裸になる予定でもあるのか?」
「あわわわ」
民ちゃんは両手で口を覆うと、僕に背を向けてしまった。
民ちゃんは分かりやすい。
白金の柔らかい髪からぴょんと飛び出た両耳が真っ赤だ。
僕の胸が、ひやりとした。
「例の『彼』と!?」
民ちゃんったら、いつの間に!
民ちゃんは嘘を付けないタイプだとみてるけど、肝心なことは口を開かない子のようだ。
上手に嘘を付いたり、はぐらかしたりするのが下手だから、最初から口にしない、ということか。
「違います!」
ソファに突っ伏して、僕から顔を隠している。
不快だった。
じわっと全身から汗がにじんで、胸中にモヤモヤが渦巻く。
動揺していた。
(つづく)
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