【64】NO?

 

 

~君と見る夜空~

 

~チャンミン~

 

 

コンテストの日、帰社して携帯電話にメールが届いていたことに気付いた。

 

気取ったポーズをとった写真、首から上のアップ写真、横顔の写真、KさんとAちゃんとの集合写真。

 

それから...僕が一番気に入ったのが、民ちゃんがくしゃくしゃな顔をして笑った写真だ。

 

鼻にしわをよせて、両頬をきゅっとあげて、歯並びのよい白い歯をのぞかせた笑顔。

 

何度見ても、ぽっと心が温かくなる。

 

僕も同様なんだけど、思い切り笑うと歯茎が見えてしまうんだよなぁ。

 

でも、邪気のない清潔そうな口元なんだ。

 

「チャンミンさん!

顔がエロくなってます」

 

「えっ!?」

 

携帯電話から顔を上げると 僕をじぃーっと見つめる丸い眼。

 

知らず知らずのうちに、顔がにやけていたみたいだ。

 

「いやらしいことを考えていたんでしょう?」

 

今日の僕らは、民ちゃんの部屋探しのため物件の内覧巡りをしていた。

 

午前中に3物件を回った後、目についたカフェで昼食をとっていた。

 

民ちゃんは2つのバゲットサンドを平らげていた。

 

僕に劣らず民ちゃんは大食漢なのだ。

 

隙間時間があれば、民ちゃんの写真を眺めているなんてバレるわけにはいかない。

 

携帯電話を後ろポケットに滑り込ませて、残りのサンドイッチを口に放り込んだ。

 

オープンテラスの席で行き交う人々を眺めながらのランチタイム。

 

まるで、デートみたいだ。

 

僕がアイスブルーのデニムパンツで、民ちゃんはスリムなインディゴブルーのデニムパンツ。

 

揃って白いTシャツを着ていたから双子感著しいけど、僕は全然OKだ。

 

民ちゃんのきりっとした眉毛が、斜めに流した前髪から覗いている。

 

日光が当たるとレッドブラウンに透けた髪色が、民ちゃんによく似合っていた。

 

「いい色でしょ?」

 

はにかんだ民ちゃんは、首を左右に向ける。

 

「さて、次を回りましょう。

チャンミンさんったら厳しいんですもの。

こんなんじゃ、100軒回っても見つかりっこないですよ」

 

民ちゃんのお財布事情を考慮しながら、安全面・立地面、そして設備が整っている部屋探しに難航していた。

 

「ここでいいです」ってよく見もせず決めようとする民ちゃんに、僕は「待った」をかけるのだ。

 

民ちゃんときたら、安くて雨露がしのげればいいなんて言ってるんだもの。

 

家具のないがらんとした部屋は、声がよく響く。

 

ひなびた匂い。

 

民ちゃんはバタンバタンとキッチンや靴箱の戸を開けたり閉めたりしている。

 

「民ちゃん。

ここはパス」

 

「えー、どうしてですか?」

 

「隣の家の庭木がバルコニーにかかっている。

木をよじのぼったら、民ちゃんの部屋に侵入できるから。

民ちゃんは女の子だよ?

防犯を考えると、ここは駄目だ」

 

「私の部屋なんて、誰も覗きませんったら」

 

いろんな趣味の人がいるんだから、とは民ちゃんには言えない。

 

「とにかくここは駄目!」

 

納得がいかないといった風の民ちゃんは、しばらく考え込んでいた。

 

「チャンミンさん」

 

「ん?」

 

「チャンミンさんのパンツを下さい!」

 

「パンツ!?」

 

目を白黒させていると、

 

「やだなぁ。

チャンミンさんったら、何を想像してたんですかぁ?」

 

僕の背中をバシッと叩いた(民ちゃんは力持ちだから、かなり痛い)

 

「チャンミンさんのパンツを頭からかぶったり、匂いを嗅いだり、そういう用途で欲しいわけじゃありませんってば。

私のパンツと一緒に干すんです。

男の影をちらつかせるためです。

このアイデアは、何かで見たことがあります」

 

「民ちゃん...」

 

僕は大きくため息をつく。

 

民ちゃんのおパンツは、全部黒でボクサータイプだ。

 

(なぜ知っているかというと、民ちゃんは洗濯したまま忘れて乾燥機に入れっぱなしにしていることがしょっちゅうある。

 

それを見つけた僕は、畳んで引き出しにしまってあげているのだ)

 

女性ものの下着には全然見えないよ、と指摘したら民ちゃんは悲しむに決まっているから、黙っていることにした。

 

「お風呂とトイレは別だし、家賃は安いし...ここにしたいなぁ...」

 

「駄目!」

 

民ちゃんの手を引いて、次の物件へGOだ。

 

「ここはどうですかねぇ?」

 

「う~ん...」

 

「冷蔵庫が備え付けですよ?」

 

「そんなに小さい冷蔵庫で民ちゃん、大丈夫?」

 

民ちゃんは食いしん坊だから。

 

「それは、困りますねぇ」

 

「次のところを見よう」

 

候補物件残り1軒となった時、

 

「ここが気に入りました」

 

「賛成」

 

僕も納得、即答だ。

 

築年数は古いもののサッシ窓は2重鍵、壁紙も張り替えてあり、広さも十分だ。

 

ルーフバルコニーがこの部屋の最大の特徴だ。

 

日当たりも風通しもよい。

 

「日光浴が出来そうですねぇ。

プランターを並べて、家庭菜園が出来そう。

野菜を沢山育てれば、食費が浮きますねぇ」

 

「楽しそうだね」

 

「花火ができそうですね」

 

「花火...」

 

深夜のコンビニエンスストアで、心惹かれて衝動買いした花火の存在を思い出した。

 

民ちゃんと顔を寄せ合って、次々と火をつけて、煙が目にしみて。

 

オレンジ色の火花に照らされた民ちゃんの頬や、彼女の秀でた額と鼻筋が作る濃い影。

 

そんな光景を想像していた。

 

 

(つづく)

 

彼女とのHeaven's Day