会社員-愛欲の旅11-

 

 

「へえぇぇ。

チャンミン...小説書いてるんだ。

...へえぇぇ」

 

「どうせ、キモイ、とか言うんでしょう。

帰宅してからの僕の楽しみを笑わないで下さい」

 

ぷいっと顔を背けてしまったチャンミンを、「まあまあ」と俺は肩を叩いてなだめた。

 

「笑ってないだろう?」

 

「キモイって思いました?」

 

ちょっとだけそう思ってしまったけど、漏らすわけにはいかない。

 

「思わない。

いいんじゃないの、趣味も大事だ。

俺はこれといった趣味がないから、羨ましいよ」

 

「ふうん」

 

「どんな小説を書いてるんだ?

BLって言うと、男同士の恋愛だろ?

歴史もの?推理もの...なわけないか、恋愛ものだよな?」

 

「当然でしょう。

ボーイズラブなんですから。

LOVEです!

主人公のお相手は、ユンホさんなんです。

主人公の恋が成就したところにさしかかってます」

 

「はあぁ!?」

 

「あ、言っちゃった」

 

うっかり口を滑らしてしまった風に口を押えてるけど、今のはわざとだ。

 

「お、俺が主人公のお相手だって!?

...で、小説の中の俺は何をするんだ?」

 

「恥ずかしいから...内緒です」

 

真っ赤になった頬を両手で包んで、イヤイヤするみたいに首をすくめている。

(「キャー、恥ずかしぃ!」って女子がよくやる仕草だ。か、可愛い...)

 

「そう言わずに、教えてよ」

 

好きな奴は好きさ余ってからかいたくなるものだ。

 

「恥ずかしいです」

 

一部の女子たちに人気があることは知っていた(俺の妹がBL愛読者なのだ)

 

俺はその類のものを読んだことは当然、ない。

(一般的な反応として、『気持ち悪い』と思っていた)

 

男同士の恋だなんて、チャンミンが初めてだったんだ。

 

「恥ずかしいことなんだ?

へぇ...興味あるなぁ?」

 

「駄目です...。

は、恥ずかしい」

 

「そう言わずに、教えてよ」

 

「ユンホさん、きっとドン引きします」

 

嫌がるのを無理やり聞き出すのもなぁ、と反省し「しつこくて、ごめん」と引き下がった。

 

そうしたら、それまで俺に背を向け、身をくねらせていたチャンミンは、俺の方をバッと振りかえった。

 

「ひどい!」

 

「?」

 

「ユンホさん、知りたくないんですか!?」

 

「...え?」

 

眉はひそめられ、眉間にくっきりしわが寄っている。

 

「知りたかったけど、チャンミン嫌がってたじゃん。

だってさ...」

 

俺はここで言葉を切ったのは...チャンミンが喜ぶことを口にしてやろうと思ったのだ。

 

「『好きな奴』には嫌な思いをして...」

 

「ユンホさん!!」

 

俺の愛の言葉は、チャンミンの鋭い声で覆いかぶされてしまった。

 

「僕の趣味の話は興味ないんですか?」

 

なるほど...。

 

本当は話したくてたまらなかったのに、あっさり引き下がってしまった俺を咎めているらしい。

 

(難しい...チャンミンの扱いは難しい...。

チャンミンの「駄目、嫌」は、「YES、Please」の時もある。

それから、「駄目、嫌」と言っている間は、しつこめに「まあまあ、そう言わないで」と追及の手は緩めるな...と、心のチャンミン録にメモをした)

 

「興味津々だよ。

俺は...」

 

言葉をここで切ったのは、チャンミンの機嫌を直そうと、彼が喜びそうなことを言ってやろうと思ったから。

 

「『好きな奴』のことは何でも...」

「どうせ僕の話はつまらないですよ!!」

 

再び、俺の愛の告白はチャンミンの言葉で上塗りされてしまった。

 

「つまらなくないよ」

 

「ぼ、僕は、ユンホさんには全てを知ってもらいたいのに...」

 

「知りたいよ。

教えて?

チャンミンが書く小説に俺が登場するんだろ?

どんな風なのか教えてよ?」

 

「...内緒です」

 

チャンミンはきっぱり言い切ると、「ユンホさんもピーナッツ、食べます?」と、きた。

 

コントのように、ずこっとしてしまった俺。

 

「教えてくれるんじゃなかったの?」

 

「ユンホさん相手でも、こればっかりは教えてあげられません。

秘密です」

 

チャンミンのお相手はやっぱり難しい。

 

ピーナッツをポリポリ食べている彼の横顔を、しみじみと眺めたのだった。

 

 

「ホテルまであとどれくらい?」

 

「え~とですね...2時間くらいですかね」

 

ビシッと整えられていた七三分けが乱れ、はらりと額に落ちたひと房を撫でつけてやった。

 

(飲み過ぎて気持ち悪いと言い出した者がいて、近辺のトイレを探し、バスを止め、背中をさすって介抱し...といったひと騒動があったのだ)

 

内股で座るチャンミンの太ももに乗せられた、彼のこぶしを包み込むように手を重ねた。

 

「ユ、ユンホさん!

み、皆に見られてしまうでしょう」

 

俺の手を払いのけ 通路側に身体をひねって背を向けてしまった。

 

その両耳は真っ赤になっている、か、可愛い...。

 

「大丈夫。

見られっこないさ」

 

俺たちの席は、一番前(添乗員チャンミンのため)

 

すぐ後ろはクーラーボックスとつまみの入った段ボール箱置き場になっている。

 

覗き込まない限り、俺たちが何をしているかまでは背もたれに隠されている。

 

そうじゃなくても、後ろの方では酒盛りでワイワイ賑やかだ。

 

バスでの社員旅行というのは、どこの会社でも似たようなものなんだな、と思った。

 

「......」

 

チャンミンは手の平を返すと、指と指とを絡める恋人繋ぎをした。

 

「お疲れさん」の気持ちを込めて、その指に力を込めた。

 

チャンミンも握り返す。

 

「ユンホさん」

 

「んー?」

 

「次のトイレ休憩で...」

 

「うん?」

 

「チューして下さい」

 

「......」

 

「チュー...」

 

「いいよ。

ついでに頭も撫ぜてやるよ」

 

「......」

 

「......」

 

「ユンホさんっ。

...好きです」

 

「......」

 

思いがけない言葉を投げかけられた時、俺たちには数秒~十数秒無言タイムがある。

 

俺の場合は、驚きのあまりのフリーズタイム。

 

チャンミンの場合は、俺からの言葉が心に染み入る感動タイム。

 

 

(つづく)

 

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