(16)会社員-愛欲の旅-

 

 

チャンミンの巨大スーツケースの中身に、俺の第一声はこれだ。

 

「チャンミン...それだけは止めておけ」

 

「どうしてですか?」

 

スーツケースに押し込まれていたものとは、ビンゴゲームに使うらしいガラポンと景品のあれこれ。

(くじ引きにすれば、ガラポンなんぞ用意しなくても済むのに。より本格的を目指すあたりチャンミンらしい)

 

大問題なのは、スーツケースの半分を占めていたものだ。

 

「止めておけ。

俺からの忠告だ。

絶対に止めろ」

 

「何か問題でも?」

 

「イチゴちゃんだけは駄目だ」

 

「大問題」な品とは、イチゴのかぶりものだった。

 

戦隊ヒーロー風の衣装もある。

 

「宴会は盛り上がった方がいいでしょう?

実行委員なんて初めてでしたから、いいアイデアが浮かばなくて...。

司会進行役は飲んで騒いでいる皆さんから注目を浴びなければなりません。

そこでイチゴちゃんを思いついた次第であります」

 

「チャンミンの普段は、真面目君なんだろ?

ギャップが大き過ぎて、みんながドン引きする。

チャンミンの秘密の楽しみだろ?

だから、イチゴちゃんは止めろ」

(※『情熱の残業編』を参照のこと)

 

「うーん...」

 

チャンミンは眉根にしわをよせ、不服そうだ。

 

「代わりにマジックにしよう!

トランプもシルクハットもあるじゃん」

 

「はい、イチゴちゃんになってマジックをする予定でした」

 

「過剰過ぎだろ。

普通にやればいい」

 

「ええ~、つまんないでしょう」

 

チャンミンはぷぅ、と頬を膨らませた(か、可愛い)

 

「じゃあ、ユンホさんがバニーガールになってくれるんですね?」

 

「俺が!?

『じゃあ』って何だよ?」

 

「交換条件です。

ユンホさんのことだから、イチゴちゃんになる僕を止めてくれるだろうって、予想していたんです。

ユンホさんのことだから、バニーちゃんになってくれるって予想したので、ちゃあんと用意してきたのです」

 

「はあ...」

 

「ユンホさんの恥ずかしい恰好を披露すれば、ユンホさんに懸想した女性たちは幻滅するでしょう...ぐふふふ、ざまあみろです」

 

「お前なぁ、考え過ぎだろ?

それにな!

俺はバニーちゃんなんて、絶対に、い、や、だ!」

 

「そう言わないで...ん?

そうでもないですね...。

あーーーー!!」

 

チャンミンの突然の大声に、俺は耳を塞いだ。

 

「なんていうことでしょう!!

駄目!

禁止です!

ユンホさんはバニーちゃんになったらいけません!

僕ときたら、ここまで考えが及びませんでした」

 

ムンクの叫びポーズをとったチャンミンは、にたにた笑いから一転、青ざめている。

 

バニーちゃんの恰好なんて死んでも嫌だったから、チャンミンの心変わりに胸をなでおろした俺だった。

 

「禁止の訳は?」

 

「バニーちゃんは網タイツを穿くでしょ。

それから、股のところがこ~んな具合に...」

 

チャンミンは両手で、自身の股間からウエストまでにVラインを描いた。

 

「ユンホさんのムスコさんがもっこりです。

立派なイチモツがモロバレです!」

 

「はあぁぁぁ?」

 

「『なんて大きいのかしら...』

『ユンホさんのに、突かれたいわぁ』って、なっちゃうじゃないですか!」

 

「......」

 

チャンミンは部屋をぐるぐると歩き回っていて、落ち着きがない。

 

「それだけじゃないです!

男性たちには『ちっ、俺のものよりデカちんじゃあないか!』と、嫉妬されます。

今後の業務の際、前みたいな妨害行為を受けてしまいます。

ぼ、僕はユンホさんにはにこにことお仕事してもらいたいのです!」

 

「...ありがと。

っていうかさ...チャンミン...。

俺のがデカいってどうしてわかるんだよ?」

 

チャンミンはふふん、と鼻息を漏らしたのち、威張ってこう言う。

 

「トイレットで抱擁した際...じゃなくて後背位の体勢になったとき、僕のお尻に押し付けられた時に分かったんです」

 

「あっそ。

チャンミンの方こそ、デカかったぞ?」

(これは本当だ、社用車で虎になった時に確認済)

 

チャンミンの頬がぼっと赤くなった。

 

「ユンホさんのと比べたら...僕のなんて貧相ですよ。

マツタケとしめじです」

 

「俺のが平均以上だってことはさ、誰のと比較したんだよ?」

 

チャンミンに毎度、突っかかられてばかりが悔しかったのと、うろたえる彼の姿を見てみたかっただけだ。

 

チャンミンはニタリ、と笑った。

 

「...カマかけてみただけです」

 

「へ?」

 

「ふふふふ。

ユンホさん、認めましたね。

ご自身のが『大きい』って。

自覚があるんですね、『俺のは平均以上に、デカい!』って、うふふふ。

...ん?

なんてことでしょう!!!!」

 

再び不意打ちの大声に、俺はとび上がった。

 

「...誰に言われたんですか?」

 

急に声のトーンを落とし、俺を睨みつけるチャンミン。

 

「...えーっと。

学生の時、同級生と比べたことがあって...」

 

本当は違ったけれど、正直に言うわけにはいけない。

 

「ふん、そうですか。

非常に怪しいですが、ひとまず納得してあげましょう。

さささ、ユンホさん。

浴衣に着がえましょう。

洋服じゃノリが悪いですからね」

 

...こんな具合に、宴会までの1時間でチャンミンは何度、感情のアップダウンがあったんだろう。

 

これらすべてに付き合った俺も凄い。

 

惚れた欲目とはこういうことを言うんだな。

 

チャンミンのルックスが極めて優れていることを忘れてしまうのは、癖ありすぎのキャラのせいだろう。

 

 

(つづく)