(17)会社員-愛欲の旅-

 

 

宴会会場に向かう前に、浴衣に着替えることとなった。

 

ところがチャンミンの奴、頬を赤らめもじもじしているのだ。

 

「見られていると恥ずかしいです...」

 

もじもじする仕草...左右の人差し指を擦り合わせるあれだ...をする奴を、俺は初めて目にした。

 

「男同士だろ?」

 

「でもっ。

ユンホさんを抱くのは、お風呂の後です。

身を清めてからがいいですから」

 

(抱く!?)

 

ウメコの奴め...。

 

何が何でも仕込まれたやつを回収せねば、と決意を固めたのだった。

 

チャンミンの言葉に目を剥きそうになったが、涼しい顔をしてスルーした。

 

「俺たちは着替える『だけ』だ。

『抱く』とか『抱かれる』とかって...この場でするには相応しくない話だ」

 

「...そうですね」

 

チャンミンはどことなく残念そうに、しゅんと肩を落とした。

 

『抱く抱かない問題』を掘り下げてみたいのかもしれないが、今は保留だ。

 

俺たちはそれぞれ背中を向けて、着替えに取り掛かることにした。

 

温泉は夕めしの後にしよう、仕方がない。

 

チャンミンに付き合っているうちに、宴会開始まで10分を切っていた。

 

チャンミンにはああ言ったが、俺の方こそ『抱く抱かない問題』を議題に挙げたくて仕方がないのだ。

 

(...まてよ)

 

俺はチャンミンの方を振り返った。

 

チャンミンは猫背になってシャツのボタンを外し中で、そのうなじはいつ見ても床屋に行きたてみたいに整えられている。

 

勘違いさせたまま放置しておくのは危険だ、と思い至った。

 

チャンミンのキャラ的に、頭の中でのイメージトレーニングを開始しているかもしれない。

 

ボタンを外し終えるとチャンミンは、シャツを脱ぎ予想通りインナーTシャツ姿になった。

 

(インナーTシャツを脱げば、例のものがあるかもしれない...!)

 

「チャンミン...こんな時になんだが、ひとつ確認させてくれ」

 

「なんですか?」

 

チャンミンはボトムスのボタンを外しながら、こちらを振り向いた。

 

「...ウメコに何を仕込まれた?」

 

明らかに肩をビクッとさせた。

(ビクつく動きのお手本中のお手本)

 

「な、なんのことでしょう...?」

 

チャンミンの目が泳いでいる。

 

分かりやすい。

 

(チャンミンは嘘をつくのが下手だ、と心のチャンミン録にメモを追加した)

 

「ウメコから受け取ったものがあるだろ?」

 

「はて...何のことでしょう」

 

くるりと背を向けてしまうチャンミンに、

 

「ウメコから聞いたんだ。

でさ、俺もどんなものか見たいなぁ、って興味があるんだ」と食い下がる俺。

 

「......」

 

チャンミンは俺を無視して、てきぱきと着替えていく。

 

俺の『例のモノ』探索レーダーはチャンミンの背中、腰、太ももへと舐めていく。

 

後ろ姿を見る限り、細い身体付きだなぁと思った。

 

「チャンミン、聞こえてる?」

 

「......」

 

恋の媚薬事件の時、至近距離で見たチャンミンの半身が蘇ってきた。

 

あの時は今のようにインナーTシャツ越しだったけれど、大量にかいた汗のせいで布地が裸に張り付き、身体のラインがまるわかりだった。

 

いい具合に筋肉をつけていて(インナーTシャツを着ているダサさと生真面目さはともかく)、チャンミンのキャラクターとのギャップに胸をときめかしたのだ。

 

ボトムスを脱いだチャンミンはパンツ一丁になり、畳に畳まれた浴衣に手を伸ばした。

 

小さい尻だなぁ、と思った。

 

「お~っと!

そろそろ宴会のお時間です。

さささ、ユンホさん急ぎましょう」

 

わざとらしく腕時計を見て、目を丸くして言う。

 

俺はそんなチャンミンを無視して、答えを聞くまでは譲らないぞと彼を見据えたままだ。

 

「そんなに見たくて仕方がないのでしたら...」

 

チャンミンは引き返してくると、両手で俺の頬を包みこんだ。

 

慌てて周囲を見回したのは俺だけで、チャンミンは余裕の表情だ。

 

ヲタク部屋のここには俺とチャンミンしかいない。

 

「目で確かめてみてはいかがでしょう?」

 

「!」

 

大胆発言で俺を動揺させようたって...そうは問屋がおろさない...。

(はっ!

俺にもチャンミン語が伝染ってしまった!)

 

「認めたな」と、俺は内心でニヤリとした。

 

チャンミンはそのことに気付いた風はなく、頬を挟んだまま親指で俺の唇をなぞった。

 

「押し倒すなり、裸に剥くなりして...。

その目で確かめてみてはい、か、が?」

 

肩に羽織っただけの浴衣の片方を広げ、パンツ一丁の裸を見せた。

 

俺はチャンミンから身を引き、両腕をクロスさせパーカーを脱いだ。

 

その下のTシャツも脱いだ。

 

チャンミンの目はまん丸で、「ほぉ...」といった表情で固まっている。

 

「チャンミンの期待に応えてあげないとなぁ」

 

次いで、靴下とボトムスを脱いだ。

 

チャンミンの視線はねっとりと舐めるように、俺の首から足先までの間を一往復した。

 

「ユン...ホさん...」

 

ぽかんと口は開きっぱなしで、そのうちよだれでも垂らすんじゃないかな。

 

「え..えろい...です」

 

見開いたままの眼はらんらんと光っているし、頬も紅潮している。

 

「押し倒して欲しいんだ?」

 

チャンミンの喉仏がごくり、と動いた。

 

チャンミンはきっと、「その気」になったとき、『例のもの』を発動させるつもりだ。

 

俺はチャンミンの顎をつまみ、唇が触れるすれすれまで顔を寄せ、セクシーに囁いた。

 

「俺に押し倒されて、裸に剥かれたい?」

 

チャンミンはこくん、と頷いた。

 

(やべぇぇぇ...可愛い)

 

「はっ。

とっくに裸みたいなものだね。

浴衣を脱げよ」

 

俺の方は敢えて浴衣を羽織った。

 

チャンミンの眉が、さも残念そうに下がる。

 

「それとも、俺を押し倒したいのかな?」

 

チャンミンはこくこく、と頷いた。

 

「どっちがお好みだ?」

 

「ユン...ホさん」

 

チャンミンの声は掠れている。

 

「...好きです」

 

「!!!」

 

出たよ...チャンミンの不意打ち愛の告白(俺はこれにめっぽう弱いのだ)

 

廊下の向こうが騒がしい。

 

チャンミンはぶるぶる首を振った。

 

「ユンホさん、お胸を隠しましょう」

 

チャンミンは開きっぱなしだった口を引き締め、俺の浴衣に手を伸ばした。

 

「?」

 

そして、俺の首を締めんばかりに浴衣の両襟を合わせたのだった。

 

あと少しだったのに...!

 

 

(つづく)

 

 

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