(19)会社員-愛欲の旅-

 

 

 

この席割りの意図がよめない俺は首を傾げていた。

 

異様な光景だった。

 

チャンミンのことだから...と、これまでの彼の策略パターンを思い起こしてみたりもした。

 

先ほど俺たちが出て行った襖から、チャンミンがふらり、と戻ってきた。

 

(しまった)

 

大奮闘していたチャンミンが気の毒で、手を拔けとアドバイスするだけで、肝心な浴衣の襟元への注意を忘れてた。

 

「ついてこい」

 

俺はチャンミンの背中を押して、再び配膳エレベータ脇に引っ込んだ。

 

そして、ぎゅっと襟元を深くかきあわせ、帯を締め直そうと、いったんほどこうとした時...。

 

「わわわ、ユンホさんったら。

情事は宴会の後にしませんか?

僕の身体がそんなに欲しいんですか?

あらまあ、ユンホさんの♂が逞しいことになってます」

 

「ええっ!?」

 

大慌てで自身の股間を確かめてみたが、大人しいままだ(当然だ、逞しくなってしまう刺激がどこにあった?)

 

チャンミンを襲おうとしているのだと本気で勘違いしているのか、俺をからかっているのか、彼のニヤニヤ笑いからは判断できない。

 

「ここじゃ人目があります」

 

「チャンミンの帯を締め直してるだけだ!」

 

両頬を包んで、「キャー」と身体をくねらすから、締めにくいのなんのって。

 

胸がはだけないよう、帯はウエスト位置で締める。

 

ただでさえ、大サイズでもチャンミンの身長じゃ丈が短く、すねが見えてしまい、喉もとまで合わせた衿に、高い位置で締めた帯で、子供みたいな成りになってしまった。

 

(チャンミン、すまん。

お前の『いい男』っぷりを封印するためなんだ)

 

そろそろ会場に戻らねばと、引き返そうとした時、社内でもひときわ高身長の工場長の姿を見かけた。

 

そこで俺は、「チャンミン...お前ってやつは」と深度100メートルのため息。

 

身長190センチの工場長の浴衣はぴったりサイズだった。

 

特大サイズがあったのだ。

 

身長180㎝超えの俺の浴衣もチャンミンと同様、つんつるてんだった。

 

きりりと浴衣を着こなす妙齢独身男性、女性社員たちをときめかしたらいけないと案じたチャンミンの悪だくみだ。

 

チャンミンの浴衣もつんつるてんにしたところが策士だ(これより大きい浴衣のサイズはないみたいですねぇ、って)

 

「ユンホさんったら、誰かに見られそうなシチュエーションで燃えるタイプなんですかぁ?

ふふふ、僕は...そういうの、好きです...。

僕の作品でも、『見られちゃうかも、ドキドキ』っていうシーンが多めです」

(チャンミンは、アマチュアBL小説愛好家なのだ)

 

「へえぇ、どんなの?」

 

「両親の部屋の押し入れの中とか。

バルコニーとか」

 

「すげぇな」

 

「駅の公衆トイレとか。

ショッピングセンターの駐車場の車の中とか。

イチゴ農園のビニールハウスとか。

外でバーベキュー中の仲間がいるのに、テントの中でとか。

15階までのエレベーターの中とか」

 

「うっわぁ」

 

「ネズミーランドのアトラクションの乗り物とか」

 

「それは駄目だ!

聖なる場所を穢すなよ」

 

「今のはジョークです。

じゃあ、牧場とか山の中は?」

 

よくもまあ、ポンポンと思いつくものだ。

 

「屋外は虫に刺されそうだなぁ」

 

「じゃあ、王道の教卓の下は?

それとも、学校の清掃道具入れのロッカーの中は?

学生服...萌えますねぇ...ぐふふふ」

 

「狭くないか?

二人入るのは難しいんじゃないか?

ぎゅうぎゅうで動かせないと思うんだけど?」

 

チャンミンはぴんと伸ばした手で口を覆い、「まあ」と言った風に目を真ん丸にしてる。

 

「ユンホさん...想像しちゃいましたか!

エッチですねぇ」

 

俺はハッとする。

 

危ない危ない。

 

次に何を言い出すのか想像がつかない、チャンミンとの会話は楽しい、と認めざるを得ない。

 

ところが、チャンミン自身が喜びそうな台詞を俺から引き出そうと、誘導しているフシもあるから、油断できないのだ。

(チャンミンとの会話にノリ過ぎると、おかしな方向に行ってしまうから気を引き締めること、と心のチャンミン録にメモをした)

 

「お!

そろそろ戻ろう」

 

開始時間を既に15分押しているが、まだ空席が目立っていた。

 

あるイベントを思い浮かべてしまうような、社員旅行の宴会とは思えぬ、独創的な席割りだった。

 

つまり、ステージから向かって左が女性席、右が男性席だったのだ。

 

「チャンミン...これは社員旅行なんだぞ?」

 

「はい。

もちろんですよ」

 

チャンミンには悪びれた風が一切なかった。

 

「これじゃあお見合いパーティじゃないか!?」

 

 

(つづく)

 

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