意外なことに、チャンミンプロデュースの宴会は好評だった。
バスの席割りに然り、例年通りのものとは異なる趣向が、新鮮だったのだろう。
お次の実行委員の権力をフル悪用したのはこれだ。
呼んだコンパニオンが男性だった...つまりホストだ。
お酌にまわるミニスカートを穿いた女性は、チャンミンにとって甚だ都合が悪いのだ。
それプラス、ホストたちが恋のライバルたちの動きを堰き止めてくれることも狙っている。
男性陣たちはホストたちの登場に面食らい、女性陣たちは目を輝かせた。
さすがプロ集団。
お愛想にお世辞、盛り立てられて、定年間近の部長なんていい具合に酔っ払っている。
カラオケだミニゲームだと、大盛り上がりだ。
ホストたちにがっちりハートをつかまれて、俺たちの席にはだれ一人酌に回ってこない。
そんな中で2人の女性が、俺に向けて手を振ってきた。
(えーっと、経理部のCさんと受注センターのHさんだ)
チャンミンがマークしている『要注意人物リスト』に入っている彼女たちだったから、ヒヤリとした。
幸いなことに、チャンミンは運ばれてくる料理をかたっぱしから平らげるのに夢中で、気付いていないようだ。
(チャンミンは大食漢らしい、と心のチャンミン録に一行書き加えた)
隣にチャンミンがいなくとも、手を振り返すのも恥ずかしくて、失礼にならないよう会釈してみせた。
「あれ?
ユンホさん、野菜の天ぷらは苦手でしたっけ?」
「苦手じゃないけど...」
カボチャや山菜の天ぷらなど、むしろ好物だった。
天ぷらは配膳されたばかりの揚げたてだった。
チャンミンは人差し指を唇に当て(いかにもな仕草。実際にやっている奴を初めて見た)、じぃっと物欲しげそうだった。
「...欲しいのか?」
「お漬物とトレードしましょうか?」
「せめて茶わん蒸しとトレードしろよなぁ。
グレードダウン過ぎるだろ」
「...分かりました」
「いいさ、やるよ。
食べろ食べろ」
箸をつけていない天ぷらの皿ごとチャンミンに渡した。
「ありがとうございます。
後でお礼しますね」
美味そうにかぶりつく、目尻を下げた横顔が見られたから、ま、いっか。
足がしびれてきた俺は、胡坐を崩し両脚を投げ出して座り直した。
ぱっとチャンミンの手が伸びて、膝上までまくれ上がった裾を直された。
「ユンホさん」
浴衣の袖を引っ張られ、グラスを手渡された。
「ユンホさん、お疲れ様どすえ」
俺のグラスにビールを注ごうとするチャンミンに、「お疲れさんはチャンミンの方だ」とそのビール瓶を取り上げた。
「いえいえいえいえいえいえ。
ユンホさんから酌をされるわけには...」
「いやいやいやいや。
チャンミンさんには世話になってるから」
と、グラスを塞ぐチャンミンの手をのけた。
すると、「そういう訳にはいきませぬ」とビール瓶を奪われた。
「まあまあ、そう言わず。
ここはぐいっと一杯」
「僕のお酌を受けてくださいな」
3往復ほどこれを繰り返したのち、やっとのことで俺たちは乾杯した。
ちんちくりんな浴衣の裾から、すね毛の生えたチャンミンの足。
膝を崩して座っているため、ぱかっと合わせが割れ、太ももの奥まで見えそうになっている。
「パンツが見えるぞ」と注意しかけて、口をつぐんだ。
...今。
...見えたぞ。
ちらっと、見えたぞ。
あれこそ、ウメコに仕込まれたモノだ!
もっとよく確認してみたいが、裾をはだけるわけにはいかない。
(「きゃあぁ!」と悲鳴を上げそうだから)
よし、脱衣所が勝負の時だ、と心の中でこぶしを握った。
(つづく)
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