~チャンミン~
ユノさんは数分以上、床にへたり込んだままだった。
よろつきながら立ち上がると、洗面所の方へ消えていった。
しばらくして、Tシャツの前と髪を濡らした姿で現れ、ふらふらと寝室へ消えていった。
「......」
僕はドアの隙間から、その一連をずーっと見守っていた。
女の子だと思っていた子が、男の証をくっ付けていた。
大大ショックだろう。
・
自分だったら、どう感じるだろうか想像してみた。
例えば。
女の子のつもりで仲良くしていた子が、実は男だった。
...う~ん。
びっくりはするけど、それまでより付き合いやすいと思ってしまうかな。
メイクや洋服を着こなすコツなんかを、参考にしちゃうかも。
その子に恋愛感情はないし、友達に過ぎないから、僕は僕、彼は彼、と切り離して付き合い続けられると思う。
お恥ずかしいことに僕はきちんとした恋愛をしたことがない。
あくまでも「僕だったらどう思うか?」の想像の範疇の話だ。
でも、僕が男だと分かって、かえって扱いやすくなるんじゃないかな?
女の子だからと気を遣わずに済むし、...なんて楽観的に考えちゃだめなのかな?
・
ユノさんの場合は事情が違うと思う。
今後、「僕への扱いをどうするか?」なんて大したことない。
僕が男だと見抜けなかった情けなさと、実は男なんだと訂正しなかった僕への怒り、からかわれ続けていた滑稽な自分に、腹を立てているだろう。
そのうち、僕の兄も共犯だと気づき、『妹』だと紹介した兄に、怒りの電話をかけると思う。
彼らの友情も終わってしまうかもしれない。
それだけは避けたい。
・
今すぐ謝らなくっちゃ。
悪気があって黙っていたわけじゃないことだけは、伝えなくっちゃ。
それから、この家を出て行かなくっちゃ。
・
コンコン。
ドアを控えめな力加減でノックした。
「ユノ、さん?」
返事がない。
もう一度、ノック。
「ユノさん」
返事がない。
ドアに耳を当て、中の気配をうかがう。
物音が全くしないことが、ユノさんの怒りみたいなものを表していると思った。
「あの...僕...」
僕はごくん、と喉を鳴らした。
「...ごめんなさい」
「......」
ドアノブに手をかけた。
「ユノさん、ドア開けてもいいですか?
入りますよ~」
一声かけてからドアを開け、素早く寝室の中へ滑り込んだ。
・
室内は真っ暗だった。
開けたままのドアから漏れるリビングの灯りで、ユノさんがベッドでうつ伏せになっているのが分かった。
「......」
僕が近寄っても、ぴくりともしない。
寝入っているのではなく、僕の気配に耳をそばだてているみたいだ。
多分...僕の弁解を聞きたいんだと思う。
だからこそ、僕はユノさんを放っておかないで、渦中の彼に突入していったのだ。
僕はベッド脇の床に正座をした。
「ユノさん」
「......」
「ユノさん!」
つんつん、と彼の肩をつついた。
「ねぇねぇ、ユノさん」
「......」
意固地になって知らんぷりを決め込むらしい。
くくく...と肩が揺れた。
(つづく)