(29)オトコの娘LOVEストーリー

 

~ユノ~

 

「ユノさん」

 

チャンミンが俺を覗きこんでる。

俺は枕に顔を埋めたまま、じっとしていた。

俺がこの後どう出るのか、不安いっぱいの表情をしているのだろう。

さて、どれだけ知らんぷりを決めこもうか。

いい加減、落ち込んだ姿を見せている自分が、いよいよ恥ずかしくなってきた。

顔を上げるタイミングをはかっていた。

 

「ユノ...さん?

あの...ごめんなさい。

僕...」

 

つんつん、と俺の肩を突いている。

 

「......」

 

よくよく考えると、チャンミンは何も悪くない。

彼が男だったからって、俺が腹をたてる理由はないはずだ。

俺はチャンミンの兄の言葉をまともに受け取り、彼が実は男だとミリほども疑いを持っていなかった。

せいぜい、兄弟そろって俺を騙していたことや、すっかり騙されていた俺自身の間抜けさ程度。

それほどチャンミンは、「女子」に見えたのだ。

可愛らしい面立ちをしているし、メイド服やワンピースがよく似合っていた。

...しかし、チャンミンが男だったからって、今後の生活に何ら影響はないはずなのに、腹正しかった。

着替えや話題など、かえって気を遣わずに済むというのに。

 

なぜ?

なぜだろう?

 

チャンミンが『女の子じゃなかった』ことを残念がっているのだろう。

 

 

「くくくく...」

 

男の証を目の当たりにして、究極な形でチャンミンが実は男だと知らされた。

彼もまさかあのタイミングで、あんな形でバレてしまうとは思いもしなかっただろう。

すってんころりと見事に転んだシーンを思い出すと、可笑しくて仕方なくない。

 

「くくくく...」

 

腹の底から笑いがこみあげてきた。

 

「ユノさん?」

 

俺は跳ねるように身体を起こすと、「わ~はははは」と笑った。

チャンミンは目を丸くしている。

 

「分かった。

君の弁明を聞くよ」

 

俺ときたら、「弁明」だなんて意地悪なことをついつい言ってしまった。

チャンミンは遠慮がちに、ベッドの足元あたりに腰を下ろした。

 

「ごめんなさい」

 

俺は手を伸ばし、しゅんぼりと猫背になっている彼の肩を叩いた。

 

「『弁明』って言い方が悪かったね。

君は何も悪いことしていないのに。

君が女の子だと思い込んでいたのは、俺の方だったよね」

 

「女の子の格好をしている僕が悪かったんです」

 

「君は悪くないさ。

人は誰しもお気に入りなことがあるからね。

それにしても...不自然さがなかったらなぁ」

 

「ふふっ。

そう言ってもらえると嬉しいです」

 

「自分のことを『僕』って呼んでたことを、突っ込んで聞いてみるべきだったね。

たまにそういう子もいるっていうしね」

 

「そうかも、ですね」

 

そう言って、チャンミンは肩をすくめた。

彼は自身を『わたし』呼びしない、女装男子。

 

「それにしても、Tのやつめ。

妹って...さあ。

あいつの言葉に騙されたよ」

 

「お兄ちゃんは悪くないんです。

40%くらいは悪いかも...へへへ」

 

「俺の勘違いを訂正しなかったからなぁ。

酷いなあ」

 

「ごめんなさ~い。

いつかは教えてあげようと思ってたんです。

だって僕は男ですもん」

 

「そっか...」

 

チャンミンの趣味や主義、目指す姿が、現段階の俺には理解できていない。

彼はバスタオルの裾をくるくるいじっている。

ドライヤーで髪を乾かす間がなかったせいで、濡れ髪のままだ。

今さら気づいたのだが、バスタオルを巻き付けただけの格好だった。

ぶらぶらしている足が、やはりデカい。

 

「騙すなら身近な人から、って言うじゃないですか」

「その点は成功してるよ」

 

彼に、女の心があるのか、女になりたいのか、女の格好をしたいだけなのか分からない。

俺の気持ちを悟ったのか、「いろいろと気になることがあるでしょう?」と言った。

 

「ああ」

「ですよね?」

 

俺は大きく伸びをした。

 

「ま、いっか。

君は君だからな」

「そうですよぉ」

「君のことに興味津々だよ」

 

自然について出た言葉だった。

 

「いっぱい教えてあげますよぉ」

 

先程までしょんぼり元気がなかったのが嘘のようだった。

俺もチャンミンも。

 

 

「安心したら眠くなってきた」と言って、チャンミンは寝室に直行してしまった。

「興味津々だよ」の言葉通り、質問攻めにしそうだった俺は、肩すかしをくらった気分だ。

 

 

「チャンミンちゃん?」

 

コツコツとドアを叩いてみたが、返事がなかった。

 

そっとしておけばいいのに、俺は放っておけなかった。

 

「入ってもいい?」

 

そっとドアを開けると、室内は真っ暗だった。

 

「チャンミン...ちゃん...?」

 

彼は横座りした格好で、畳んだままの布団に突っ伏していた。

 

(やっぱり...寝てた)

 

バスタオルを巻き付けただけの姿で、細い脚を折り曲げ、上に置いた枕を抱きしめる恰好で眠っていた。

 

「風邪ひくよ」

 

指の背で彼の頬に触れた。

ミルクみたいな香りがする、すべすべで柔らかい頬。

初めての土地で慣れない電車に乗って、仕事の面接を受けて緊張したり、採用されて喜んで。

秘密がバレたことで、平身低頭謝ったり。

疲れて当然だ。

布団に横顔を埋めて眠っていた。

彼の寝顔を、こんなに早く見られるなんて思いもしなかった。

洗面所からタオルを持ってきて、チャンミンの頭を包み込んだ。

濡れた前髪を耳にかけてやると、キリっとした眉の下のまぶたが優しいカーブを描いて閉じていた。

扇形に広がった彼のまつ毛がわずかに震えて、俺の指が思わず止まる。

純粋に、綺麗だと思った。

緊張の解けた彼の寝顔はあどけなくて、想像通り可愛かった。

リビングですってんころりんした彼の真ん丸の目ときたら...。

くすくすと、思い出し笑いがこぼれてしまった。

 

(つづく)

 

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