(31)オトコの娘LOVEストーリー

 

~ユノ~

 

Tから電話があった。

 

『チャンミン、仕事決まったんだってな』

 

相変わらず声が大きい。

 

「ああ。

喜んでるよ」

 

『町に出てくるって聞いた時は、大反対したんだ。

あいつは頑固だから、言い出したらきかないからな。

仕事が決まって一安心だ』

 

「しっかりした子だと思うよ」

 

『ユノ、ありがとうな

お前のおかげで助かった』

 

「大したことはしていないよ」

 

『騙してしまって悪かった』

 

チャンミンの口から、前夜の事件を聞かされていたようだった。

俺に嘘をついたことや、ずっと黙っていたこと自体は非常に腹立たしいが、不思議なことに、その怒りはすっと、消えてしまっていたからだ。

チャンミンとは既に仲直りをしていたことだし、騒ぎたてるのもどうかと思った俺は、わざわざTに電話をかけなかった。

Tからの謝罪の電話を待てばいい、と思っていた。

チャンミンが男だった事実については、未だ消化できずいるのだが...。

 

「しょうがねぇなぁ。

ま、いっか。

許してやる」

 

『ほんとすまなかった。

とっとと住むとこ探させるからな。

...だがなぁ、チャンミンは騙されやすいところがあるからなぁ。

面倒ついでに、アパート探しを手伝ってやってくれないか?』

 

「俺の部屋に住んだらどう?」と言えなくなってしまった事情が悔しい。

 

『1階は駄目だぞ。

一応オトコだが、女ものの服が紛らわしい。

営業マンにのせられてほいほい決めてきそうだから、お前がジャッジしてやってくれたら助かる』

 

「俺が見張っておくよ」

 

互いの近況を報告しあった後、Tとの通話を終えた。

仕事と住まいを決めたら彼は出て行く。

MAXで一か月。

そういう約束で彼を迎い入れた。

あっという間に仕事を決めてきた行動力を考えると、とんとん拍子に新しい住まいを見つけてきそうだった。

彼に出て行ってもらったら、俺は困る。

あんなに面白い子と暮らせたら、毎日笑っていられそうだ。

抜けてる彼の為、あれこれ俺が世話をしてやるのも楽しい。

 

 

別れ話のタイミングを図りながら、このことを常に頭の片隅に置いて、ベッドの反対側で眠るBを横目に出勤した。

業務に追われている間は忘れているが、ふとした時に「そうい言えば」と思い出した。

別れを決心してからわずか数日間で、俺は消耗していた。

ぐずぐずしている自分が不甲斐なかった。

べた惚れだった自分だっただけに、NOを突き付けるには気合が必要だった。

これを解決しなければ、前へ進めない

一方、チャンミンの存在は摩耗した俺の心を癒してくれる。

 

 

彼の初出勤の日、洋服を貸してやった。

その日は、淡い水色のストライプシャツ。

スタンドカラーが彼のほっそりした首を引き立てて、俺が着るよりずっと似合っていた。

女ものの洋服を除いてしまうと、彼のワードローブは乏しいものだった。

「お洋服を買う余裕がなくて...」と、恥ずかしそうにうつむく彼の頭を「ちょっとずつ揃えればいいよ。俺が貸してあげるから」ってポンポンした。

チャンミンに自分の洋服を着せることを、密かに楽しんでいた。

彼に洋服を買ってあげたいけれど、兄妹でもない、友人でもない、恋人でもない相手に買い与えるなんてやり過ぎだろうから。

彼は親友の『弟』だ。

それじゃあ、『友達』?

それだけのものなのか?

彼は『兄の友人』、としか見なしていないだろうけどね。

俺のシャツを着て、彼は張り切って出勤していった。

 


 

~チャンミン~

 

仕事場へ行くには、正面エントランスのエレベーターを利用する。

面接の日に使った黒い扉のエレベーターは、ビルの上階に住むYUNさん専用のもの。

10階建てのこのオフィスビルのオーナーなんだって。

このビルの他にもいくつか不動産を所有しているんだって。

凄いなぁ。

 

「一番おいしいのは、田舎の商業施設に駐車場用地を貸すことだ。

税金も安い、面積は広大で、余程のことがない限り貸し続けることができる」

 

彼はそう言ってニヤっとし、その『悪そうな』笑いにしびれてしまった僕はおバカさんだ。

彼と僕が接点を持てたのが、以下の通りだ。

当時、彼は現地の仲介業者さんとの打ち合わせの為、僕が住んでいた田舎町に訪れていた。

僕はショッピングセンターの電化製品店で、フルタイマーとして働いていた。

仕事用のノートPCの調子が悪いからと、急遽買い替えを迫られた彼の接客を担当したのが僕だった。

YUNさんが求めるスペックを聞き取って適切なものを選び、データ移行と必要とされるソフトのセットアップまで行った。

僕の仕事ぶりに満足してくれた彼は、会計カウンター越しに名刺を渡してくれた。

常識的に考えてみても、ホイホイと見ず知らずの、会ったばかりの大人の男性の車に乗るなんて、世間知らずもいいところだ。

でも僕は男だから何かされる心配はない。

YUNさんの車に乗っても大丈夫なのだ。

彼の車の助手席に座ったおかげで今の仕事にありつけたのだから。

 

(つづく)