(37)オトコの娘LOVEストーリー

 

~ユノ~

 

「嘘...でしょ?」

 

「嘘じゃない。

俺は、本気だ」

 

「ユノの口からそんな言葉で出てくるなんて、信じられないんですけど?」

 

「信じられない」を繰り返して、リアは顔をゆがめて笑った。

 

「...ユノのくせに...」

 

「え?」

 

「ユノのくせに、そんなこと言っていいわけ?」

 

からかうような笑いを含んだ言い方だった。

ユノのくせにって、一体どういう意味なんだよ。

君にとって俺は下の立場なのか?

彼女に押し倒された数日前にも、同じセリフを聞かされた。

彼女との別れを決心させた台詞をもう一度聞かされた俺には、怒りすら湧いてこない。

寂しい気持ちでいっぱいだった。

 

「俺だって、『そんな言葉』を口にできるんだよ」

 

「あんなに好きって言ってたじゃない?

私のことを愛しているって。

リアじゃなければ駄目だって。

リアのために何だってするって。

その言葉は嘘だったわけ?」

 

「嘘じゃなかったよ、当時はね。

でも今は...違う」

 

「大嘘つき」

 

彼女の目に涙が膨れ上がり、口が斜めに歪んでいた。

彼女の唇にキスすることは、永遠にない。

 

「この部屋に住み続けることは、俺には出来ない。

俺は出て行...」

 

ピシャリと冷たいものが顔にかかった。

 

「!!」

 

リアがグラスの中身を浴びせたのだった。

 

「信じられない...!

急に別れたいとか、住めないとか言われて、私はどうすればいいのよ!

ユノ!

私を捨てるっていうこと?」

 

「捨てるだなんて...。

俺たちはもう終わってたじゃないか?」

 

前髪からジントニックがポタポタとしたたり落ちた。

 

「俺たちはずっと別々だった。

俺はいつも独りだった。

何のために同じ部屋に住んでいるのか、分からなくなったんだ」

 

「分かったわ」

 

リアが大きなため息をついた。

 

「私、これから早く帰るから。

それで、いいでしょ?」

「そういう問題じゃないんだ」

 

リアと過ごす時間がこれから増えたからといって、俺の意思が翻ることはない。

俺の心はもう、別のところに向いているんだ。

 

「嫌よ!

別れたくないから!」

 

俺は絶句した。

『別れたくない』だって?

「分かった、別れましょう」って、リアはあっさり頷いて、この別れ話はさくさく進むと高を括っていた。

「ユノとの暮らしは退屈だったの。

私もいつ言い出そうかタイミングを見計っていたのよね。

で、あなたはいつここを出て行くの?」ってな感じに。

ところが、予想外の彼女の拒絶っぷりに、俺は驚いていた。

 

「リア...」

 

顔を覆って泣き崩れた彼女の肩を抱こうとするところだった。

リアを傷つけたくなかったけど、別れ話をしている時点で十分傷つけている。

残酷な言葉だけど、今ここではっきり言葉にしないといけない。

俺はすっと息を吸った。

 

「俺はもう、恋人として君を、愛していない」

 

リアが投げつけた空のグラスが、俺の胸に当たった後、床に落ちてガシャンと割れた。

 

(つづく)