~チャンミン~
正真正銘の「遊び人」で、興味を失うとあっさり切り捨てる冷酷さがある人間だと知られたくなかった。
真面目一徹そうなユノだから、僕を見損なうだろう。
ユノに近づいたのは、最初は遊びのつもりだったよ。
ユノのルックスに惹かれたんだ。
でも、今はそれだけじゃないんだ。
今夜のお相手にと、ユノをハントするつもりが、人柄があまりにも善良過ぎてその気が失せてきた。
ちょっかいを出すと、即効に見せる本音の反応も面白い。
僕の手でユノの純潔を穢すわけにいかない...それから、彼の近くに居られて楽しいと心から思えたのだ。
ユノの側にいると、僕までぴっかぴかになれそうだと錯覚した。
それから...ドキドキする。
なんだよ...まるで惚れてるみたいじゃないか。
~ユノ~
俺の妄想...。
港の倉庫内で、鉄パイプでぼこぼこにのされているチャンミン...。
鉄条網に囲まれた空き地でバッドで滅多打ちにされているチャンミン...。
廃ビルで猿くつわをかまされ椅子に縛りつけられたチャンミン...。
...俺は馬鹿か?
俺の妄想力は映画の見過ぎだぞ?
指定された場所は案外近かった。
俺んちから3つめの駅で、幹線道路沿いのファミリーレストランだった。
店の中なら派手なことはできまい。
「...よかった」
階段を駆け上がり、店のドアを開けた。
出迎えに来た店員に、「ツレがいると」と店内を指さし、ずかずか踏み込み見渡した。
「あれ?」
囚われの身のチャンミンと、タトゥーを彫り、ゴールドチェーンを首にぶら下げた革ジャン輩はいない。
一向に現れない俺に業を煮やし、チャンミンを黒いワゴン車に放り込んで連れ去ったに違いない!
スマホを取り出し、チャンミンの番号へ発信した。
『まだか?
俺らは帰りたいんだよ?』
「俺を騙したな!
いないじゃんか!?
ホントはどこにいるんだよ?」
困った表情の店員に会釈し、俺は店を出た。
奴に店名を3度も復唱させて、俺が店を間違えていたことが判明した。
俺は馬鹿か。
奴が指定した店は、俺が飛び込んだ店の隣だったのだ。
店名を確認しなかった俺が悪いのだけど。
俺は鼻息荒く、隣のイタリアン系のファミレスへ向かったのだった。
(つづく)
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