(23)ぴっかぴか

 

 

~チャンミン~

 

 

かれこれ40分ほど、2人ずつの男たちに左右を挟まれ、座らされていた。

 

場所がファミリーレストランなだけに滑稽で、一刻も早くここから立ち去ってしまいたい。

 

「ぐうぅ」とお腹が鳴ってしまい、食べずじまいになってしまった夕食を思い出せるほど、余裕を取り戻していた。

 

ピザに手を伸ばしたら負けを認める気がして、アイスコーヒーを飲むしかなかった。

 

拘束されているわけじゃないから、男たちを振り切ることは出来た。

 

でも、僕の昔の男に煽られ、ユノは僕を救出しようとこちらに向かっている。

 

「救出」という言い方は大袈裟かな?

 

でも、ユノのキャラ的に...僕が思わせぶりに発した言葉をいちいち真に受けて、直球の反応を見せた...。

 

男の背後で「ユノ、来るな!」と叫んでしまったことで、「ただ事じゃない!」と慌てふためいていそうだ。

 

コトが大ごとになってしまったことと、僕の本性がユノに大バレになるこの後を想像して、暗い気持ちになった。

 

僕の真隣に座るこの男は、全てを赤裸々にしゃべってしまいそうだったから。

 

僕から受けた仕打ちを恨んでも仕方がない、僕の自業自得だ。

 

男の話が進むうちに、僕を心配していたユノの表情が軽蔑のものに変化していくだろうな。

 

僕と縁を切ってしまうだろうな。

 

「はあぁぁぁ...」

 

僕のスマホが鳴った。

 

(ユノだ!)

 

男は逞しい背中で壁を作ってしまい、彼の手からそれを奪い返すことができなかった。

 

「まだか?

〇〇だよ!

...そこじゃない!

アホか?

〇〇だ、〇〇!」

 

どうやらユノは店を間違えたようだった。

 

「らしい」と言うか、この緊迫した場を和ませてくれるというか...。

 

「おい。

今カレをどう始末するんだ?

ポイするのか?」

 

「ユノはそんなんじゃない!

ユノは友達だよ!」

 

きっぱり言い切って、僕の太ももに乗せられた男の手を払いのけた。

 

「今カレと何度寝た?」

 

「うるせー」

 

かつてその手が僕の全身を這い、中を出し入れしていたかと思うと...ぞっとした。

 

 

 

 

まさに「ユノ様のおな~り~」な登場だった。

 

胸を張り、悠々とこちらに近づいてきた。

 

席に案内しようとする店員に対し、片手をあげる仕草もクールに見えた。

 

こんな状況下、自分が陥った状況を忘れて、僕は「ほぉ」とユノに見惚れてしまった。

 

いかにユノが、並外れたスタイルの持ち主なのかを思い知らされた。

 

プライベートを隠し撮りされた芸能人に見えた。

 

男たちも、はっと息をのんでいた。

 

彼らの隣で僕は「ふふん」、と得意げだった。

 

金髪頭にTシャツ、スウェットパンツ、トートバッグ。

 

どう見ても好青年...金髪頭だからって、チンピラにはとても見えない。

 

息せき切って、険しい形相で駆けこんでくるかと予想していた。

 

そして、僕を無理やり立たせて引きずっていくんだろうなぁ、って。

 

ところがそうではなかった。

 

僕は今回の一件で、ユノの新たなキャラを知ることができたのだ。

 

これほどの男はなかなかいないぞ、って。

 

 

しばしユノに釘付けになっていた男は、はっと我に返り、ユノの座るスペースを開けるとシートを叩いた。

 

「ユノさん、せっかくだから座れよ」

 

ユノはどすん、と腰を下ろすと、アクション大きめに足を組んだ。

 

「うちのチャンミンが世話になったな」

 

「!!」

 

ユノの第一声に、僕は「はあぁ?」だった。

 

「俺が目を離した隙に...。

放浪癖があってね。

面倒をかけていなければいいが...。

申し訳ない」

 

足を組んだままの謝罪じゃ、その意志はゼロだって見え見えだった。

 

「!!」

 

ユノの見た目と態度のギャップに、男もあっけにとられていたらしい。

 

ペースを取り戻そうと咳払いすると、僕の恐れていたことを口にし出した。

 

「ユノさんは、こいつの素行を知らないのか?」

 

ユノは組んだ足を崩し、背もたれに両腕を預けると、男を見下ろす目線で話し出した。

 

「この子は不遇な生い立ちでね。

愛に飢えているだけのことだ」

 

「ユノさんはこいつの...何だ?」

 

「ふっ...。

俺はチャンミンの『ご主人』だ」

 

ユユユユユユユユノ!!!

 

何言ってんだよ!?

 

「ユノさんよ。

こいつはなぁ、とんだ尻軽男なんだ。

あっちこっちつまみ食いばかりしてる、遊び人だ。

俺はなぁ、こいつと付き合っていたんだ」

 

男は訴えたくて仕方がなったことを、怒りで声を震わせて言った。

 

「はあん?

それが?」

 

偉そうな態度なのに、ユノのTシャツは『I LOVE  SABA』とある。

 

僕は緊迫した場なのにも関わらず、吹き出しそうなのを堪えた。

(外出着はお洒落なのに、ユノの部屋着はダサい)

 

余裕があるのはきっと、ユノに任せていれば大丈夫だという安心感があるからだろう。

 

ユノは男の鼻先に、びしぃっと指を突きつけた。

 

「あんたそれでも極道か?

それとも何かそのへんのタクシー屋のおっちゃんか、どっちや?」

 

「!!!」

 

(極道!?

それに、どうしてユノが、この男の職業を知っているんだ!?)

 

「俺はタクシー屋に用はないさかいな」

 

(どこぞの方言!?)

 

ユノの勢いに負けてたまるかと、男は次なる揺さぶりにとりかかった。

 

「俺だけじゃない、二股も三股も余裕だ。

挿れられ過ぎて、ずるずるなんだぜ?

...ユノさんも気の毒だな。

明日には捨てられるだろうよ?」

 

「そがな昔のこと誰が知るかい!!!!」

 

ユノの恫喝に、男たちは「ひっ!」と表情をこわばらせた。

 

ちっとも怯まないユノの態度と、ヤクザな言葉遣いに、男は調子を乱されてしまったらしい。

 

この場の会話の主導権はユノにあった。

 

「チャンミン。

帰るぞ?

二度とひとりでフラフラほっつき歩いたりするんじゃねぇ!!」

 

「...は、はい」

 

ユノに怒鳴られ、僕はしゅんと首をうなだれた。

 

ユノに圧倒されていたし、えらく怒っているし、ここで逆らったりしたら、ユノの怒りのボルテージを上げてしまう(ユノは切れやすいキャラなのかもしれない)

 

それから...ユノに守られている感が...嫌いじゃないねぇ。

 

「...ということで、このバカを連れて帰るよ。

付き添ってくれて感謝している」

 

ユノは膝に両手をついて、ぐっと前かがみになって頭を下げた。

 

「そうだ、君!

名前は?」

 

「×、××...です」

 

「他の御三方は?」

 

ぎろっと凄みあるユノの睨みに、男のツレたちは順に名乗っていった。

 

「××さん、うちの子が失礼をしたようで、それについても謝罪する。

この子にはたっぷりとお灸を据えてやる。

むち打ち100回。

メンズ用貞操帯の装着。

オナニー禁止1か月。

セックス断ち5年のお仕置きをしてやる!!

それに免じて許してやってくれ」

 

「ええぇっ!」

 

思わず声が出てしまい、振り向いたユノに睨まれた。

 

(む、むち打ちって...。

エロ絡みのものも酷すぎる...ジョークだよね)

 

ユノの鞭を振るうジェスチャーに、その光景を想像したらしい男たちは表情を歪ませた。

 

男の前のグラスをつかむと、ぐいっとひといきで煽った。

 

「ちっ、酒じゃねぇのかよ!」

 

ユノは悪態をつくと、僕の腕をつかんで強引に立たせた。

 

そして、注文票をもぎとり、僕を連れてテーブルを離れた。

 

 

 

「あいつ...やべぇ奴だぞ」

 

と囁き合う声が聞えた。

 

 

(つづく)

 

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