(25)ぴっかぴか

 

~チャンミン~

 

しばしユノに釘付けになっていた男は、はっと我に返り、ユノの座るスペースを開けるとシートを叩いた。

 

「ユノさん、せっかくだから座れよ」

 

ユノはどすん、と腰を下ろすと、アクション大きめに足を組んだ。

 

「うちのチャンミンが世話になったな」

 

「!!」

 

ユノの第一声に、僕は「はあぁ?」だった。

 

「俺が目を離した隙に...。

放浪癖があってね。

面倒をかけていなければいいが...。

申し訳ない」

 

足を組んだままの謝罪じゃ、その意志はゼロだって見え見えだった。

 

「!!」

 

ユノの見た目と態度のギャップに、男もあっけにとられていたらしい。

 

男はペースを取り戻そうと咳払いすると、僕の恐れていたことを口にし出した。

 

「ユノさんは、こいつの素行を知らないのか?」

 

ユノは組んだ足を崩し、背もたれに両腕を預けると、男を見下ろす目線で話し出した。

 

「この子は不遇な生い立ちでね。

愛に飢えているだけのことだ」

 

「ユノさんはこいつの...何だ?」

 

「ふっ...。

俺はチャンミンの『ご主人』だ」

 

ユユユユユユユユノ!!!

 

何言ってんだよ!?

 

「ユノさんよ。

こいつはなぁ、とんだ尻軽男なんだ。

あっちこっちつまみ食いばかりしてる、遊び人だ。

俺はなぁ、こいつと付き合っていたんだ」

 

男は訴えたくて仕方がなったことを、怒りで声を震わせて言った。

 

「はあん?

それが?」

 

偉そうな態度なのに、ユノのTシャツは『I LOVE  SABA』とある。

 

僕は緊迫した場なのにも関わらず、吹き出しそうなのを堪えた。

(外出着はお洒落なのに、ユノの部屋着はダサい)

 

余裕があるのはきっと、ユノに任せていれば大丈夫だという安心感があるからだろう。

 

ユノは男の鼻先に、びしぃっと指を突きつけた。

 

「あんたそれでも極道か?

それとも何かそのへんのタクシー屋のおっちゃんか、どっちや?」

 

「!!!」

 

(極道!?

それに、どうしてユノが、この男の職業を知っているんだ!?)

 

「俺はタクシー屋に用はないさかいな」

 

(どこぞの方言!?)

 

ユノの勢いに負けてたまるかと、男は次なる揺さぶりにとりかかった。

 

「俺だけじゃない、二股も三股も余裕だ。

挿れられ過ぎて、ずるずるなんだぜ?

...ユノさんも気の毒だな。

明日には捨てられるだろうよ?」

 

「そがな昔のこと誰が知るかい!!!!」

 

ユノの恫喝に、男たちは「ひっ!」と表情をこわばらせた。

 

ちっとも怯まないユノの態度と、ヤクザな言葉遣いに、男は調子を乱されてしまったらしい。

この場の会話の主導権はユノにあった。

 

「チャンミン。

帰るぞ?

二度とひとりでフラフラほっつき歩いたりするんじゃねぇ!!」

 

「...は、はい」

 

ユノに怒鳴られ、僕はしゅんと首をうなだれた。

 

ユノに圧倒されていたし、えらく怒っているし、ここで逆らったりしたら、ユノの怒りのボルテージを上げてしまう(ユノは切れやすいキャラなのかもしれない)

 

それから...ユノに守られている感が...嫌いじゃないねぇ。

 

「...ということで、このバカを連れて帰るよ。

付き添ってくれて感謝している」

 

ユノは膝に両手をついて、ぐっと前かがみになって頭を下げた。

 

「そうだ、君!

名前は?」

 

「×、××...です」

 

「他の御三方は?」

 

ぎろっと凄みあるユノの睨みに、男のツレたちは順に名乗っていった。

 

「××さん、うちの子が失礼をしたようで、それについても謝罪する。

この子にはたっぷりとお灸を据えてやる。

むち打ち100回。

メンズ用貞操帯の装着。

オナニー禁止1か月。

セックス断ち5年のお仕置きをしてやる!!

それに免じて許してやってくれ」

 

「ええぇっ!」

 

思わず声が出てしまい、振り向いたユノに睨まれた。

 

(む、むち打ちって...。

エロ絡みのものも酷すぎる...ジョークだよね)

 

ユノの鞭を振るうジェスチャーに、その光景を想像したらしい男たちは表情を歪ませた。

 

男の前のグラスをつかむと、ぐいっとひといきで煽った。

 

「ちっ、酒じゃねぇのかよ!」

 

ユノは悪態をつくと、僕の腕をつかんで強引に立たせた。

 

そして、注文票をもぎとり、僕を連れてテーブルを離れた。

 

「あいつ...やべぇ奴だぞ」

 

と囁き合う声が聞えた。

 

(つづく)

 

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