(26)ぴっかぴか

 

 

~ユノ~

 

女子っぽい拗ね顔はいかにも演技っぽいが、この男ならガチでやりそうで、そのまんまの意味で受け取ることにする。

 

尖らせた唇と膨らませた頬に、隠し事を誤魔化そうとする不自然さはない。

 

俺は悪い方に考え過ぎていただけみたいだ。

 

疑心は毒だな、うん。

 

「僕んちに泊まっていってよぉ」

 

「俺は寝不足なんだ。

なぜだか分かるか?」

 

俺の質問にチャンミンは、「え~、なんでだろう?」と首を傾げている。

 

「あんたが俺のベッドを占拠していたからだ!」

 

「僕をソファに寝かせればよかったのに...」

 

「...そりゃそうだったけどさ。

べろべろのあんたをベッドから引きずり落すのは可哀想だったし。

ベッドは狭いし...あんたって、身体がデカいだろ?」

 

狭いベッドで重なり合うように寝たら、男好きのチャンミンに襲われる恐れがあったから...とまでは言わずにおいた。

 

「今夜はのびのび眠りたい」

 

と言いながら、チャンミン宅にお泊りする俺の姿を想像していたりもした。

 

「男のよさを知りたくない?」とか言って、腰をくねらせ、ちんちくりんなパンツとか穿いてるんだ。

 

乳首がすっけすけのピンクのビスチェなんかを着ているんだ。

 

で、俺はベッドの四隅に手足を縛られて、身動きができないんだ。

 

俺の大事なムスコを、チャンミンは舌なめずりして狙っているんだ。

 

「僕が全部やってあげるから、ユノは寝ているだけでいいんだよ」って...。

 

...アホか。

 

ここまで想像できる俺の偏見と妄想力が凄い。

 

「!」

 

股間がむずついてきたことに、俺は慌てた。

 

前カノとのエッチを拒んできたけれど、性欲は当たり前にあって、それの処理は自分でするしかない。

 

とは言え、チャンミンに襲われそうになる自分を思い浮かべて、下半身を反応させるとは...!

 

やたら綺麗な男と接近していると、俺の嗜好まで「そっち方面」に傾いてしまうのだろうか!

 

それだけは阻止しないと...ぶるぶるぶる。

 

と、ごちゃごちゃ考えているから、チャンミンは無言でいる俺が、お泊りするかしないかで迷っていると勘違いしたらしい。

 

「着替えの心配はいらないよ。

サイズも似てるしね」

 

「俺は三角パンツは穿かん」

 

「普通のもあるよ。

あれは勝負下着なの」

 

「しょうぶ!」

 

まるで女子みたいな台詞に、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「明日は早番なんだ」

 

「ユノのスーパーは何駅?」

 

「××駅...」

 

「ここから近いじゃん」

 

「......」

 

俺が勤めるスーパーは、チャンミンちの最寄り駅から1つしか離れていないのだ。

 

「録画し忘れたドラマがあるし」

 

「うちで録画すればいいじゃん」

 

「いびきうるさいし」

 

「耳栓あるから大丈夫」

 

「母さんから電話があるかもしれないし」

 

「ユノんちには固定電話はないでしょ?

それに、もう夜中だよ?」

 

「ネコアレルギーだし」

 

「僕んちにはネコはいないよ」

 

ここで俺ははっと気づく。

 

誰かとひとつのベッドで寝た経験がゼロだということに!

(母さんや妹はカウントしない)

(部活の合宿は雑魚寝だったから、これもカウントしない)

 

「寝相悪いし」

 

「ベッドが広いから大丈夫だよ」

 

「......」

 

チャンミンは両口角をぐっと下げ、あごにしわをつくり半べそ顔になったが、その手にはのらない。

 

「ユノはっ...っく...。

僕のこと...気持ち悪いと思ってるんだ」

 

「うん」

 

(...と、答えてしまったところで、何事も正直であればいいってものじゃない、無神経な正直者だとさんざん友人たちに指摘されていただろう?)

 

「あのね、僕はお友達には手を出さないよ」

 

「...だって、さ...」

 

チャンミンはふうっと吐息をついた。

 

「あの男が言ったことを気にしてるんでしょ?」

 

「うん」

 

あのマッチョ男は、チャンミンは男遊びが激しくて尻の穴がずるずるだと...こんなニュアンスのことを話していた。

 

さらに、俺も近いうちに(明日だっけ)フラれるだろうと予言までしていた。

 

...つまり、チャンミンは色恋沙汰に引きずり込もうと、俺に近づいたんだろう、と。

 

あの男にそう思い込ませてしまうだけの行いが、かつてのチャンミンにはあったわけだ。

 

そこに俺は引っかかっていた。

 

でも、チャンミンと『お付き合い』するのでもあるまいに、関係ないことなんだけどさ。

 

「俺はな!

あんたとは『そういう関係』になる気は...」

 

人差し指と親指で、5㎜の隙間を作ってみせた。

 

「これっっっぽっちもないからな!」

 

ここだけははっきり宣言しておかないと。

 

チャンミンの恋愛事情だか下半身事情に巻き込まれたくない。

 

「もぉ、ユノったら。

同じことを何回も言わなくても分かってるよ。

そのつもりはないから、いい加減安心してよ」

 

そう言うと俺の手首を取り、今来た道を引き返し始めた。

 

「おい!

泊まるとは一言もいっていない!」

 

抵抗するのも直ぐに止めた。

 

断りもなくテーブルについた昨夜といい、遠慮の欠片なく俺んちの風呂を使った今朝といい、優男ヅラなのに実は強引なキャラらしいから。

 

ま、いっか。

 

こいつの住まいに興味が湧いてきたから。

 

 

(つづく)

 

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