~チャンミン~
「運命!?」
驚くあまり大きな声を出してしまい、慌てて口を両手で押さえた。
ユノはムッとしたように「チャンミンも覚悟があったんだろ?」と言った。
「あったからこそ俺を誘ったんだろ?」
「覚悟って言われても。
...僕はユノとHがしたいと思っただけでして...」
「そこだよ、そこそこ」
ユノはつんつんと僕を指さした。
「Hとは愛を交わす行為だ。
いろんな男を渡り歩きながら、あんたは『運命』の奴を探していたってことだよ」
「いやっ...そこまで深く考えてないよ。
僕は愛が無くてもHできる人間だ」
「それは違う」
「違わない」
「チャンミンが気付いていないだけだよ。
深層では探していたんだ。
自分の身体を大事にできないところも、恋人がしょっちゅう変わっていたのも、運命の奴と出逢えていなかっただけなんだ。
でもさ、俺と巡り合ったことであんたは本物の恋愛ができる」
ユノはぐっと僕に顔を近づけた。
「...と思わない?」
さっきの風呂場でのやりとりと、立場が逆転してしまっている。
悦に入るユノの表情はぴかぴかと明るい。
「待って待って!
どうしてそうなったんだよ!」
キスできそうな距離にユノの顔が迫ってくるものだから、僕は両手で彼の顎を突っ張った。
「何すんだ!」
僕とユノとの関係性は、僕が攻める側ユノが攻められる側だと見込んでいたから、今の状況は調子が狂う(この『攻める』というのは、Hに対して積極的かどうかの意味だ。僕は根っからの受け側だ)
「俺たちがこうして一緒にいるのも、あらかじめ決められていたことなんだ。
ちょうど失恋したばかりだったしな。
そうだったよな?」
僕も失恋中だと言ったのは、ユノに近づくためについた嘘だったとは言いづらかった...何故か。
全くの嘘ではない...一応、恋人と別れて日は浅かった。
ただし、真剣な恋をしていたわけじゃないから、失恋中だという自覚はなかっただけだ。
同情心を得るための策略だったと明かすことで、ユノの表情を曇らせたくない僕は、心の中で素早く言い訳していた。
僕の腰に乗っかった、美味しそうな身体の重みが嬉しい。
(参ったなぁ...)
ユノと仲良くなりたい気持ちはあったけれど、望んだ以上の結果が返ってきてしまった。
「よく聞いて。
僕はHするのに愛は求めていない!
身体が気持ちよくなればい~の。
それだけなの」
僕はユノとHがしたかった『だけ』なのに...。
『運命』という重たいワードに若干引きかけていた。
ユノは自ら話していたじゃないか、『俺は重たい男だ』って。
それを軽く見ていた僕は、全力でユノを誘ってしまった。
結果、ユノの何かを必要以上に刺激してしまったらしいのだ。
「ユノ...。
『運命』だと思っちゃったワケって何?
元々はすごい嫌がってたじゃん。
僕...男だよ?」
浴槽でユノにまたがりユノを誘った時の台詞など、棚にあげていた。
「それがどうした?
あんたが男だから何だ。
俺は全く、気にしない」
「気にするよ。
ゲイの僕のことを気持ち悪がってたじゃん。
昨日のユノはどこに行っちゃったんだよ!」
「それは真実に気付くまでの話だ。
昨日の俺はもういない。
今の俺は違う。
男同士でも繋がり合える...そんなようなこと言ってたのはあんただろ?」
「でもさ、お尻だよ?
嫌じゃないの?」
「アンケートでは、ア○ルの経験があるカップルは全体の40%いるんだと。
男女でも珍しくないプレイのひとつらしい。
特別なものじゃないさ」
訳知り顔でデータを披露するユノに、僕は驚いてしまう。
「それってどこ情報?」
「ネット。
尻を使うプレイってどんなものなんだろう?って、興味が湧いて調べてみたんだ」
神妙な顔で検索結果を読み込むユノの姿が思い浮かぶ。
「分かったよ...。
お尻問題については、もういいや。
もう1回確認だけど、ユノはストレートじゃん。
勃つのは女の子限定でしょ?
僕は女の子じゃないよ?
おっぱいないよ?
おちんちんが付いてるんだよ?
気持ち悪いよ?」
「何を言い出すかと思ったら...」
ユノは我に返るどころか、僕が男か否かにこだわり出したことに呆れたようだ。
「おっぱいやチンコの有る無しが、愛情の大きさに影響するのか?
関係ないだろ?
気持ちが大事だろ?」
ユノはとんとんと、ハートの在りか...左胸をこぶしで叩いた。
「関係するって!」
「例えばどういうところが?」
「僕はおちんちんが大きい方が好きだ」
「それは好みの問題であって、愛情の有る無しとは話が別だ。
それを言うなら、俺は胸が大きい子が好きだ。
だからと言って、胸が大きい子なら無条件に愛せるわけないだろ?
あんただって、ちんこが大きい男ならば誰でもいいのか?」
「...うっ...!」
僕の言葉の抵抗に、ユノは動揺せずに反撃してくる。
「それにさ。
俺のチンコ...多分...平均以上のデカさだと思う」
「!!!!」
僕はとっさにユノの股間に目をやってしまった。
ユノの股間はちょうど、僕のおへその下10㎝あたりにある。
ユノのサイズについては出逢ってすぐに確認済で(パンツ越しだったけれど)、彼が言う通り『平均以上』だ。
ごくり...。
僕の視線に気づいたユノは、にやりと笑った。
「な~んて」
「へ?」
「比較したことないから分からんけど、小さくはないと思う。
あんたは『デカい』ちんこが好きなんだろ?」
「ま、まぁ、その通り...ですけど」
何と言おうと、僕はユノに言い負かされてしまっている。
「あのさ...僕、服を着たいんだけど?」
僕は話を反らした。
なりふり構わず全裸で風呂場から走ってきた恰好のままだったのだ。
「駄目」
「寒いんだって!」
すると、ユノはヘッドボードにある温度調整のスイッチを切った。
「エアコンを切った。
これでいいだろ?」
「だからぁ、恥ずかしいんだって!」
股間のすみずみまで見せつけていたのに、裸をさらしていることにいたたまれなくなってしまったのだ。
身を起こそうとしたら、今度は両肩を押さえつけられてしまった。
「ちんこの話はひとまず終わりだ。
まずは俺の話を最後まで聞け。
どうしてあんたが俺の運命なのか、その理由を話したい」
「......分かった」
「あんたに誘われた時、俺、嫌な気がしなかったんだ。
普通は嫌だろう?
嫌じゃなかった。
それどころか...色っぽい、と思ってしまった」
「そう思ってもらいたくて迫っていたんだもの、当然だよ」
「俺は最初っから、あんたのことを気持ち悪いと思ってたし、俺の恥ずかしい秘密を知られてしまってた。
恋愛対象になる確率0%だった。
男のあんたに俺の筆おろしを任せるなんて、あり得ない。
まず、俺と寝る奴は、俺の運命の人じゃないと駄目だ。
それなのにさ、俺が大事にしているものを知りながら、あんたは俺と寝ようとしていた!
あんたの意気込み、俺は受け止めるよ」
勘弁してくれよ。
僕の思惑とは違う方向に進んでしまった。
嬉しいと思うよりも、本気で困ってしまった。
「あんたに誘われて、俺はちょっとだけ『その気』になったんだ。
男同士だぞ?
凄くないか?
...あんたが相手ならば、できるかもしれないって思ったんだ」
ここで頷いてしまっていいのかどうか迷った。
僕はユノとHがしたい。
でも、ユノの想いを受け止められるかどうかは自信がない。
僕は軟派な男なんだ。
「う~ん...」
「なんだよ、急に渋りやがって。
風呂場ではよだれ垂らしてたくせに」
ユノは僕の両頬を大きな手で包み込むと、唇を覆いかぶせていた。
「んんーーーー!?」
熱い熱い唇を。
(つづく)
[maxbutton id=”23″ ]