(46)ぴっかぴか

 

~チャンミン~

 

「『ポイ』だなんて...」

 

「あんたのことを『運命の奴』って言ったことだけどさ。

軽い気持ちで言ったんじゃないんだ」

 

「分かってるよ」

 

その一点がユノと交際するか否かの迷いが生じてしまった種なのである。

 

「あんたは、誰かのことを心から好きになったことはないんだろ?」

 

「ま、まぁ...そんな感じかなぁ」

 

「こういうヤツが本当にいるんだって、びっくりした。

軟派なヤツっていうの?

人付き合いが面倒だったり、身体の付き合いだけで十分だと思ってる奴」

 

「僕のことよく分かってるじゃん」

 

「あんたってキャラが濃いじゃん?

慣れるまでは圧倒されててさ。

あんたに慣れかけてきたら、『なんて分かりやすい奴なんだ』ってさ」

 

最初から恋に慣れた軽~い男を前面に出してきたから、ユノに僕のキャラを読まれてしまっても驚くことではない。

 

あえて僕のキャラを見せることで、さりげなく警告を出していたのだと思う。

 

僕はこういう男なんだから、君の軽い気持ちで僕と関係を持ってみない?

 

でも「真剣になられたら困るからね」の但し書き付き。

 

「分かりやすい屈折野郎って言うの?

髪型といい、乳首見せシャツといい、チンコが蒸れそうなズボンといい、もはや衣裳。

よほど自分に自信がなくちゃあんな恰好できないさ。

ナルシストの塊だよ」

 

ユノの言うとおり、僕は自分の容姿に自信を持っている。

 

「無邪気にケツの穴見せられた時なんか、『こいつはアホか』って思った。

仕事はまとも、賢そうな目をしてるから、ただの下半身男じゃなさそうに見える。

相手の出方を試しているんだな、ってピンときたんだ。

ギラギラな鱗を持った蛇が、ちょろつくネズミを愛でた後、ぱくっ」

 

「あのねぇ...蛇ってなんなのさ?」

 

「あんたって、深く関わったら怪我しそうな奴だけど、そこがいいと思った。

正常な精神状態だったら、近づきたいなんて思えない類の奴だった。

...失恋したばっかだったから、心のガードがゆるゆるだったんだよ」

 

「相変わらず、正直にズケズケ言うよねぇ」

 

「悪かったな、これが俺だ」と言い、ユノはペットボトルのお茶をあおった。

 

上下に動くユノの喉仏に目が吸い寄せられる。

 

僕の凝視に気付いたユノは、「俺に遠慮しないで、飲みなよ」とペットボトルを手渡した。

 

冷蔵庫にこれ1本しかなかったのだ。

 

「発端がなんであれ、こだわるのは止めたんだ。

弱ってた時にあんたみたいな奴と知り合えたこと自体が、『運命』なんだろなって」

 

「運命ね...相変わらず重いね」

 

「悪かったな、これが俺だ」

 

そう言ってユノは再びベッドに横たわり、頭の後ろで腕を組んだ。

 

「俺だってあんたのことは言えないさ」と、天井を睨んだままつぶやいた。

 

「恋愛に多くを求めがちなだけ。

完璧な恋愛を求めていただけ。

それに見合うだけの彼女が欲しかった。

自分の価値をどんだけ高く見積もってるんだよ、って」

 

ユノがチェリーでいた理由のひとつが、分かったような気がする。

 

「好きな子にチンコ見られたトラウマが理由の大半を占めている。

でもさぁ、結局のところ運命の奴じゃなきゃ童貞捨てたくないってのも、何気に童貞を恥ずかしく思ってたのかもなぁ。

あ、だからって、童貞捨てたかったからあんたと寝たんじゃないからな?」

 

「分かってるよ」

 

ユノは『本気の男』だ。

 

「7割くらいは運命の奴に捧げたいって気持ちは本当のことさ。

だから...」

 

ユノはごろんと僕の方に横向きに寝返ると、じっと見つめた。

 

(うわっ!)

 

そのキリっとマジな表情にドキっとした。

 

「あんたに捧げられてよかったよ。

すげぇよかったし。

すげぇ充実感。

これが欲しかったんかなぁ、って」

 

「ユノって単純だね」

 

「俺って単純馬鹿なの。

そういうわけでさ」

と、ユノは僕へと手を差し出した。

 

僕はその右手の意味が分からずユノの手を握ったら、ぎゅっと力いっぱい握り返された。

 

「これからよろしくな」

 

「えっ!?」

 

「何て顔してんだよ。

俺たちはもう、『そういう関係』だろ?」

 

「う、うん。

『そういう関係』だね」

 

「これまでの俺って、付き合いの理由や中身にこだわってばかりだったから、彼女が逃げ出したんだと反省しているんだ。

そこんとこは気をつけるよ」

 

「う、うん」

 

「それで...チャンミンがよければの話だけど...もしよければ、これからも俺と会ってくれるか?」

 

敢えてなのかどうか、ユノは『恋人』というワードを持ち出さなかった。

 

(そっか。

ユノは僕の迷いに気付いている)

 

ユノなりの遠慮の気持ちなんだろうな。

 

軽い付き合いがモットーの僕が身構えないよう、重い言葉を避けたのだろう。

 

とは言え、溢れ出す情熱が隠しきれていないらしく、『運命』を連発している点を見落としている。

 

そこがユノらしいというか...。

 

誠実なユノと付き合ってゆけるかどうか自信がないのが本音だった。

 

でも、ユノも自身を変えようとしているんだ。

 

僕も自分の気持ちに素直にならなければ、と思った。

 

「分かった。

会おうか?」

 

僕はユノの気持ちに応える証として、彼の頬にキスをした。

 

(つづく)

 

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