(48)ぴっかぴか

 

~ユノ~

 

ドレスシャツとぴったぴたパンツは、ナンパ用のコスチュームみたいなものらしい。

 

日常のチャンミンはいたって普通の青年だ。

 

俺並にシンプルイズベスト。

 

夏の盛りの今は、Tシャツにピタパンの逆をいくゆとり幅のハーフパンツ。

 

足元はビーチサンダル。

 

すね毛は当然ない(全身無毛男だから)

 

30℃越えの今日に相応しいファッションだと言えるが、ラフな恰好をしたからといってカタギには見えない美貌やエロい空気感は、隠しきれていない。

 

撮影現場を抜け出してきたモデルのよう。

 

「あんたって、マジで目立つんだな」と、しみじみ感心したら、「知ってる」としれっと認めるチャンミン。

 

「すげぇ...。

自分で認めちゃうんだ?」

 

「だって、そう思ってるから。

でしょう?」

 

「ああ。

あんたはイケメンだ」

 

チャンミンは「ユノこそ、目立ってる」と唇を尖らせた。

 

わざとなのか無意識なのか、チャンミンのベタな言動にまだ慣れない。

 

(どエロくて、幼な小悪魔ってヤバいだろ?

いたずらを仕掛けたのを俺に見つかって、舌ペロとか、アカンベーとか、猫の鳴きまねとかヤバいだろ?

それがことごとく似合っているから怖いだろ?

女の子座りして俺のチンコしゃぶるとかヤバイだろ?

...おっと、話がずれてしまった)

 

「ユノの方がカッコいいよ」

 

「俺がか!?」

 

チャンミンのジョークに、俺は今日の身なりをチェックし髪を手ぐしで梳かした。

 

昨夜はチャンミンちに泊まったため、彼と同じシャンプーの香りがした。

 

背が高いのは有利だけど、髪型もこだわっていないし、洋服もしっくりくるものを着ているだけ。

 

女の子にも振られまくってる。

 

「俺は~...ぎり普通じゃね?」

 

俺の回答に、チャンミンは呆れたように首を振った。

 

「僕はさ、自分のことカッコいいって知ってるくせに、半端に謙遜する奴が嫌いなんだ。

でもユノは謙遜していないんだよね。

だって、すごいイケメンだってことに、本気で気付いていないんだもの。

そんなユノ、僕、好きだよ」

 

チャンミンが口にする「好き」に、まだ慣れない。

 

その「好き」に真実の「好き」が込められているのか、ついつい疑ってしまう俺がいた。

 

だからと言って、俺は「好き」の出し渋りはしない。

 

「俺も、チャンミン、好きだよ」

 

「...っ!」

 

毎度耳を赤くするチャンミンを意外に思う。

 

恋愛百戦錬磨のくせして、俺の「好き」に戸惑っている風なのだ。

 

軽い恋愛しかしてこなかったから、俺の重たい「好き」の扱いに困っているだけなんだ、と解釈している。

 

 

お互いの服を見繕ってやろうと、チャンミンと街に出かけていた。

 

交際2週間にして、思えば初めてのデートと言っていい。

(たまに合った貴重な休日をベッドの上だけで過ごしてしまったり!

童貞期間、溜めに溜めていた精力をチャンミンに注ぎ込んでいるのだろうか?)

 

映画を観て、小洒落たところでランチをとり、買い物に付き合ってやって、カフェでお茶して、自宅まで送ってやる。

(この定番中の定番デートコースは、恥ずかしながら過去の恋愛してきたものをなぞらえただけのお粗末なものだが、それくらいしか思いつかない)

 

思い返せば、彼女の喜ぶ顔が見たいからとサプライズ的な何かを計画してやるでもなしで、俺ってつくづく退屈な男だったんだな、と猛省。

 

フラれた理由が、Hをしなかったから...だけじゃなくて、つまらないデートしかできない俺に愛想をしたんだと、今さら気付いた。

 

チャンミンと付き合うようになって、過去の恋愛と今とを比較することや、自分のいたらなさに気付かされることが多くなった。

 

それは、チャンミンが男だからだと思う。

 

相手が同性な分、紳士的な言動や騎士道を相手に見せなくてもいい。

 

交際相手のために何をしてやれるかを、フラットな視点で考えることができる。

 

チャンミンと付き合いながら、「もしこれが女の子が相手だったら」「もしこれがチャンミン相手だったら」と比較の連続ということを、チャンミンには言いづらい。

 

「ユノ?

ボーっとしてる」

 

背中を小突かれはっと我に返ると、1着のTシャツが胸にあてられた。

 

「これなんかどう?」

 

チャンミンはTシャツと鏡の中の俺とを交互に見比べている。

 

「ちょっと明るすぎる色かなぁ?

どう?」

 

「俺、Tシャツは腐るほど持ってるんだけど?」

(俺はTシャツをコレクションしている)

 

苦情を申し立てたら、チャンミンは「ん~」っと渋い顔をした。

 

「今日みたいなのは好きなんだけどね。

ロゴも小さいしシンプルだから。

でもさ、ユノって外出用のTシャツって2パターンくらいしか持ってないでしょ?」

 

「夏はすぐに乾く。

少ない枚数でローテだ。

それに2枚じゃなくて、3枚だ」

 

「2枚も3枚も一緒だよ。

まさか、彼女と会うときもシンプルイズベストなファッションを貫いていたの?」

 

「ああ」

 

チャンミンは「まあ、信じられない!」といった風に、目を丸くして言った。

 

「ユノってホント、ナチュラルな男なんだね。

いい意味でも悪い意味でも。

素材がいいから許されるけどさ」

 

「うるさい。

頭がこれだから、半端に洒落っ気出すと見た目が過剰になるんだよ」

 

「自慢のTシャツコレクションは、外出には相応しくないっていう認識はあるんだね」

 

「もしか、俺を馬鹿にしてる?」

 

俺はチャンミンの膝裏に軽くキックを入れた。

 

チャンミンはギリギリのところでかわすと、「してないしてない」とケラケラ笑った。

 

「これからは僕が選んであげる~」

と、チャンミンは歌うように言うと、「別のやつにする。これはイマイチだった」と、店の奥へと行ってしまった。

 

互いに互いのファッションにケチをつけながら、今日の目的は果たせた。

 

チャンミンは俺のためにTシャツを、俺はチャンミンのためにスニーカーをそれぞれ選んでやった。

 

 

(つづく)

 

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