(5)ぴっかぴか

 

 

~ユノ~

 

銀髪の男、チャンミンの恋愛対象は『男』だという。

 

おとこ、男、男、男、男、男、男、♂、おとこ、おとこ、おとこ、OTOKO...俺は男...!!!!

 

...もしかして俺、狙われてる!?

 

突然、俺のテーブルについた時点で不自然だ。

 

「好みだわ」って射止められたんだろうか?

 

固まってしまった俺に、チャンミンは泣いてしまった。

 

初対面の他人にカミングアウトした結果、ドン引きされたのだ。

 

...マズいな、傷つけてしまったかな。

 

「これで涙を拭けよ」

 

両手で顔を覆ってしまったチャンミンに、おしぼりを差し出した。

 

チャンミンは素直にそれを受け取り、そっと目頭を押さえた。

 

その拭き方が上品で、女の子がメイクを崩さないよう涙を拭く風に見えて、俺の目にはチャンミンが女っぽく映ってしまう。

 

白シャツにレザーの超細身のボトムスに身をつつんでいる辺り...いかにも『それ』っぽい(偏見の塊だな、俺)

 

「......」

 

チャンミンは頭を上げ、ごしごし目をこすってから、にこり、と笑った。

 

うわぁ...いい笑顔じゃん。

 

つい見惚れてしまい、

 

(あぶないあぶない、男によろめきそうになってしまった。

チャンミンは俺に対して、やたら前のめりだし、気を付けないとこの男に食われてしまうかもしれない!)

 

と、自分を叱りつけたが、さっきがぶ飲みしたアルコールのせいでぐらり、と視界が揺れた。

 

これ以上は控えた方がいい、この後の自分に責任が持てない。

 

つぶれてしまったら、この男にホテルに連れ込まれてしまうに決まってる!

 

「...ユノ、大丈夫?

顔が真っ青。

外の空気を吸おうか?」

 

「いや、平気だよ。

チャンミンこそ飲みたければ、もっと注文しなよ。

すみませ~ん!」

 

チャンミンの前の空になったジョッキを指さし、追加の酒を注文しようとした。

 

この奇妙な雰囲気をかき消したいと思ったのだ。

 

もっとも、気まずく感じているのは俺の方だけかもしれない。

 

「これと同じもの...ハイボールでいい?

焼酎?

オッケ。

焼酎をお願いしまーす。

え?

ボトルで?

オッケ。

銘柄は何でもいいよな?」

 

注文を終えた俺は姿勢を正して、目前のチャンミンと対峙した。

 

俺のカミングアウト、チャンミンもカミングアウト。

 

互いにデリケートな内容を共有したおかげで、ぐっと距離が狭まったのは確かだ。

 

「...つまり、俺たち二人とも、チェリーってことか、ハハハ」

 

何かを誤魔化したい時の俺の癖、ピアスをいじった。

 

「ユノもピアスしてるんだ。

ほら、僕も」

 

チャンミンは真ん中で分けた長い前髪を耳にかけ、自身のピアスを披露してくれた。

 

互いのカミングアウトまで、見ず知らぬ男の接近で緊張していた俺だったから、今になってチャンミンのピアスに気付いたのだ。

 

「これ、もしかしてダイヤモンド?」

 

「うん」

 

こんなピアスを付けている男なんて...堅気じゃないに決まってる!

 

職業は何なんだろう?

 

「ずっと前、付き合ってた人からもらったんだ」

 

「チャンミン...前に付き合ってたっていうのも、男だったんだ?」

 

「...そうだよ」

 

「フラれたって言ってたよね。

そいつも、男だったんだ?」

 

「当ったり前でしょう?」

 

チャンミンは人差し指でつん、と俺の腕を突いた。

 

(ひぃっ)

 

チャンミンの行動に、俺はつい腕を引っ込めてしまった。

 

鳥肌が立っていた。

 

さっきまで慰めようと肩をさすってやっていた俺が、カミングアウトを受けて突如、態度を変えてしまって、失礼だったかな、と思う。

 

嫌がってるわけじゃないぞ、の意を込めて、引っ込めた腕をテーブルの上に戻した。

 

チャンミンは気分を害した風でもなく、俺の顔をニコニコ笑みを浮かべて見つめてくる。

 

俺もぎこちない笑みを浮かべる。

 

第3ボタンまで外したシャツ、ぴっちぴちにタイトなボトムス...派手な髪色、整えられた眉毛...男のものにしては細い指...そして何より、男にしておくのは勿体ない『美貌』

 

恋愛対象が同性と知ってしまうと、チャンミンの見た目は「いかにも」だ。

 

この手の奴に会うのは25年の人生、初めてだった。

 

「びっくりした?」

 

「うん」と、俺は正直に認めた。

 

「気持ち悪いと思った?」

 

「...うん」と、これも正直に認めた。

 

拒否感は否めない、受け入れたふりはよしておこうと思ったから。

 

いつか、何かしらのタイミングで、嫌な顔をしてしまいそうだから...こういう生理的なものは隠し切れないものだろうから。

 

...ん?

 

チャンミンとは今この酒の場だけのつもりだったのに、今後も会うつもりでいるのか?

 

「気に入った。

ユノが気に入ったよ」

 

メロンソーダのグラスを持った手が、チャンミンの両手に包まれた。

 

「!」

 

払いのけそうになるのを、ぐっと堪えた。

 

偏見は...駄目だよな、うん。

 

俺は童貞だけど、手を握られることくらいどうってことないのだ...ハグやキスまでは出来るのだ...ただし女子限定。

 

「やだな。

警戒しなくても大丈夫だよ。

そりゃあ、僕は傷心中で寂しいけどね。

だからって、ユノをどうにかしようなんて考えてないから」

 

チャンミンの言葉に俺は、安堵した。

 

今夜ひと晩、酒を酌み交わすだけの仲だ。

 

俺はチャンミンという男...恋愛対象が同性だというこの男の生態に興味津々になっていた。

 

だから、ひと晩だけだなんて、つまらないなぁと思ったのだ。

 

 

(つづく)

 

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