「...そっか」とつぶやいたきり、ユノは口を閉じてしまった。
肯定とも否定とも判断しかねる、淡泊なつぶやきだった。
カミングアウトしたことで清々しい気持ちになったけど...やっぱり怖いよ。
ユノが席を立ち、僕に背を向け、中庭を出て行ってしまうのを待った。
「......」
僕は絶対に嫌われた。
ひとり突っ走る僕は、昔も今も馬鹿みたいだ。
でも仕方がない、これが僕の恋の仕方だ。
僕の方が先にLOSTを出ることは確実で、ユノの回復までにどれくらいの期間が必要なのかは予想がつかない。
手紙のやりとりも差し入れも禁止されている。
僕は毎日LOSTの前で、ユノが出てくるのを待つのだ。
中庭のフェンス前には近づけないからね。
正門前に喫茶店があったはず、コーヒーを何杯もお代わりして読書して一日をつぶすんだ。
門が開く度ページから顔を上げては、ユノじゃないと知ってがっかりするんだ。
...ユノの事情なんて一切無視して、こんなプランまで既に立てていたんだ。
ユノが男を愛することができる男なのかは、この3週間の付き合いだけでは分からない。
こうしてベンチで隣り合って座っているのも、僕に好意を抱いてくれてるからだとみなしていた。
「婚約者はいつもワンピースを着ていた。
ワンピースはね、全部僕がプレゼントしたものなんだ。
僕の元を離れていった以降、僕にとっての婚約者は亡き人のようなものになった。
そうでも思わないと、やっていられないよ。
『形見』と言ったのは、そういう訳だよ」
緊張に耐えかねて、ユノが聞いていようといまいと、ワンピースを着ている理由のひとつを一方的に披露した。
ワンピース男なんて気持ち悪い?
僕に好かれて気持ち悪い?
そう尋ねようか、一寸の間迷った。
「ラムネが待ちくたびれてる」
ユノは立ち去らなかった。
ユノはポケットからビニール袋入りの人参を出してみせ、温室へと僕を誘った。
「うん」
ベンチから立ち上がった直後、中庭へ吹き込んだ強風が僕のワンピースを膨らませた。
素肌の太ももが粟立った。
下着だけの下半身はすうすうして、心もとない。
さらに下着がお尻に食い込んでしまい、直したいけれどワンピースの下から手を入れるわけにはいかない。
ユノにはああ言ったけれど、ワンピースの時は女性ものの下着を付けている。
女性になりたいとは思わない。
どうせワンピース男になるのなら、徹底的に。
気分が上がる。
行為の際に、婚約者のワンピースを脱がすのが僕は大好きだった。
でも、脱がせながら「いいなぁ」と羨ましく思っていた。
僕も脱がされたいなぁって。
そんな願望もあってワンピースを着てるだなんて、ユノには話せない。
ラムネにニンジンを与えるユノの指を...節が太く、血管の浮き出た指から目を反らせずにいた。
潔癖症の人間の指は、度重なる手洗いのせいで真っ赤に擦りむけていると聞く。
ユノの指は常に手袋で保護されているおかげで...保湿ケアも万全なのかな...白くしっとりとしていた。
その手で僕に触れて欲しいと思った。
大変だ...ショーツの前が窮屈になってきた。
僕のそこが性的に反応するのは、ひさしぶりだった。
LOSTへは性的な想像力を補ってくれる物の持ち込みは制限されている。
もし...もしも、僕の身体に触れてくれるのなら...。
ユノは潔癖症。
でも可能性はゼロじゃない。
先ほどの、手の甲に触れられた感触を思い出した。
困ったなぁ。
綺麗な男だと見惚れているだけではいられなくなったみたい。
(つづく)
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