(23)虹色★病棟

 

 

「ユノは汚くないよ」

 

ユノが潔癖症であるのはホントウだろう。

 

周囲はばい菌だらけ。

 

ユノの場合、潔癖症をこじらせてしまって、自分自身もばい菌だと思っていること。

 

身の回りのものから汚されたくないし、自分自身が分泌するもので周囲を汚したくない。

 

ばい菌に怖気が走る感覚がどれほど強烈かは、自分自身がよく分かっているから、余計に周囲の者に「汚い」と思われたくないのだ。

 

僕に手袋を強要するのは、僕の素手が汚いこともあるけれど、同時にユノに触れる僕の手を汚さないようにするためなんだ。

 

「ダメだ」

 

ユノの鋭い制止の声に、マスクのゴムにかけた指は止まった。

 

「俺を怖がらせることは止してくれ。

接近戦には慣れていないんだ。

それに、チャンミンの言葉をどれだけ信用したらいいか分からない」

 

「僕のことは信じて大丈夫...と言っても、信じられないよね。

知り合ったばかりだし...」

 

僕はマスクの下でため息をついた。

 

「ユノの潔癖症って...いろんな要素が入り組んでるね、ははは」

 

ユノは「そうだ、片方を直せば改善しそうに見えるけど、どっちを先に直すっていうだ?」と言って、シーツをかき寄せ、鼻の上までくるまった。

 

「ルールが多くて大変だよ。

周りの者たちは菌とカビの胞子、ウィルスまみれ。

それ以上に、俺も汚いんだ」

 

「どっちが先だったの?

周りが汚いと思ったのが先?

自分が汚いのが先?」

 

僕の質問に、ユノはしばし口をつぐみ、空を睨んで考え込んでいた。

 

「......」

 

「専門的なところに診てもらったことはあるの?」

 

「ない。

その必要がなかったから。

日常生活は不便だらけだけど、唯一、俺を許してくれる人がいてくれれば、俺は満足なんだ。

パーソナルなエリアは、俺とその人だけで十分」

 

確かにユノは、「その人となら抱き合える」と話していた。

 

今、こうして心の秘密を僕に打ち明けているけれど、それはLOSTに同時に居合わせた仲間意識によるものなんだ。

 

「清潔か不潔か...こいつを直すために来たんじゃない。

喪失から立ち直るためにここに来ているわけだろう?

チャンミンだってそうだっただろう?」

 

僕は頷いた。

心の古傷がうずくごとに、今なお心の小箱はガタガタと揺れ、まあまあコントロールできるようになった。

さらには、最近新しい鍵を付けてもらったから、ここをいつでも出られる準備は出来ている。

 

ここは何かを得るための場所じゃない。

 

手放す場所なんだ。

 

「それなのに、俺という男は...清潔か不潔かが気になって仕方がないんだ。

悲しむべきのことを、すっぽかしてるんだ」

 

「泣いていたでしょ、さっき?

ユノの大事だった人のことを思い出してたんじゃないの?」

 

「まあな。

思い出しては、その頃に戻りたいと願う...確かに、そうだ...そうなんだけど。

その人がとても遠い存在になってしまったことが、悲しいんだ」

 

「そりゃそうだよ。

うん、よくわかるよ、その気持ち」

 

僕はユノの頭を...形のよい小さな頭を...シーツ越しに撫ぜた。

 

素手でユノの黒髪に指をもぐらせ、梳くことができたら...と思った。

 

「チャンミンが想像している俺の気持ちは、ちょっと違うと思う」

 

ユノの言葉の意味がつかめずに首を傾げた。

 

 

(つづく)

 

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