ユノの質問の意味が理解できるなり、僕は吹き出した。
「ユノこそ、はっきり宣言してよ。
ユノの結婚相手は男だったんでしょ?
ユノも僕と同類なんでしょ?
どうして隠してたの?」
僕はユノの膝の上に跨っていて、ユノの両手は僕のお尻に添えられていた。
「いっぺんにいくつも質問するなよなぁ。
ああ、そうだよ。
俺もゲイだ。
『なぜ、最初からオープンにしていなかったか?』の理由は単純だ。
出逢いを求めてLOSTに来たわけじゃないんだから、俺の嗜好を敢えて知らせる必要はないだろう?
たまたま、男が好きな奴と遭遇してしまって...つまりチャンミン、お前だ...やたら俺に懐いてくるし、面倒くさいことになりたくないなぁって。
だから、黙っておいた」
「嘘...やっぱり、うっとおしかった?」
ユノと関わりたくて、入所初日に彼の部屋を押しかけたことを思い出した。
これまでしたことはなかったけれど、「もし逆の立場だったら?」と想像してみたら、とても鬱陶しい行為していたとあらためて知る。
「最初のうちはね。
彼のことを思い出そうとすると、ドアがノックされる。
泣こうにも、俺のテリトリーの中でひらひらした恰好をしているし。
俺はドキドキさ」
「なんか、ごめん...」
「いいさ。
チャンミンの食い気味の態度にびびっていたこともある。
チャンミンが自らカミングアウトした時、俺の気持ちはどっちつかずだった。
『ちょっと待てよ、お前はLOSTにいる目的を見失っていないか?
死んだ奴のことはもういいのか?』と何度も自答していたんだ」
「僕もそのことばかり考えていた」
「単なる好意でとどめておいた方がいいのか、それとも踏み込んでもいいものか。
チャンミンが俺に近づいたのは、たまたまなのか、実は駄々洩れだったゲイの空気を嗅ぎ取って、真の意味の下心だったのか。
ゲイだと宣言した時点で、俺たちは止められないだろう、と」
「『俺たち』?」
「そう。
俺とチャンミンは、その気になったら凄いことなりそうだ。
...なんだ、その顔は?」
「凄いって...凄い...って」
僕の脳裏に、とてもいけないことをしている僕らの光景が浮かんだ。
(ごくり)
「まさか変なこと想像していないよな?
凄いことってのは、恋愛に溺れそうなタイプだってところだよ。
エロいことじゃないぞ?」
「...なあんだ」
「俺はお前が好きだ。
お前も俺のこと...勘違いじゃなければ...?」
「うん。
勘違いじゃない。
ユノの言うとおりだよ」
僕の胸のあたりにユノの顔があった。
僕らは接近している。
「ユノが言いたいのは、もし僕らがその気になったら、とても情熱的になるっていうことだよね?
そんな気がするんでしょ?
うん、僕もそう思う」
LOSTは恋愛を失った者が、その思いを徹底的に失うための場所だ。
何か得るための場所ではない。
退所間際だった僕は、暇つぶしに新人の顔を真っ先に見たくて、出迎えてみただけだ。
ところが、ユノの魅力に撃ち抜かれた。
ゴーグルにマスク姿と、奇妙ないでだちだったにも関わらず。
他人からの物理的な接近を好まないユノの方も、僕のアプローチを拒まなかった。
「あ...」
僕は吐息を漏らし、うなじに鳥肌がたった。
自分でビックリしてしまうほどの、甘い声だった。
ユノが僕の後ろ髪に、片手の指をもぐりこませたからだ。
ハグなんてお子様レベル、ディープなキスでも足りない。
早くて今夜、もしくは明日、僕らは深いところで繋がり合う。
予感どころか、決定事項だった。
僕のお尻は弾力があるのに固いものを感じ取っていた。
僕の前も、パジャマの生地を押し上げている。
ところが場所が悪い。
ここは愛を育み、何かを繋げ合うところじゃないのだ。
さらに、後ろもウズウズしてきた。
なんだろ、この感覚。
ユノといるよ、なぜかこの感覚をここで覚えるのだ。
「ワンピースを『脱がせる側』がいかにも攻めっぽいイメージなんでしょ」
「で、どうなんだ?」
「気になるの?」
「ああ」
「どうして?」
「......」
「僕がどっちだったかを知って...ユノはどうするの?」
ぐっと空気を飲み込んで、固まってしまったユノが可哀想で、これ以上からかうのは止めにした。
「そのままのイメージ通りさ」
ユノの切れ長の目がわずかに丸くなった。
「...じゃあ?」
「うん。
僕は『攻め』だ」
(つづく)
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