(36)虹色★病棟

 

ユノの質問の意味が理解できるなり、僕は吹き出した。

 

「ユノこそ、はっきり宣言してよ。

ユノの結婚相手は男だったんでしょ?

ユノも僕と同類なんでしょ?

どうして隠してたの?」

 

僕はユノの膝の上に跨っていて、ユノの両手は僕のお尻に添えられていた。

 

「いっぺんにいくつも質問するなよなぁ。

ああ、そうだよ。

俺もゲイだ。

『なぜ、最初からオープンにしていなかったか?』の理由は単純だ。

出逢いを求めてLOSTに来たわけじゃないんだから、俺の嗜好を敢えて知らせる必要はないだろう?

たまたま、男が好きな奴と遭遇してしまって...つまりチャンミン、お前だ...やたら俺に懐いてくるし、面倒くさいことになりたくないなぁって。

だから、黙っておいた」

 

「嘘...やっぱり、うっとおしかった?」

 

ユノと関わりたくて、入所初日に彼の部屋を押しかけたことを思い出した。

 

これまでしたことはなかったけれど、「もし逆の立場だったら?」と想像してみたら、とても鬱陶しい行為していたとあらためて知る。

 

「最初のうちはね。

彼のことを思い出そうとすると、ドアがノックされる。

泣こうにも、俺のテリトリーの中でひらひらした恰好をしているし。

俺はドキドキさ」

 

「なんか、ごめん...」

 

「いいさ。

チャンミンの食い気味の態度にびびっていたこともある。

チャンミンが自らカミングアウトした時、俺の気持ちはどっちつかずだった。

『ちょっと待てよ、お前はLOSTにいる目的を見失っていないか?

死んだ奴のことはもういいのか?』と何度も自答していたんだ」

 

「僕もそのことばかり考えていた」

 

「単なる好意でとどめておいた方がいいのか、それとも踏み込んでもいいものか。

チャンミンが俺に近づいたのは、たまたまなのか、実は駄々洩れだったゲイの空気を嗅ぎ取って、真の意味の下心だったのか。

ゲイだと宣言した時点で、俺たちは止められないだろう、と」

 

「『俺たち』?」

 

「そう。

俺とチャンミンは、その気になったら凄いことなりそうだ。

...なんだ、その顔は?」

 

「凄いって...凄い...って」

 

僕の脳裏に、とてもいけないことをしている僕らの光景が浮かんだ。

 

(ごくり)

 

「まさか変なこと想像していないよな?

凄いことってのは、恋愛に溺れそうなタイプだってところだよ。

エロいことじゃないぞ?」

 

「...なあんだ」

 

「俺はお前が好きだ。

お前も俺のこと...勘違いじゃなければ...?」

 

「うん。

勘違いじゃない。

ユノの言うとおりだよ」

 

僕の胸のあたりにユノの顔があった。

 

僕らは接近している。

 

「ユノが言いたいのは、もし僕らがその気になったら、とても情熱的になるっていうことだよね?

そんな気がするんでしょ?

うん、僕もそう思う」

 

LOSTは恋愛を失った者が、その思いを徹底的に失うための場所だ。

 

何か得るための場所ではない。

 

退所間際だった僕は、暇つぶしに新人の顔を真っ先に見たくて、出迎えてみただけだ。

 

ところが、ユノの魅力に撃ち抜かれた。

 

ゴーグルにマスク姿と、奇妙ないでだちだったにも関わらず。

 

他人からの物理的な接近を好まないユノの方も、僕のアプローチを拒まなかった。

 

「あ...」

 

僕は吐息を漏らし、うなじに鳥肌がたった。

 

自分でビックリしてしまうほどの、甘い声だった。

 

ユノが僕の後ろ髪に、片手の指をもぐりこませたからだ。

 

ハグなんてお子様レベル、ディープなキスでも足りない。

 

早くて今夜、もしくは明日、僕らは深いところで繋がり合う。

 

予感どころか、決定事項だった。

 

僕のお尻は弾力があるのに固いものを感じ取っていた。

 

僕の前も、パジャマの生地を押し上げている。

 

ところが場所が悪い。

 

ここは愛を育み、何かを繋げ合うところじゃないのだ。

 

さらに、後ろもウズウズしてきた。

 

なんだろ、この感覚。

 

ユノといるよ、なぜかこの感覚をここで覚えるのだ。

 

「ワンピースを『脱がせる側』がいかにも攻めっぽいイメージなんでしょ」

 

「で、どうなんだ?」

 

「気になるの?」

 

「ああ」

 

「どうして?」

 

「......」

 

「僕がどっちだったかを知って...ユノはどうするの?」

 

ぐっと空気を飲み込んで、固まってしまったユノが可哀想で、これ以上からかうのは止めにした。

 

「そのままのイメージ通りさ」

 

ユノの切れ長の目がわずかに丸くなった。

 

「...じゃあ?」

 

「うん。

僕は『攻め』だ」

 

 

(つづく)

 

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