~ユノ~
身体を丸めて眠るチャンミンを起こさないよう、
マットレスを揺らさないよう、
そっとベッドから降りた。
すやすやと眠るチャンミンの寝顔があどけない。
夢を見ているのだろう、細かに震えるまぶたにそっと唇を押し当てた。
昨夜、俺たちが脱ぎ捨てていった衣服を、順番に拾い上げていく。
胸に沁みる甘い余韻。
ちょっとしたイタズラを思いついた俺。
きっと驚くだろうな。
そして、ちょっとだけ怒るだろうな。
でも、お前のことだから、最後には笑顔になってくれるはず。
~チャンミン~
目覚めたら隣にはユノはいなくて、半身を起こしてぼんやりした頭で昨夜のことを思い出す。
長期出張から戻ったばかりのユノに、性急に求められるまま身を預けた。
僕たちが抱き合うのは1か月ぶりだったから、それはもう...。
重だるい身体も、甘い余韻だ。
コーヒーのいい香りが漂ってくる。
床に散らばっているはずの下着を探したけれど、見当たらない。
困ったな。
「起きた?」
ユノが寝室に僕を呼びに来た。
「朝ごはんが出来たよ。
キッチンまでおいで」
慌てて僕は布団にもぐりこみ、顔だけ出した。
抱き合う時は、いくらだって裸の姿をさらけ出せるのに、一夜明けて、朝日の下では恥ずかしい。
「僕の服は?
とってくれる?」
とお願いしたら、
ユノったら、
「残念なことに...ないんだ」
って、困った顔で言うんだ。
「ない?」
意味が分からなくて、首をかしげていたら、
「全部、洗濯機に放り込んじまった。
俺のものも、お前のものも」
「ふふん」とユノは笑う。
「えぇぇ!?」
「俺のTシャツを貸してやるよ。
さあ、とっとと起きた起きた。
腹ぺこだ。
飯にしよう」
手渡されたTシャツに袖を通すと、ユの匂いに包まれて、甘やかな気持ちになる。
・
「いい眺めだ。
色っぽいなぁ」
お腹から下がすうすうする。
僕が身につけているものといえば、ユノのオーバーサイズの白いTシャツだけ。
「恥ずかし過ぎる!」
「チャンミン、その手を離して欲しいなぁ」
「やだよ」
「ちょっとだけ」
手を合わせてウィンクなんかしちゃって、ずるいよユノ。
渋々、ユノのお願いに応えてあげる。
「いいねぇ。
見えそうで見えない...ってことないか、もう見えてるな。
下からちょろっとはみ出してるとこが、そそる」
「タイムアップ!」
「ケチ」
「昨夜いっぱい見せてあげたでしょ?」
「もっと見たいのになぁ...」
ユノが引いてくれた椅子に、Tシャツの裾をぎゅっと引っ張りながらそろそろと腰かけた。
お尻がひやっとする。
「はい、コーヒー」
「ありがとう」
ユノが淹れてくれたコーヒーは、熱くて濃くて、インスタントなのにとても美味しい。
ベージュのニットを着たユノの広い背中を見つめる。
僕のために、美味しいものを作ってくれるユノの背中。
ぎこちない手の動き。
思わず手を出したくなったけど、ここは我慢。
ここで立ち上がったら、えっちなユノを喜ばせてしまって、朝ご飯どころじゃなくなるよね。
散らかったキッチンカウンター。
鼻歌を口ずさみながら、フライパンを揺する背中。
焦げてしまったパンの香り。
オーブンミトンをはめた手。
ちろりと舌を出して僕の方を振り返って、肩をすくめたユノ。
Tシャツの裾を握る僕のこぶしと、裸の太もも。
こういった、日常のちょっとした景色の1カットを、
ユノと過ごすひとときを、大切にしたいと思った。
~ユノ~
「乾燥機が壊れちゃったんだよなぁ。
乾くまでに...丸一日はかかるよ、きっと」
と、ほとほと困り切った表情をして見せたら、
「帰れないじゃないか!」
って当然ながら、チャンミンは怒った。
「困ったなぁ
どこにも出掛けられないなぁ」
そう言ったら、チャンミンは俺の作戦に気付いて、
「仕方がないなぁ」って苦笑した。
俺はチャンミンの、不貞腐れて頬をふくらませた顔が大好きなんだ。
眉毛なんて目いっぱい下がって、すげえ可愛い。
ブラインドを閉きった窓ガラスの向こうに、初冬の薄青い空が広がっている。
今日も寒くなりそうだけど、
ストーブをたいた暖かい部屋で、俺たちは一日二人きり。
さあ、何をして過ごそうか?
何をするって?
それはもう...決まってるでしょ?
(おしまい)