(16)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

 

午後。

 

この日、学科教習を1時限受け持てば、早上がりのチャンミンはこれで勤務終了となる。

 

終了チャイムが鳴り響き、チャンミンが第1教室を出た時、ちょうど隣の教室から出てきたU君と顔を合わせた。

 

「チャンミン先生、こんにちは~」

 

今日もU君は風変わりなファッションをしている。

(股の位置が膝辺りにあるだぶだぶのパンツ...いわゆるボンタンズボンにTシャツ、その上に花柄のベストを重ねている。さらに、大玉の数珠状ネックレスをぶらさげている)

 

チャンミンは、「どこがいいのか分からない...。古着屋で目をつむって選んだ洋服を着たかのような...」と、「Uさん、こんにちは」と挨拶を返しながら思った。

 

「U君はこれから帰り?」

 

「いえ。

キャンセル待ちが出ないか待ってみようと思います。

構いませんよね?」

 

U君はチャンミンの受け持ち教習生だが、全てチャンミンのスケジュールに合わせる必要はなく、空車があれば他の指導員の教習を受けてよいのだ。

 

「もちろん。

早く卒業したいですよね」

 

チャンミンの脳裏に、ひとつの考えが浮かんだ。

 

「U君。

1時間でよければ、僕が教習するよ」

 

「いいんですか!?」

 

「ええ。

1時間だけですけど」

 

チャンミンの本日の勤務はこれで終了のはずだったが、「1時間残業して、その分をどこかで代休で取ればいい」と、頭の中で素早く計算していた。

 

そして、自分に言い聞かせる。

 

(これはU君を特別扱いしてるわけじゃない!

明後日の教習の振替だと思えばいいんだ)

 

ユノのこととなると、「どの教習生も平等に」のモットーがグラグラになってしまうのだった。

 

公私混同甚だしい自分に呆れてしまうし、ひとり反省会で悶々と自身を責めるだろう。

 

さらに、過去の言動を振り返るあまりに、くるりと360度、結局元の場所に戻ってしまうチャンミンだ。

 

だから今のように、開き直ってしまう狡さを発動できるようになったのは、新しい恋人のおかげである。

 

 

チャンミンがなぜ、U君の実車教習をしたがったのか。

 

Kとの会話のおかげで、こんがらかっていた悩みの糸も少しはほぐすことができたが、根本的な解決には至っていない。

 

知りたくないことだから、敢えてもっと知りたい。

 

疼く傷口は、ツンツンいじってみたくなる。

 

チャンミンは、花火大会に行った時のユノの様子を、U君に訊ねたくて仕方がなかった。

 

今日のU君は、周回コースとS字、クランクコースを延々と走るだけという教習内容だった。

 

U君の運転センスは抜群で、一度指導すればすぐにマスターしてしまい、教習時間の大半は復習だけで消費された。

(「U君には無免許で車を乗り回していた経験があるのでは?と」、チャンミンは疑っていた。しかし、U君のハイセンス過ぎるファッションはヤンキー色から程遠いため、その疑いは忘れることにした)

 

場内をぐるぐると周回し続ける教習車の中で、おしゃべり好きなU君は子供の頃に負った怪我の話題を滔々としている。

 

唐突にユノの話題を出すのは 不自然過ぎた。

 

(大学とか、夏のイベントとか、恋愛とか...早く、そういう話題になってくれ!)

 

通常のチャンミンは、交通ルールやマナー、運転テクニック以外の話題は相手にしないが、今は「くそくらえ」だ。

 

(ユノの話題を出しても不自然にならない、とっかかりが欲しい!)

 

「U君は何人家族なのですか?」

 

「両親と僕と弟の4人です。

弟はまだ中学生です」

 

「そうなんですか」

 

チャンミンは頭の中で、ゴールである花火大会の話題にたどり着くまでのルートを計算した。

 

(家族ネタからどう誘導してゆけば...)

 

「Uさんのご実家はどちらにあるのですか?」

 

「すぐ近所です」

 

「えっ!?」

 

「実家暮らしなんですよ、悲しいかな。

一人暮らし、憧れますよね~」

 

(よっしゃ!)

 

ひとり暮らしをしているユノの話題への道筋が立ち、チャンミンは心の中でガッツポーズをした。

 

「Uさんのお友達は、ひとり暮らし率は高めですか?」

 

「半々ですかね」

 

「溜まり場になっちゃってる子の部屋もあるでしょう?」

 

人当たりのよいユノのことだから、彼の部屋は訪れる友人たちで賑やかなイメージがあった。

 

「ありますあります」

 

「そういえば!」

 

たった今思い出したかのように、チャンミンは手を打った。

 

「ユノさんは?

確かユノさんは独り暮らしをしている、と話していました。

彼の部屋なんかたまり場になっていそうですね。

人懐っこい方でしたし。

...次は坂道発進してみましょう」

 

「ユノは一緒に居て楽しい奴ですからね」

 

「ええ」

 

(ユノはウンウンエンジン音を吹かしていたなぁ。

エンストなんてしょっちゅうだったし、何度補助ブレーキを踏んだことか)

 

U君は「ふふふ」と思い出し笑いをするチャンミンを横目に、「先生にとってよほどユノは印象深い生徒だったんだなぁ」とぼんやり思う。

 

「ユノは運転、上手かったでしょ?」

 

「え゛?」

 

チャンミンは不意打ちの地雷に近い質問に、「はい」と即答しそうになってヒヤッとした。

 

 

(つづく)

 

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