(14)チャンミンせんせとイチゴ飴

チャンミンは焦っていた。

 

(話題が何も思いつかない!

TVでも付けておけばよかった...)

 

ユノもチャンミンも、相手に探りをいれられずにいた。

 

チャンミンはユノに、「女の子と一緒に花火大会に行ってたんだって?どういうこと?」と。

 

ユノはチャンミンに、「言いたいことがあるなら、言ってくださいよ。もしかして、花火大会のことですか?」と。

 

それが出来ない。

 

なぜなら、無駄に話を振って墓穴を掘りたくなかったからだ。

 

その静寂を破ろうとユノは、「せんせもひと口どうすか?」と、ハンバーグの欠片を刺したフォークを、「あ~ん」とチャンミンの口元に近づけた。

 

「...っ」

 

チャンミンは気持ちでは突っぱねようと迷ったくせに、無意識で口は大きく開けていた。

 

ユノは大き目に切り分けたハンバーグを、ふざけてチャンミンの口の中に押し込んだ。

 

「ユノさっ...!」

 

チャンミンの口の中はハンバーグでいっぱいになり、口の周りにデミグラスソースがたっぷり付いている。

 

リスみたいに頬をふくらませ目を白黒とさせているチャンミンに、ユノの中で何かのスイッチが入った。

 

「せんせ!」

「ユノさっ...!」

 

ゴツン、という鈍い音。

 

フォークが床を転がる固い音。

 

ユノはチャンミンを床に押し倒していた。

 

床についたユノの両腕の間で、チャンミンは目を大きく丸く見開いている。

 

「......」

「ユノさん!

ちょっと...!」

 

ユノが腰の上に乗ってチャンミンの動きを封じている。

 

「下りてください!」

「いやです...!」

 

ユノの力強い両手で肩を掴まれて、身じろぎも拒まれた。

 

自分を見下ろすユノの真剣な1対の目に、チャンミンはたじろぐ。

 

(ユノの目...)

 

期待していたことが実現したシチュエーションだったのに、チャンミンの今の心境では喜んで受け入れるのは難しい。

 

(モヤモヤを晴らすために、言葉では解決できないからとセックスに持ち込むパターンが多かった。

『一緒にしたいことが特にないから』、といった理由の時も多かった。

ムラっときたからヤる。

そういうものなんだけど...)

 

ユノを見上げるチャンミンの目が、動揺で揺れていた。

 

(どうしよう!)

 

ユノがチャンミンを押し倒してしまったワケ...ぎこちない空気感を晴らす方法が見つからず、焦れた結果である。

 

「どうしたの?

ユノさん?」

 

もぐもぐ食べるチャンミンの顔が可愛くて、ムラっときてしまった結果でもある。

 

ところが、押し倒した後になってその勢いがしゅん、と消えてしまったのだ。

 

(このままじっとしていたら、変に思われる!

押し倒した次は...。

そうそう...キスだ!)

 

チャンミンはめざとく、ユノの目から困惑の色を見つけてしまった。

 

「!!」

 

顔を近づけたユノの顎は、チャンミンの手の平で押しのけられてしまったのだ。

 

「どうしてですか!?」

 

「こういうの...今夜は止めておきましょう」

 

ユノの顎を押しのけたチャンミンの力は案外強く、ユノは傷ついた気分で顎をさすった。

 

「なんで?」

「今は駄目です」

「なんでですか!?」

 

掴まれた両肩が自由になったためチャンミンは起き上がり、唇の端に付いたデミグラスソースを手の甲で拭った。

 

「『恋人ができれば、裸で抱き合いたいと望む男です』って言ってたのは‘せんせ’じゃん」

 

「覚えてましたか?」

 

「忘れられるわけないっすよ」

 

「そうですね。

ユノさんを煽るようなことを言ったのは僕でした。

あの時はあなたを傷つけてしまいましたね」

 

不貞腐れて頭をくしゃくしゃ掻くユノに、チャンミンはなだめるように言った。

 

「ユノさんは知っているかどうか...。

アソコには直ぐに挿れることは出来ないのです。

そのぉ...慣らさないといけなのです」

 

「ならす?」

 

男女間でも行われているプレイのひとつではあるが、その経験がないユノには知識が足りないことも多い。

 

きょとんとしたユノを前に、チャンミンは「無知なユノに呆れた顔をしたらいけない。彼を傷つけてしまう」と、表情に気をつけた。

 

「あそこはアレを挿れるには、とても狭いのです。

だから、前もって拡げておかないと...」

 

「そうなんすか!?」

 

ユノのきょとんとしていた表情がふむふむと、まるで教習中のような真剣なものに変化した。

 

「そりゃそうですよ。

普通はこれくらいの狭さです」

と言いながら、チャンミンは指で輪っかを作ってみせた。

 

丸めた指の間には隙間はない。

 

「これを最低でもこれくらい拡げないと」

と、チャンミンは輪っかをひと回り大きくした。

 

「拡げるには時間がかかります」

 

「拡げないと?」

 

「“ぢ”になります」

 

ユノの顔がゆがんだ。

 

「でも...せんせはその~、あの~...経験があるんでしょ?

挿れられる側だって、言ってたじゃないっすか?」

 

自分で言っておきながら、チャンミンの顔がボンっと真っ赤になった。

 

「そうでしたね」

 

毎日のように慰めている後ろ...いつでも受け入れることが出来るのに、「今すぐはできない」と断ってしまったチャンミン。

 

ユノには、花火大会という名の合コンに参加したかもしれない疑惑がある。

 

(疑惑が晴れないまま、ユノに抱かれるのはなぁ...イヤだ。

それからもうひとつ、心配なことがある。

いざ、僕の身体を目の当たりにした時、それまでイキっていたユノのものがしぼんでしまったら...!

しぼんでしまったことに焦るユノを目にしたら...男である自分が嫌になる)

 

自信喪失してしまう心情を想像してみて、チャンミンは心の中で青ざめるのだ。

 

恋にのめり込むハズのチャンミン、今回の恋はいつもの調子になれずにいる。

 

(不安の根源はユノがノンケであることだ。

それから、年の差!

ちっぽけなことを気にしてしまう僕を、嫉妬深く心が狭い奴だと、いつ軽蔑されてもおかしくない!)

 

(つづく)

 

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