(24)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

(ユノの運転テクニックの話よりも...)

 

「一人暮らし」ワードを手掛かりに、ユノの交際範囲(特に女子)を探ろうとしていたチャンミンは、会話の軌道修正をはかった。

 

「...今どきの子は...どういうところでデートするの?」

と、質問してしまった直後、ストレート過ぎる内容だったことにチャンミンは気づいた。

 

「すみません!」

今の質問、セクハラでしたね」

 

慌てたチャンミンは、両手をバタバタと振った。

 

「忘れてください!」

 

昨今、この手の話題は要注意だ。

 

チャンミンが勤務する自動車学校では、職員間は当然、教習生相手にセクハラまがいな話題はNGだ。

 

U君は正面を向いたままだったから、隣で大汗をかいているチャンミンに気付かずに済んだ。

 

「いや...別に構いませんよ。

人気のスポットに行って、流行りのもの食べたり、買い物したり...互いの部屋に行ったり...そんなもんじゃないですかねぇ」

 

「例えば、どんなところに?」

 

「そうですねぇ...」

 

U君は最近注目を集めているスポットを複数挙げてゆき、チャンミンはそれを脳みそに叩きこんでいた。

 

チャンミンは翌日ユノとのデートを控えていたため、ちゃっかり情報収集を兼ねることにしたのだ。

 

「そういう先生こそ、彼女さんとデートはどうなんです?」

「え゛?」

 

「絶対にいるでしょう?

先生はイケメンだから、モテるでしょう?」

「ぼ、僕がですか!?」

 

チャンミンはこれまで、男女問わずモテたという認識がなかった。

 

女性教習生たちがチャンミンを遠目に、「あの先生、かっこいいよねぇ」と噂していることに気付いていない。

 

チャンミンの恋愛対象が男性ということもあるが、彼の眼には「好きな人」しか映らないからだ

 

若者の恋愛事情を探ろうとしていたのに、自身の方に話を振られ、言葉が詰まってしまった。

 

しかも『彼女さん』とは!

 

「い、いませんよ。

フリーです、フリー!

寂しいもんですよ、はははは」

 

ムキになって否定するチャンミンに、U君は「本当ですか~?」と怪しげに目を細めた。

 

「自動車学校の先生って、出逢いがごろごろ転がっていそうなんですけどね~」

 

「ここは免許を取りに来る場所ですから。

そんな余裕は指導員にも教習生さんにもありません」

 

大嘘をつくチャンミン。

 

「こっそり付き合ってる人たち、いそうなんですけどねぇ...」

 

(どきぃ)

 

疑わし気につぶやくU君に、チャンミンは滝汗をかいていた。

 

「いるでしょ?」

「いないですよ!」

「そっかぁ、恋愛禁止でしたよね、この学校?」

 

これ以上、自身の恋愛事情を追求されたくない。

 

「まあまあ...

ほら、信号が青になりました。

発進しましょう」

 

「はい」

 

「セクハラですね」と言ったそばから、「今どきの大学生の子たちの出逢いの場所って...やっぱり合コン?」と、チャンミンは諦めず質問した。

 

「妙に食い気味の質問だなぁ」とU君は思う。

 

「どうかなぁ...。

出会い系のアプリもよく使いますよ。

コンパのメンバーもそれで募ったりするんですよ」

 

「そうなんですか...」

 

「ユノを合コンに出すと、女子の食いつきがいいから」

 

「駄目です!」

 

「え?」

 

チャンミンの大声に、U君は目を丸くしている。

 

「その気になっていない者を参加させて、もし彼のことを好きになってしまう子がいたらどうするんですか?」

 

「その時はその時で。

ユノは上手にあしらっているんで...あしらってるなんて言い方は失礼ですね。

女の子たちを傷つけないよう、やんわりとね」

 

「そうだとしても、女の子たちに失礼です...だと思います」

 

「ずいぶん、ムキになってるなぁ...」と、U君は思う。

 

「合コンにガチを求めていませんよ。

気軽な飲み気分です。

女子も怒りませんよ。

盛り上がらなければ、そのまま解散にすればいいことですし。

いい感じの子が見つからなかったら次の合コンへ期待すればいい、って感じです」

 

「なんだかスミマセンでした。

僕の時代の頃は、合コンとは本気モードだったので。

ははっ」

 

「あの~。

これで何周目ですか?

まだ廻るのでしょうか?」

 

外周コースをぐるぐる回り続けていた教習車。

 

 

デート前日、23時のユノ。

 

(今夜のバイトが終われば、せんせに会える)

 

バイト先のファミリーレストランの更衣室。

 

(ごたごたと段ボール箱が積み重り、ペーパータオルやハンドソープのストックで更衣ロッカー内のいくつかを埋めている。

小さな窓があるきりの薄暗い小部屋だが、エアコンを新調したばかりで快適だ。

制服はコックコートタイプで、厨房担当は黒の、フロア担当は赤のエプロンをする...制服に憧れて就職を希望する者はいそうにない、ありふれたデザイン)

 

制服に着替えたユノは、紙製キャップとマスクを手に厨房へのスイングドアをくぐった。

 

「ユノ君!

シフトに入ってくれて...ホント、助かるよ」

 

店長はユノの顔を見るなり、心底安心した表情になった。

 

この店はただでさえ人員不足な上、数日前にホール担当の深夜担当バイト生が辞めてしまったのだ。

 

次の新人が入るまでの穴を、ユノが埋めることとなった。

 

店長がホール全般を、ユノが調理と配膳の両方を担うこととし、2名でモーニングタイムまで踏ん張らねばならない。

 

店長は、頭の回転が速くきびきびと働くユノを大きく買っていた。

 

「卒業後はうちに就職して欲しいくらいだよ」と勧誘する店長に、ユノは曖昧ににごして逃げていた。

 

(学校を卒業したら...俺は何をしたいのだろう?)

 

自身のビジョンが明確ではないからといって、就職活動を放棄してこの誘いに甘えたくなかったからだ。

 

「困った人は放っておけない」信念が強いユノだったから、可能な限りは協力してやりたいと思うのだ。

 

店長は呼び出しベルに対応するためフロアへ、手洗いを済ませたユノは冷凍庫からミックスベジタブルの袋を取り出した。

 

ユノの勤務は、明日の早朝までだ。

 

モーニングタイムに合わせて出勤してくる者とバトンタッチしたら、店を出て向かわねばならない所がある。

 

チャンミンと駅前のカフェで合流する予定になっていた。

 

そのカフェで一緒にモーニングセットを摂ることから、2人の初デートはスタートする。

 

これから休憩時間を含めて9時間勤務。

 

客が多ければてんてこ舞いになるだろうが、その後の楽しみを思うと頑張れる。

 

(チャンミンせんせー。

楽しみです)

 

熱した鉄板の上でミックスベジタブルを炒めるユノは、ひとりくすくすと笑っていた。

 

(つづく)

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