~チャンミン~
ふざけたユンホさんに、ベッドの上に放り投げられるかと思った。
ぽーいって。
「ひどい!」と憤慨した僕に、「びっくりした?」ってユンホさんは、おどけた笑いをしてみせそうで。
だってユンホさんは、たまーに不意打ちに、悪戯心を発揮して僕を驚かす人だから。
(あれ?)
ところが、真っ白なシーツの上に、お尻、脚、背中、頭と順にそっと、ゆーっくり下ろされて。
その時、僕の心にずんと、ユンホさんの愛情が響いた。
~ユノ~
ずっと我慢してきたんだろうな。
時間がかかってごめんな。
チャンミンと関係を深めることに怖気づき、自分が決めたのではない良識に縛られて、チャンミンが差し出した手を素直に握れなかった。
チャンミンと初めて会ったあの時も、心も体もガチガチに強張らせていた。
でも、チャンミンが時空を超えて残した一枚のメモで、せき止めていたものが消えた。
チャンミンの穏やかだけど、芯の熱い愛情に心も身体もほぐれたんだ。
チャンミンを包んでいたバスタオルをはがす。
仰向けになったチャンミンは、両腕をさし伸ばして俺を呼ぶ。
両膝で体重を逃しながら、ぴたりと肌と肌とを密着させた。
真下に迫るチャンミンの唇に、俺は顔を近づける。
~チャンミン~
全身のすべての窪みと突起に、ユンホさんの細くて長い指が滑り込み、手の平で撫でられると、じんとした痺れが走る。
僕の反応を確かめながらの愛撫は、決して急がない。
全身くまなく、ついばむように吸われると、うずいて思わず声が出る。
「可愛い声」
そう言って、ユンホさんの手が僕の肌をさわさわとかすめながら、触れるか触れないかのタッチで下りていく。
繊細な指のうごめきに合わせて、腰が震えて浮き上がった。
僕の中を探りながら、内ももに口づける。
指と唇だけの愛撫だけじゃ物足りなくなってきたとき、僕の耳元に唇を寄せて「いい?」、と彼は囁いた。
僕は「うん」と答える。
僕はもう、ユンホさんとひとつになりたくて仕方がない。
じれったくなるほどゆっくりと、ユンホさんが入ってきた。
奥深くまで届くと、その圧迫感に悲鳴のような喘ぎがこぼれる。
ユンホさんの首に力いっぱいしがみついた。
腰の動きは最初はゆっくりと、次第に速度を増す。
ゆるゆると動かしていたかと思うと、深く突き立てられて、僕の目の前は真っ白になった。
ユンホさんの背中に僕の爪がくいこんだ。
ユンホさんも気持ちよさそうで、僕の心は幸福で満たされた。
熱くて湿った吐息が喉元にかかる。
大きく動くたび、ユンホさんの喉からかすれた呻きが漏れた。
背中にまわした手が、ユンホさんの汗で滑る。
ぐいっと腕を引っ張られ、あぐらをかいた彼の上にまたがるように乗せられた。
ユンホさんと向き合う格好になり、今度は真下から突き上げられる。
汗で濡れた互いの肌がぬるぬると滑り、吸い付くように密着した。
念入りな愛撫と、緩急つけた揺さぶりで、息ができない。
僕の中がユンホさんで満たされる。
ああ、酸素が足りない。
この人が好きだ、と心の奥底から思った。
僕はもう、とろとろです。
僕の背中に覆いかぶさっていたユンホさんのしなやかな腰がぶるりと痙攣したのち、
汗まみれの熱々な横顔が、僕の肩に降ってきた。
~ユノ~
「チャンミン...タフだな...」
俺は胸を大きく上下させ、乱れた呼吸の合間に「俺は...3回が...限界...」と途切れ途切れ言った。
「『恥ずかしい恥ずかしい』って連呼してたくせに...ギャップが凄いな」
「今までの僕は、いろいろと遠慮してましたからね。
忘れてませんか?
僕らは『婚約中』なんですよ」
チャンミンは鼻の上までシーツに埋もれながら、こう言ったのだ。
「...そう言えば...!」
正直に言って、『プロポーズ』イコール『結婚』だと結び付けていなかった。
俺の過去も姪のあーちゃんも、全部ひっくるめて受け止める覚悟を、プロポーズという形で見せてくれた。
その心意気が後ろ向きな俺の心に喝を入れ、深い愛情がカサカサな心に注ぎこまれたおかげで、この恋に向かう姿勢を前向きにした。
今はまだ、実感がないだけ。
「ひどいですね」
『婚約中』の言葉に照れた俺は、チャンミンの鼻をつまんだ。
「やだ。
ブサイクな顔になる」
「イチャイチャしてるんだぞ。
ホントは楽しいんだろ?」
チャンミンの両ほほをにゅうっと、左右に引っ張った。
「今どきこんなカップルは滅多にいませんよね。
僕らときたら、全くもって...奥ゆかしいですよね」
「確かに」
チャンミンの頬から手を離して、クスクスと笑った。
「あーちゃんがいるから、こんな風にゆっくりイチャイチャできませんからね。
あ、誤解しないでくださいよ。
あーちゃんが邪魔って意味じゃないですから!」
「わかってる」
「たまにしかできないから、こういう時間は貴重です」
俺は身体を起こすと両脚を床に降ろし、ベッドに横たわったままのチャンミンを振り向いた。
「貴重ですよ...うんうん」
しみじみとした、チャンミンの言い方が可笑しかった。
~チャンミン~
僕の目前にさらされたユンホさんの背中に、見つけてしまった。
僕が爪立ててしまった、夜の気配漂うひっかき傷。
内緒にしておこう。
シャワーが沁みてヒリヒリしたら、どれだけ僕が満足していたのかを知ってニヤニヤしてね。
「喉が渇いたな。
チャンミンも喉がカラカラだろ?」
そう言ってユンホさんは立ち上がると、床に落ちたバスタオルを腰に巻いた。
「チャンミン、いっぱい声を出したからなあ?」
「恥ずかしいことを、口にしないでください!」
広い肩幅からぎゅっと引き締まった腰までのラインに、僕は熱い視線を注ぐ。
この人はなんて美しい人なんだろう。
その後ろ姿にあらためて、惚れた。
「...僕は、ユンホさんたちと一緒に暮らしたら、したいことがいっぱいあります。
僕はコーヒーを淹れるのが、下手みたいです。
ユンホさんが淹れてくれたコーヒーが、毎朝飲みたいです」
ベッドに滑り込んできたユンホさんは、僕のお腹に腕をまわし脇腹に鼻を押しつけた。
「俺がコーヒーを淹れるから、チャンミンは弁当を作って」
僕の脇腹に唇を押しつけたまま喋るから、くすぐったくてしかたがない。
「気が向いたら、海苔で名前を書いてあげますよ、あの時みたいに。
あーちゃんは嫌がるでしょうね、絶対に」
「嫌がるだろうね」
鼻にしわを寄せてユンホさんは、目を三日月形に細めた笑顔で僕を見た。
目尻がキュッと上がった、とても可愛い笑顔。
「泣きたい時があったら、また僕の胸を貸してあげますね」
僕はこぶしでとんと胸を叩いた。
「ただし。
あの時の僕とは違うから、襲いますけどね」
「襲うのは、俺の方」
膨れ上がった涙で、ユンホさんの顔がにじむ。
「あーもー。
チャンミンの方が先に泣いてどうするんだよ?」
僕の首の下にユンホさんの腕が滑りこんで、ちょっと強引に口づけられた。
「もう一回、襲わせて...」
こじあけられた隙間からユンホさんの舌が侵入し、僕は再び息ができなくなる。
力強い腕でウエストをさらわれひっくり返された僕は、仰向けになったユンホさんの上に乗っていた。
ユンホさんの目が潤んでいた。
「僕はあなたが大好きです」
~ユノ~
「俺はチャンミンが大好きだ」
チャンミンの火照った頬を、宝物を扱うかのように優しく包みこんだ。
甘い甘いキスを、ありったけの愛情を込めて。
未来からのチャンミンのメッセージを受け取らなければ、彼からのプロポーズに『NO』と答えていた。
あの頃、チャンミンと送った甘い生活を思い出していた。
どんなからくりを使って、俺の耳元に囁きにこられたのか。
「『YES』ですよ!」
不思議なことは、不思議なままにしておこう。
俺たちは「好き」の応酬をさっきから繰り返している。
甘いひととき。
甘い言葉。
甘いキス。
甘い未来。
今日という日。
2月18日。
俺たちの記念日。
俺とあーちゃん...そして大好きな大好きなチャンミン。
俺たちの甘い甘い生活が、これから始まる。
(おしまい)
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