(33)TIME

 

 

 

「シヅクは動かないで!手を離せ!」

「お、オーケー」

チャンミンの鋭い言葉に驚いたシヅクは、マフラーからこわごわ手を離した。

(チャンミンの奴、

もし不器用だったら、流血ものだ)

チャンミンは、シヅクの耳元に手を伸ばす。

チャンミンの大きな手が、やさしくシヅクの耳たぶに添えられる。

シヅクは、チャンミンに触れられて、ぞくりとする。

チャンミンは、シヅクが焦ったせいで、複雑に絡まった糸を、

ゆっくり、少しずつ解いていく。

シヅクの耳を傷つけないように、落ち着いて、丁寧に...。

「じっとしてて」

首元にかかるチャンミンの息と、自分の耳たぶに触れる彼の指の感触に、緊張するシヅク。

​(近い、近い!)

振り返れないから、チャンミンの顔は見えないけど、きっと真剣な表情をしているのだろう。

(めちゃくちゃ、ドキドキするんですけど!)

シヅクの全神経が、チャンミンがつまんでいる、自分の耳たぶに集中していた。

「動かないで、シヅク」

​(もう無理!耐え切れん!)

「だから、動くな!」

「...だって、くすぐったい」

「耳たぶがちぎれるよ」

​「無理だったらいいよ。

絡んだとこをハサミで切っちゃおうよ」

シヅクが耐え切れずに言った途端、ふっと耳元が解放された。

​「取れた!」

シヅクは、すくんで硬直していた身体の力をふっと解く。

「はぁぁぁ」

(暑い...汗かいた...)

シヅクは、ブラウスの襟元をつかんでパタパタとあおいだ。

(めちゃくちゃ、緊張した!)

「助かった...」

(これくらいでドギマギするなんて、思春期かよ!)

「ありがとね」

シヅクはマフラーをするりと外す。

(チャンミンといると、私までウブになってしまう)

シヅクは照れ隠しに、ゴホンと咳ばらいをする。

「チャ、チャンミン、器用だね」

​シヅクは、チャンミンを振り返った。

「ありがとう」と言いかけた。

...シヅクの言葉は、塞がれた。

斜めに傾けられた、チャンミンの頬。

間近に迫った、チャンミンの閉じたまぶた。​